大槻雅章税理士事務所

http://otsuki-zeirishi.server-shared.com/

№129 民法:特別受益

2019-12-01 | ブログ
2019.12.01

前回は非課税となる贈与の一つとして「相続時精算課税制度」について解説しましたが、相続時精算課税を選択して贈与を受けた財産は、贈与者が亡くなった時に取得した財産(つまり被相続人の遺産総額)に合算して相続税額を算出します。

この考え方は、民法の特別受益の借用概念ですが、今回は民法の特別受益についてまとめてみました。

1.特別受益とは

民法903条1項は特別受益者の相続分に関して、「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分(法定相続分)の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。」と規定しています。

ただし、民法の規定では、代襲者(被相続人よりも先に亡くなった相続人の代わりに相続する子など)に対する特別受益は、代襲原因発生前になされた贈与等については代襲者の特別受益に該当せず、代襲原因発生後になされた贈与について代襲者への特別受益として扱うことになっています。

※相続税法の「相続時精算課税制度」は代襲原因発生前になされた贈与ですが、相続財産とみなして相続税額を算定します。また、民法では相続人が特別受益にあたる贈与を受けた場合には、年数に制限なく相続財産に加算されますが、相続税法では、相続開始前3年以内に贈与により取得した財産のみ被相続人の相続財産に加算して相続税が課税されます。

※ただし、№128で解説した教育等資金の贈与、結婚・子育て資金の贈与、住宅取得等資金の贈与は、たとえ3年以内の贈与であったとしても相続財産に加算されません。

また、相続人に対する贈与を、当該相続人の配偶者や親族などの名義を利用してなされた場合には、当該相続人に対する贈与(特別受益)となる可能性があります。

2.特別受益と遺留分減殺請求の関係

兄弟姉妹以外の相続人には相続財産の一定割合を取得できる権利(下記①②)があるので(民法1028条)、遺留分減殺請求は、兄弟姉妹を除く法定相続人に保障された最低限の遺産の取り分を確保する手続きです。

①直系尊属のみが相続人である場合は、被相続人の財産の三分の一
②前号に掲げる場合以外の場合は、被相続人の財産の二分の一

遺留分を侵害された遺留分権利者は、実際に侵害されている財産の限度で、侵害の相手方に対し「遺留分を返してください」という遺留分減殺請求をすることができます。

ただし、特別受益は遺留分算定の基礎財産に含まれますので、遺留分権利者本人が特別受益を受けている場合の遺留分減殺請求額は減少することになります。

したがって、遺留分減殺請求を受ける可能性がある相続人は、その遺留分権利者に対する被相続人からの贈与、高額な貴金属、贅沢な生活費などの証拠として、請求書・領収書などの資料を相続開始前に集めておく必要があります。

また、遺留分権利者は返還してもらう財産について指定権がないので、例えば不動産の返還を求めても現金を交付される場合もあります。

※法改正(2019年7月1日施行)で、遺留分減殺請求は「遺留分侵害額請求」と呼ばれるようになりましたが、ここでは旧来からなじみのある遺留分減殺請求と表現しました。

(完)