大槻雅章税理士事務所

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№169 判例評釈:個人番号(マイナンバー)利用差止等請求事件

2023-03-31 | ブログ
2023.03.31

今回は、行政機関等が個人番号(マイナンバー)を利用して特定個人情報の利用、提供等をする行為が、憲法13条の保障する個人のプライバシー権を侵害するものではないとする最高裁の判決があったので紹介します(令和4年(オ)第39号 令和5年3月9日 第一小法廷判決)。

Ⅰ.事実の概要

本件は、個人番号の利用、提供等をする行為は、憲法13条の保障するプライバシー権を違法に侵害するものであると主張して、上告人らの個人番号の利用、提供等の差止め及び保存されている上告人らの個人番号の削除を求めるとともに、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料等の支払を求めた事案である。

Ⅱ.判旨

1.正当な行政目的の範囲内で行われていること

憲法13条は、国民の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものであり、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するものと解される(最高裁平成19年(オ)第403号、同年(受)第454号同20年3月6日第一小法廷判決・民集62巻3号665頁)。

そこで、行政機関等が番号利用法に基づき特定個人情報の利用、提供等をする行為が上告人らの自由を侵害するものであるか否かを検討するに、同法は、個人番号等の有する対象者識別機能を活用して、情報の管理及び利用の効率化、情報連携の迅速化を実現することにより、行政運営の効率化、給付と負担の公正性の確保、国民の利便性向上を図ること等を目的とするものであり、正当な行政目的を有するものということができる。

そして、番号利用法は、個人番号の利用範囲について、社会保障、税、災害対策及びこれらに類する分野の法令又は条例で定められた事務に限定することで、個人番号によって検索及び管理がされることになる個人情報を限定するとともに、特定個人情報について目的外利用が許容される例外事由を一般法よりも厳格に規定している。

さらに、番号利用法は、特定個人情報の提供を原則として禁止し、制限列挙した例外事由に該当する場合にのみ、その提供を認めるとともに、上記例外事由に該当する場合を除いて他人に対する個人番号の提供の求めや特定個人情報の収集又は保管を禁止するほか、必要な範囲を超えた特定個人情報ファイルの作成を禁止している。

以上によれば、番号利用法に基づく特定個人情報の利用、提供等は、正当な行政目的の範囲内で行われているということができる。

2.個人情報の漏えいや目的外利用等の危険性について

もっとも、特定個人情報の中には、個人の所得や社会保障の受給歴等の秘匿性の高い情報が多数含まれ、理論上は、対象者識別機能を有する個人番号を利用してこれらの情報の集約や突合を行い、個人の分析をすることが可能であるため、これらの情報が芋づる式に外部に流出することや、行政機関等が番号利用法上許される範囲を超えて他の行政機関等から特定の個人に係る複数の特定個人情報の提供を受けるなどしてこれらを突合することにより、特定個人情報が法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じ得るものである。

しかし、番号利用法は、個人番号の利用や特定個人情報の提供について厳格な規制を行うことに加えて、特定個人情報の管理について、特定個人情報の漏えい等を防止し、特定個人情報を安全かつ適正に管理するための種々の規制を行うこととしており、これらに違反する行為のうち悪質なものについて刑罰の対象とし、一般法における同種の罰則規定よりも法定刑を加重するなどするとともに、独立した第三者機関である委員会に種々の権限を付与した上で、特定個人情報の取扱いに関する監視、監督等を行わせることとしている。

また、番号利用法の下でも、個人情報が共通のデータベース等により一元管理されるものではなく、各行政機関等が個人情報を分散管理している状況に変わりはないところ各行政機関等の間で情報提供ネットワークシステムによる情報連携が行われる場合には、総務大臣による同法21条2項所定の要件の充足性の確認を経ることとされており、情報の授受等に関する記録が一定期間保存されて、本人はその開示等を求めることができる。のみならず、上記の場合、システム技術上、インターネットから切り離された行政専用の閉域ネットワーク内で、個人番号を推知し得ない機関ごとに異なる情報提供用個人識別符号を用いて特定個人情報の授受がされることとなっており、その通信が暗号化され、提供される特定個人情報自体も暗号化されるものである。以上によれば上記システムにおいて特定個人情報の漏えいや目的外利用等がされる危険性は極めて低いものということができる。

さらに、個人番号はそれ自体では意味のない数字であること、情報提供ネットワークシステムにおいても特定の個人を識別するための符号として個人番号が用いられていないこと等から、仮に個人番号が漏えいしたとしても、直ちに各行政機関等が分散管理している個人情報が外部に流出するおそれが生ずるものではないし、個人番号が漏えいして不正に用いられるおそれがあるときは、本人の請求又は職権によりこれを変更するものとされている。

3.結論

これらの諸点を総合すると、番号利用法に基づく特定個人情報の利用、提供等に関して法制度上又はシステム技術上の不備があり、そのために特定個人情報が法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じているということもできない。

そうすると、行政機関等が番号利用法に基づき特定個人情報の利用、提供等をする行為は、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表するものということはできない。

したがって、上記行為は、憲法13条の保障する個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を侵害するものではないと解するのが相当である。また、以上に述べたところからすれば、被上告人が番号利用法に基づき上告人らの特定個人情報の利用、提供等をする行為は上告人らのプライバシー権を違法に侵害するものであるとする上告人らの主張にも理由がないものというべきである。

(完)