大槻雅章税理士事務所

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№140 判例評釈:消費税の税務調査時における帳簿の提示義務

2020-10-11 | ブログ
2020.10.11

消費税法第30条7項は「帳簿及び請求書等を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ等の税額については適用しない。」と規定し、仕入税額控除の要件として帳簿及び請求書等の保存義務を定めています。

今回は、事業者が税務調査で帳簿等の提示をしなかった場合に、仕入税額控除が認められるか否かを検討します。
以下①②③④⑤の判例は、いずれも、税務調査で税務職員からの帳簿等の提示要請に対し、事業者が正当な理由なく帳簿等を提示しなかったとして、税務署が仕入税額控除を認めなかったことの適否が争われた判例です。

①大阪地裁、平成13年(行ウ)25号、平成10年8月10日判決、判時1661号31頁。

大阪地裁は、「税務調査の際に事業者が帳簿又は請求書等の提示を拒否したことを、法30条7項の保存がない場合に該当する、あるいはそれと同視した結果に結び付ける主張は、もはや法解釈の域を超えるものといわざるを得ない。…事業者が税務調査の際に(帳簿等の)提出を拒否し、そのために課税庁が…更正処分等をした場合でも、…処分当時に帳簿等を事業者が所持・保管していたことを証明した場合には税額控除を認めることになる。」と判示しています。

②津地裁、平成6年(行ウ)9号、平成10年9月10日判決、判時1661号40頁。

津地裁は、「税務職員による適法な提示要求に対して、帳簿等の保存の有無及びその記載内容を確認しうる状態に置くことも含むと解するのが相当である。…したがって、納税者が税務職員による適法な提示要求に対して、正当な理由なくして帳簿等の提示を拒否したときは、後に不服申立手続又は訴訟手続において帳簿等を提示しても、これによって仕入税額の控除を認めることはできないというべきである。」と判示しています。

③東京地裁、平成6年(行ウ)229号、平成10年9月30日判決、判時1661号54頁。

東京地裁は、「適法な提示要請に応じて提示することができる状態での保存をいうものと解すべきである。…課税処分の取消訴訟において、帳簿又は請求書等が提出されている場合であっても、…税務職員の…適法な提示要請に対して、納税者が正当な理由なくその提示を拒否し、そのため、税務職員がその内容を確認することができなかったという事情が認められるときには、…仕入税額控除は認められないことになる。」と判示しています。

④最高裁、平成13年(行ヒ)116号、平成16年12月16日判決、判時1884号30頁。

最高裁は、「適時に提示することが可能なように態勢を整えて保存することを要するのであり、事業者がこれを行っていなかった場合には、…事業者が災害その他やむを得ない事情によりこれをすることができなかったことを証明しない限り、仕入税額控除の規定は適用されない。」と判示しています。

⑤最高裁、平成16年(行ヒ)37号、平成16年12月20日判決、判時1889号42頁。

最高裁は、「適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて帳簿等を保存していたということはできず、本件は法30条7項にいう帳簿等を保存しない場合に当たるから、被上告人が上告人に対して仕入税額控除の適用がないとした…各処分に違法はない。」と判示しています。
なお、この最高裁判決には、滝井繁男裁判官の次のような反対意見があります。「保存に、その通常の意味するところを超えて税務調査における提示をも含ませるような解釈をしなければならない理由は見いだすことはできず(中略)税額の計算に係る実体的な規定をその本来の意味を超えて広げて解することは、租税法律主義の見地から慎重でなければならない。」

消費税法37条7項の解釈についての私見

消費税法30条7頃は「帳簿等を保存しない場合」には、原則として仕入税額控除を適用しないとする規定であり、上記①②③④⑤事件は、「帳簿等を保存しない場合」に、「税務調査の際に事業者が帳簿等の提示を拒否した場合」が含まれるかどうかが争点となっています。一つ目の解釈は、「保存」という規定の文言に、税務調査の際に「提示」することを含める「不提示=不保存」の解釈であり、二つ目の解釈は、単に「提示」を拒んだというだけの理由で仕入税額控除を否定する実体法上の効果は生じないという「不提示≠不保存」の解釈です。

私は、「不提示=不保存」の解釈に賛成します。わが国の消費税法は、小規模事業者に配慮して簡便な帳簿方式を認める要件として、帳簿及び請求書等の保存義務を定めているのであり、法の趣旨からみても厳格な法の運用が求められていると思われるで、「税務職員による検査に当たって適時に提示することが可能なように態勢を整えて保存することを要する」という最高裁の解釈に賛成します。

しかし、現行の消費税法では税務調査における「帳簿等の提示」については明定していないことが問題と考えるので、「帳簿及び請求書等は、税務職員による検査に当たって適時に提示することが可能なように態勢を整えて保存することを要する。」と明確に定めるべきであると考えます。

(完)