大槻雅章税理士事務所

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№98 未登記不動産を相続した場合の遺産分割協議

2017-03-17 | ブログ
2017.1.31 未登記不動産を相続した場合の遺産分割協議

今回は、未登記の不動産を相続した場合の遺産分割について質問があったので解説します。


(1)遺産分割協議をするタイミング

民法は、「遺産の分割は相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。」と定め(909条)、また、「共同相続人は、被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。」と定めています(907条)。

そして、最高裁の判決(H2.9.27 民集44巻6号995頁)では、「共同相続人は、既に成立している遺産分割協議につき、その全部又は一部を全員の合意により解除した上、改めて分割協議を成立させることができる」とし、遺産分割のやり直しができることを判示しています。

また、909条のただし書(第三者の権利保護)に関し、「相続財産中の不動産につき、遺産分割により権利を取得した相続人は、登記を経なければ、分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対し、法定相続分をこえる権利の取得を対抗することができない。」という最高裁の判決もあります(S46.1.26頁  民集 第25巻1号90頁)。

このように、未登記の不動産を相続した場合には、相続人全員の合意により、相続開始の時にさかのぼって遺産分割ができますが、相続開始後、遺産分割までの間に登場した第三者の権利主張に対抗するために登記が必要となるわけです。


(2)遺産分割の方法

遺産分割の方法として「現物分割」「代償分割」「換価分割」の三つの方法があります。

相続財産中の不動産に限定すると、「現物分割」とは個々の不動産を共有や分筆の方法で個々の相続人に分割するという原則的な方法です。

「代償分割」とは不動産をもらう代わりにそれに見合う金銭等を他の相続人に交付する方法です。

「換価分割」とは不動産を売却して、譲渡益である金銭を相続人の間で分配する方法です。

そこで、一筆の不動産を相続人2人が公平に遺産分割する方法を検討します。

①現物分割の場合

相続人Aと相続人Bの現物分割の場合は、遺産分割協議書で「AとBは不動産を各1/2ずつ相続する。」と取り決めます。

例えば、時価1億円(被相続人の取得価額4千万円、相続税評価額8千万円)の不動産の場合、AとBの相続税の課税価額はそれぞれ4千万円(評価額8千万円÷2人)となります。

この場合、AとBは相続後、それぞれの意思でいつでも不動産を売却できます。


②代償分割の場合

相続人Aと相続人Bの代償分割の場合は、遺産分割協議書で「Aが不動産を単独で相続する。その代償として、AはBに不動産時価の1/2の現金を支払う。」と取り決めます。

例えば、時価1億円(被相続人の取得価額4千万円、相続税評価額8千万円)の不動産をAが全部相続し、代償としてBに現金5千万円(時価1億の1/2)を支払うと、

Aの相続課税価額 8千万円-5千万円×8千万円/1億円=4千万円

Bの相続課税価額 5千万円×8千万円/1億円=4千万円

というようにAとBの相続税の課税価額は4千万円になります。

この場合、AはAの名義に相続登記をした上で不動産を売却するので、売却額1億円-取得価額4千万円=譲渡益6千万円に所得税・住民税が分離課税されます。ただし、Aが居住している場合は特別控除3千万円を差し引いた3千万円に対して課税されます。


③ 換価分割の場合

相続人Aと相続人Bの換価分割の場合は、遺産分割協議書で「Aが単独で相続した後に不動産を売却し、その譲渡益をAとBが1/2ずつ取得する。」と取り決めます。

評価額に対する分配割合に応じた金額が、各相続人の課税価額となるので、上記②代償分割の例と同じように、AとBの相続税の課税価額は4千万円になります。

この場合、当該不動産を売却した時にAとBには所得税・住民税が分離課税されます。上記②の例で譲渡益が6千万円でAは居住用、Bは居住用でない場合、Aの譲渡益3千万円には特別控除3千万円が適用されるので課税なし、Bは特別控除がないので3千万円に対して課税されます。

さらに、「小規模宅地等の特例(№96参照)」や「相続した一定の空き家を譲渡した場合の譲渡所得の特別控除(№90参照)」を適用できるか否かで、各相続人の納税額は異なってきます。

このように相続税、所得税、住民税等の税金を含めて考えると、遺産分割の方法によって相続人の間に不公平が生じることになります。

(完)