大槻雅章税理士事務所

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№126 判例評釈:遺産分割協議成立後に認知された子に対する遺産の支払い

2019-09-01 | ブログ
2019.09.01 

民法910条は「相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。」と規定しています。

遺産分割協議の終了後に認知の訴えによって相続人になった者が現れると、認知は出生の時に遡ってその効力を生ずるため(同784条)、既存の遺産分割協議は無効ということになってしまいます。

そこで、民法は遺産分割協議の効果を維持しつつ、認知された相続人の利益も保護するために、民法910条の規定を置いているとされています。

これに関して、最高裁の判決がありましたので(令和元年8月27日、最高裁判所第三小法廷、 平成30(受)1583)、今回は、この最高裁判決における民法910条の積極財産の取扱いに焦点を当ててまとめたいと思います。

1.事実の概要


被相続人Aの妻B及び子CがAの遺産について分割協議を成立させた後、DがAの子であることを認知する旨の裁判所の判決が確定した。
本件は、DがB及びCに対し支払を求めることのできる遺産の価額は、積極財産とすべきか、積極財産の価額から消極財産の価額を控除したものとすべきかが争われた事案である。

(注)遺産のうち現金や預貯金・不動産・債権などを積極財産、借金などの債務を消極財産といいます。

2.争点


①B及びCの主張
遺産分割協議に際して相続債務の負担に関する合意がされ、相続債務の一部がBによって弁済されている本件においては、民法910条に基づきDに対して支払われるべき価額の算定の基礎となる遺産の価額は、Aの遺産のうち積極財産の価額から消極財産の価額を控除したものとすべきであるのに、これを上記積極財産の価額とした原審の判断には、同条の解釈適用の誤りがある旨をいうものである。
②Dの主張
相続の開始後認知によって相続人となったDが遺産の分割を請求しようとする場合において、共同相続人B及びCが既に当該遺産の分割をしていたときは、民法910条に基づき支払われるべき価額の算定の基礎となる遺産の価額は、当該分割の対象とされた積極財産の価額である。

3.判旨

民法910条の規定は、相続の開始後に認知された者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしていたときには、当該分割等の効力を維持しつつ認知された者に価額の支払請求を認めることによって、他の共同相続人と認知された者との利害の調整を図るものである(最高裁平成26年(受)第1312号、第1313号同28年2月26日第二小法廷判決・民集70巻2号195頁)。
そうすると、同条に基づき支払われるべき価額は、当該分割等の対象とされた遺産の価額を基礎として算定するのが、当事者間の衡平の観点から相当である。
そして、遺産の分割は、遺産のうち積極財産のみを対象とするものであって、消極財産である相続債務は、認知された者を含む各共同相続人に当然に承継され、遺産の分割の対象とならないものである。
以上によれば、相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既に当該遺産の分割をしていたときは、民法910条に基づき支払われるべき価額の算定の基礎となる遺産の価額は、当該分割の対象とされた積極財産の価額であると解するのが相当である。
このことは、相続債務が他の共同相続人によって弁済された場合や、他の共同相続人間において相続債務の負担に関する合意がされた場合であっても、異なるものではない。

(完)