大槻雅章税理士事務所

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№167 判例評釈:ロータリークラブ会費の必要経費算入 

2023-01-30 | ブログ
2023.01.30

個人事業者の所得税確定申告の際、ロータリークラブの会費を寄付金として所得控除するのではなく事業所得の必要経費とならないかとの質問を受けることがあります。
これには裁判例があるので、ロータリークラブの会費が必要経費とならない理由を以下で説明します。

同様にその他の会費(ライオンズクラブ・JC等)の場合でも、当該会費を支払う目的、業務遂行上の必要性、必要性(一部が必要である場合も含む)を主観的判断ではなく客観的に証明できるか否か、等により必要経費となるか否か判断されます。

1.事実の概要
 弁護士Aが、ロータリークラブの年会費を事業所得の金額の計算上必要経費に算入したところ、税務署長Bが、本件会費は必要経費とは認められないとして争った事案である(長野地裁、平成30年9月7日判決)。

2.争点
 本件の争点は、本件会費をAの事業所得の計算上必要経費に算入できるか否かである。

3.長野地裁の判断
(1)ロータリークラブの目的について
 クラブの目的は「意義ある事業の基礎として奉仕の理念を奨励し・・・社会生活に常に奉仕の理想を適用すること」にある。


(2)必要経費の意義、範囲について
 法37条1項が、事業所得の金額の計算上必要経費の算入を認めている趣旨は、総収入金額のうち、課税対象を所得に限定し、投下資本の回収部分に課税が及ぶことを避けるためであると解される。・・・法45条1項は、家事費及び家事関連費で政令に定めるものは必要経費に算入しない旨規定し、・・・かつ、その必要である部分を明らかに区分できるもの又は事業所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされるものであることを要する旨規定している。・・・そして、上記関連性及び必要性の判断は、関係者の主観的判断を基準とするのではなく、客観的に判断されるべきである。


(3)本件会費が必要経費に該当するか否かについて
 本件クラブの会員は、奉仕の理念の奨励という目的に従って、各種の奉仕活動・・・をするために納入されたものであり、・・・本件会費の支出は・・・、客観的にみて当該経済活動の遂行上必要なものということはできない。
 そして、・・・
本件会費は、弁護士の経済活動の一環として支出されるものではなく、消費経済の主体である一個人として行われる消費支出として、家事費に該当するというべきである。

 また、本件クラブにおいてAが活動することによって、本件クラブの他の会員が所属する企業との法律顧問契約を締結する契機となり得ることから、仮に本件クラブにおけるAの活動の一部が、Aの弁護士としての経済活動と直接の関連性を有するものと解した上で(ただし、直接関連性を有すると解すべきでない。)、本件会費が、必要経費と家事費の性質を併有しており、本件会費にAの業務の遂行上必要なものが一部含まれていて、家事関連費に該当するとしても、本件クラブの会員としての活動は、本件クラブの掲げる奉仕の理念に従い、奉仕活動を行うことや懇親を深めることに主眼が置かれるものであるから、本件会費はその主たる部分がAの弁護士としての事業所得を生ずべき業務の遂行上必要なものということはできない。

 さらに、本件会費のうちAの弁護士としての業務の遂行上必要である部分を明らかに区別することはできず、他にかかる区分を可能ならしめるに足りる証拠もない。したがって、仮に、本件会費が、その中にAの業務の遂行上必要なものが一部含まれていて、家事関連費に該当すると解したとしても、これを事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。(中略)仮に原告の業務の遂行上必要なものが一部含まれると解したとしても、その主たる部分が原告の事業所得を生ずべき業務の遂行上必要なものとはいえない上、当該必要である部分を明らかに区分することができないものである。

 なお、Aは上級審に控訴しましたが東京高裁は長野地裁の判決を支持し、また上告審に係る上告及び上告受理申立てに対しては、上告理由に当たらないとして棄却されました(東京高裁、令和元年5月22日判決)。

また、公認会計士(昭和58年1月27日裁決)や司法書士(平成26年3月6日裁決)も国税不服審判所に審査請求をしていますがいずれも認められていません。

(完)