2019.01.20
平成28年4月1日以後に開始する各事業年度において、法人が役員に支給する給与のうち定期同額給与、事前確定届出給与又は業績連動給与のいずれにも該当しない額は損金の額に算入されません。
また、法人がその役員に対して支給する給与の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額(法人税法施行令第70条第1号)は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入されません(法人税法第34条第2項)。
そこで今回は、役員給与が過大であるとして損金算入を否認された国税不服審判所の裁決事例をいくつか検討したいと思います。
1.日本標準産業分類に従って同業類似法人を抽出することの合理性
(平成29年4月25日裁決要旨)
法人税法第34条第2項の規定の趣旨は、課税の公平性を確保する観点から、職務執行の対価としての相当性を確保し、役員給与の金額決定の背後にある恣意性の排除を図るという考え方によるものと解される。
そして、法人税法施行令第70条第1号は、上記の規定を受けて、「不相当に高額な部分の金額」を、役員に対して支給した給与の額のうち、①当該役員の職務の内容、内国法人の収益及びその使用人に対する給与の支給の状況、同業類似法人の役員に対する給与の支給の状況等に照らし、役員給与相当額を超える部分の金額(同号イ)、②定款の規定又は株主総会等の決議により定められている役員給与の支給限度額を超える部分の金額(同号ロ)のいずれか多い金額である旨規定している。
日本標準産業分類が広く社会に認められた客観的な分類基準であり、・・・原処分庁が、日本標準産業分類の分類項目表に従って、「小分類542-自動車卸売業」に該当する法人から本件同業類似法人を抽出したことには合理性があると認められる。・・・しかしながら、当審判所の調査及び審理の結果によれば、H社については、自動車の卸売を一部行うものの、主として自動車用品の小売業を営む法人であると認められ、請求人の業種と類似性を有するとは認められないから、H社を本件同業類似法人から除外することが相当である。
2.同業類似法人の抽出基準
(平14.6.13裁決、裁決事例集No.63 309頁)
原処分庁は、類似法人の役員に対して支払われた報酬の額との比較検討において、類似法人の選定に当たり、①請求人の所在地を管轄するX税務署並びに近隣署のJ税務署、K税務署及びL税務署の管内に本店が所在する法人であること、②建設業を営んでいる法人であること、③売上金額が請求人の売上金額の0.5倍以上2倍以内の法人であること、④非常勤役員に対する報酬が支払われている法人であることを抽出基準としていることが認められるところ、①②及び③の抽出基準については、これを不相当とする理由は特に認められないものの、④の抽出基準については当該役員が常勤の役員と認められることから、原処分庁の採用した類似法人は、採用することができない。
3.労務の対価として適正な報酬額の算定方法
(平20.11.14、裁決事例集No.76 285頁)
法人税法第34条・・・の規定の趣旨は、役員報酬は労務の対価として企業会計上は損金に算入されるべきであるところ、法人によっては、実際は賞与に当たるものを報酬の名目で役員に給付する傾向があるため、そのような隠れた利益処分に対処し、課税の公平を確保しようとするところにある。
本件役員報酬額は、・・・平成16年1月期を100とすると、本件各事業年度のすべてが218.2となることから、本件役員報酬額の伸び率は、請求人の売上金額、売上総利益及び使用人一人当たりの平均給与支給額の伸び率と比較して、相当高い伸び率であると認められる。
適正報酬額の算定方法は、請求人と同種の事業を営み事業規模も同程度の類似法人から職務内容の類似する役員報酬の額の支給事例を抽出した上、その役員報酬の額と本件役員報酬額を比較検討して、本件役員報酬額の相当性を判断するものであるところ、適正報酬額の算定において、抽出された類似法人の役員報酬の額の平均値を算出することによって類似法人間に通常存在する諸要素の差やその個々の特殊性が捨象され、より平準化された数値が得られるのであるから、類似法人の役員報酬の額の支給事例の抽出が合理的に行われる限り、法人税法及び法人税法施行令の規定の趣旨に合致するものであるということができる。
4.まとめ
以上を総じて、課税庁が「同業類似法人」の客観的な分類基準として日本標準産業分類の分類項目表に従って同業類似法人を抽出することに合理性を認めています。
また、類似法人は、①管轄税務署並びに近隣の税務署管内に本店が所在する法人、②同業種を営んでいる法人、③売上金額が0.5倍以上2倍以内の法人、④常勤か非常勤の区別を抽出基準とされています。
そして、役員給与の伸び率が、当該法人の売上金額、売上総利益及び使用人一人当たりの平均給与支給額の伸び率と比較して、労務の対価として適正であるかどうか判定されます。
私見としては、課税庁側が持っている日本標準産業分類の業種別・規模別の役員給与のデータを開示する必要があると考えます。
