2020.02.02
今回は、遺産分割前の相続預金の払戻し制度について解説します。
1.相続預金の払戻し制度の施行
相続開始時の被相続人名義の預貯金(以下、「相続預金」という)は、家庭裁判所が仮取得を認めた金額以外は、遺産分割が終了するまで各相続人単独の払戻しができませんでした。
しかし、各相続人が当面の生活費や葬儀費用の支払いなどのためにお金が必要になった場合、遺産分割が終了する前に相続預金の払戻しが受けられる「相続預金の払戻し制度」が2019年7月1日に施行されました。
改正民法は以下のとおりです(909条の2)。
「各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。」
2.各相続人が単独で払戻しできる額
この制度により、各相続人は、次の算式の金額を150万円上限として、単独で単独で払戻しを受けることができます(改正民法909条の2前段)。
単独払戻し可能額=相続開始時の預貯金×1/3×払戻しを行う相続人の法定相続分
3.具体的計算例
計算例1.
相続人が長男、次男の2名、相続預金額が普通預金1,200万円の場合、長男、次男の法定相続分はそれぞれ2分の1ですから、
長男が単独で払戻しできる額は、1,200万円×1/3×1/2=200万円、200万円≧150万円
∴150万円となります。
計算例2.
上記の例で、普通預金150万円、定期預金600万円の場合、
長男が単独で払戻しできる額は、(普通預金150万円×1/3×1/2)+(定期預金600万円×1/3×1/2)=125万円になります。
4.注意事項
ポイント1.
相続預金が、遺贈や「相続させる」旨の遺言(改正民法では「特定財産承継遺言」という)の対象である場合、当該預貯金は払い戻しの範囲から外されます。
ただし、当該相続預金が遺贈や特定財産承継遺言の対象であるという事実を、その権利者が金融機関に主張する前に行われた払い戻しが無効となることはありません。
ポイント2.
単独で払戻しができる額は、預金の契約単位ごと、つまり、普通預金であれば口座ごと、定期預金であれば明細1本ごとに計算します(口座・明細基準)。
ポイント3.
一人の相続人が先に払い出しをして相続預金の残高が減少した場合でも、次の相続人の払戻し可能額は、相続開始時の預貯金を基準として計算します。
ポイント4.
同一の金融機関(同一の金融機関の複数の支店に相続預金がある場合はその全支店)からの払戻しは150万円が上限になります(民法909条の2に規定する法務省令で定める額を定める省令)。
つまり、各相続人は「相続預金の額×1/3×法定相続分」かつ「150万円以内」で払戻しができます。
ポイント5.
150万円の限度額は金融機関ごとの限度額であるため、複数の金融機関に相続預金がある場合には、それぞれの金融機関ごとに150万円まで払い戻しができます。
ポイント6.
どの金融機関の相続預金について払い戻しをするかは、各相続人が選択できます。
ポイント7.
資金使途は問われません。したがって、金融機関は、払い戻しの請求があった場合、その資金使途について確認する必要はありません。
ポイント8.
単独で払い戻しをした相続人は、遺産の一部分割により取得したものとみなされ、後の遺産分割時に清算されます(改正民法909条の2後段)。
5.必要書類
この制度を利用するに当たっては、本人確認書類に加え次の書類が必要となります。
①被相続人の除籍謄本、戸籍謄本(出生から死亡までの連続したもの)
②相続人全員の戸籍謄本
③預金の払戻しを希望する相続人の印鑑証明書
(完)
今回は、遺産分割前の相続預金の払戻し制度について解説します。
1.相続預金の払戻し制度の施行
相続開始時の被相続人名義の預貯金(以下、「相続預金」という)は、家庭裁判所が仮取得を認めた金額以外は、遺産分割が終了するまで各相続人単独の払戻しができませんでした。
しかし、各相続人が当面の生活費や葬儀費用の支払いなどのためにお金が必要になった場合、遺産分割が終了する前に相続預金の払戻しが受けられる「相続預金の払戻し制度」が2019年7月1日に施行されました。
改正民法は以下のとおりです(909条の2)。
「各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。」
2.各相続人が単独で払戻しできる額
この制度により、各相続人は、次の算式の金額を150万円上限として、単独で単独で払戻しを受けることができます(改正民法909条の2前段)。
単独払戻し可能額=相続開始時の預貯金×1/3×払戻しを行う相続人の法定相続分
3.具体的計算例
計算例1.
相続人が長男、次男の2名、相続預金額が普通預金1,200万円の場合、長男、次男の法定相続分はそれぞれ2分の1ですから、
長男が単独で払戻しできる額は、1,200万円×1/3×1/2=200万円、200万円≧150万円
∴150万円となります。
計算例2.
上記の例で、普通預金150万円、定期預金600万円の場合、
長男が単独で払戻しできる額は、(普通預金150万円×1/3×1/2)+(定期預金600万円×1/3×1/2)=125万円になります。
4.注意事項
ポイント1.
相続預金が、遺贈や「相続させる」旨の遺言(改正民法では「特定財産承継遺言」という)の対象である場合、当該預貯金は払い戻しの範囲から外されます。
ただし、当該相続預金が遺贈や特定財産承継遺言の対象であるという事実を、その権利者が金融機関に主張する前に行われた払い戻しが無効となることはありません。
ポイント2.
単独で払戻しができる額は、預金の契約単位ごと、つまり、普通預金であれば口座ごと、定期預金であれば明細1本ごとに計算します(口座・明細基準)。
ポイント3.
一人の相続人が先に払い出しをして相続預金の残高が減少した場合でも、次の相続人の払戻し可能額は、相続開始時の預貯金を基準として計算します。
ポイント4.
同一の金融機関(同一の金融機関の複数の支店に相続預金がある場合はその全支店)からの払戻しは150万円が上限になります(民法909条の2に規定する法務省令で定める額を定める省令)。
つまり、各相続人は「相続預金の額×1/3×法定相続分」かつ「150万円以内」で払戻しができます。
ポイント5.
150万円の限度額は金融機関ごとの限度額であるため、複数の金融機関に相続預金がある場合には、それぞれの金融機関ごとに150万円まで払い戻しができます。
ポイント6.
どの金融機関の相続預金について払い戻しをするかは、各相続人が選択できます。
ポイント7.
資金使途は問われません。したがって、金融機関は、払い戻しの請求があった場合、その資金使途について確認する必要はありません。
ポイント8.
単独で払い戻しをした相続人は、遺産の一部分割により取得したものとみなされ、後の遺産分割時に清算されます(改正民法909条の2後段)。
5.必要書類
この制度を利用するに当たっては、本人確認書類に加え次の書類が必要となります。
①被相続人の除籍謄本、戸籍謄本(出生から死亡までの連続したもの)
②相続人全員の戸籍謄本
③預金の払戻しを希望する相続人の印鑑証明書
(完)