(完)
平成28年4月1日以後に開始する各事業年度において、法人が役員に支給する給与のうち定期同額給与、事前確定届出給与又は業績連動給与のいずれにも該当しない額は損金の額に算入されません。
また、法人がその役員に対して支給する給与の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額(法人税法施行令第70条第1号)は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入されません(法人税法第34条第2項)。
そこで今回は、役員給与が過大であるとして損金算入を否認された国税不服審判所の裁決事例をいくつか検討したいと思います。
1.日本標準産業分類に従って同業類似法人を抽出することの合理性
(平成29年4月25日裁決要旨)
法人税法第34条第2項の規定の趣旨は、課税の公平性を確保する観点から、職務執行の対価としての相当性を確保し、役員給与の金額決定の背後にある恣意性の排除を図るという考え方によるものと解される。
そして、法人税法施行令第70条第1号は、上記の規定を受けて、「不相当に高額な部分の金額」を、役員に対して支給した給与の額のうち、①当該役員の職務の内容、内国法人の収益及びその使用人に対する給与の支給の状況、同業類似法人の役員に対する給与の支給の状況等に照らし、役員給与相当額を超える部分の金額(同号イ)、②定款の規定又は株主総会等の決議により定められている役員給与の支給限度額を超える部分の金額(同号ロ)のいずれか多い金額である旨規定している。
日本標準産業分類が広く社会に認められた客観的な分類基準であり、・・・原処分庁が、日本標準産業分類の分類項目表に従って、「小分類542-自動車卸売業」に該当する法人から本件同業類似法人を抽出したことには合理性があると認められる。・・・しかしながら、当審判所の調査及び審理の結果によれば、H社については、自動車の卸売を一部行うものの、主として自動車用品の小売業を営む法人であると認められ、請求人の業種と類似性を有するとは認められないから、H社を本件同業類似法人から除外することが相当である。
2.同業類似法人の抽出基準
(平14.6.13裁決、裁決事例集No.63 309頁)
原処分庁は、類似法人の役員に対して支払われた報酬の額との比較検討において、類似法人の選定に当たり、①請求人の所在地を管轄するX税務署並びに近隣署のJ税務署、K税務署及びL税務署の管内に本店が所在する法人であること、②建設業を営んでいる法人であること、③売上金額が請求人の売上金額の0.5倍以上2倍以内の法人であること、④非常勤役員に対する報酬が支払われている法人であることを抽出基準としていることが認められるところ、①②及び③の抽出基準については、これを不相当とする理由は特に認められないものの、④の抽出基準については当該役員が常勤の役員と認められることから、原処分庁の採用した類似法人は、採用することができない。
3.労務の対価として適正な報酬額の算定方法
(平20.11.14、裁決事例集No.76 285頁)
法人税法第34条・・・の規定の趣旨は、役員報酬は労務の対価として企業会計上は損金に算入されるべきであるところ、法人によっては、実際は賞与に当たるものを報酬の名目で役員に給付する傾向があるため、そのような隠れた利益処分に対処し、課税の公平を確保しようとするところにある。
本件役員報酬額は、・・・平成16年1月期を100とすると、本件各事業年度のすべてが218.2となることから、本件役員報酬額の伸び率は、請求人の売上金額、売上総利益及び使用人一人当たりの平均給与支給額の伸び率と比較して、相当高い伸び率であると認められる。
適正報酬額の算定方法は、請求人と同種の事業を営み事業規模も同程度の類似法人から職務内容の類似する役員報酬の額の支給事例を抽出した上、その役員報酬の額と本件役員報酬額を比較検討して、本件役員報酬額の相当性を判断するものであるところ、適正報酬額の算定において、抽出された類似法人の役員報酬の額の平均値を算出することによって類似法人間に通常存在する諸要素の差やその個々の特殊性が捨象され、より平準化された数値が得られるのであるから、類似法人の役員報酬の額の支給事例の抽出が合理的に行われる限り、法人税法及び法人税法施行令の規定の趣旨に合致するものであるということができる。
4.まとめ
以上を総じて、課税庁が「同業類似法人」の客観的な分類基準として日本標準産業分類の分類項目表に従って同業類似法人を抽出することに合理性を認めています。
また、類似法人は、①管轄税務署並びに近隣の税務署管内に本店が所在する法人、②同業種を営んでいる法人、③売上金額が0.5倍以上2倍以内の法人、④常勤か非常勤の区別を抽出基準とされています。
そして、役員給与の伸び率が、当該法人の売上金額、売上総利益及び使用人一人当たりの平均給与支給額の伸び率と比較して、労務の対価として適正であるかどうか判定されます。
私見としては、課税庁側が持っている日本標準産業分類の業種別・規模別の役員給与のデータを開示する必要があると考えます。
(完)