大槻雅章税理士事務所

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№183 推計課税

2024-05-05 | ブログ
2024.05.05

税務調査の際、納税者が作成した帳簿類やデータ等を使用せず、それ以外の資料を用いて課税する推計課税という方法があります。
推計課税は特別な料率等で所得額等を推計するため、納税者側不利、課税庁側有利な更生処分となりがちです。
今回は、推計課税が行われるケースについて質問がありましたので解説したいと思います。

1.租税法律主義

租税とは国および地方公共団体が国民の富の一部を強制的に獲得するための手段であり、国民の財産権への侵害の性質を持っています(金子宏『租税法[第17版]』(弘文堂、2012)10頁))。
そこで、憲法84条は「新たに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」と定めて、税は法律の根拠に基づかなければならないと要請しています(租税法律主義)。

また、税法の条文を漠然とした定め方にすれば具体的な賦課・徴収が課税庁の判断で行われることになるので、明確な課税要件を法律で定める必要があります(課税要件明確主義)。

2.青色申告と白色申告

上記1の租税法律主義、課税要件明確主義という基本原則に基づき、納税者は税法の定めに従って収入金額や必要経費を帳簿に記帳し、所得金額と納税額を正しく計算し、取引上の書類を保存しておく必要があります。これが青色申告です。

これに対し、青色申告以外で申告納税を行うのが白色申告です。青色申告は複式簿記で帳簿を作成する必要がありますが、簡易的な記帳が認められるのが白色申告です。

白色申告は青色申告のように各種特別控除や税額控除が適用されないこと、損失の繰越控除ができないこと等のデメリットがありますが、それに加えて税務調査で推計課税される可能性があるというデメリットもあります。

3.推計課税

推計課税とは「税務署長が所得税または法人税について更生・決定をする場合に、直接資料によらずに、各種の間接的な資料を用いて所得を認定する方法」をいいます(金子・前掲、754頁)。

税法は、所得税法156条(注1)および法人税法131条(注2)で推計課税ができる旨および推計方法を定めていますが、青色申告をする者は正確な帳簿を備える者であるから、青色申告者については原則として推計課税をすることは許されません。

納税者が帳簿書類を備えているときは、それに基づいて所得額等を算定すべきであるから(実額課税)、他の資料に基づく推計課税は、納税義務者が帳簿書類等を備え付けていない場合、帳簿書類等はあるが内容が不正確で信頼性に乏しい場合、および帳簿書類等はあるが納税者または取引関係者がこれを租税職員に示さない場合等に限ってすることができます(金子・前掲755頁)。

ただし、青色申告者であっても青色申告を取り消して推計課税される場合があります。
この場合、課税庁は所得額等の推計が合理的なものであることを具体的に立証する必要があり、合理的な理由のない推計課税は違法なものになると一般に解されています。
詳細はNo.74税務調査:理由付記の記事を参照して下さい。

(注1)所得税法156条
税務署長は、居住者に係る所得税につき更正又は決定をする場合には、その者の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその者の各年分の各種所得の金額又は損失の金額(その者の提出した青色申告書に係る年分の不動産所得の金額、事業所得の金額及び山林所得の金額並びにこれらの金額の計算上生じた損失の金額を除く。)を推計して、これをすることができる。

(注2)法人税法131条
税務署長は、内国法人に係る法人税につき更正又は決定をする場合には、内国法人の提出した青色申告書に係る法人税の課税標準又は欠損金額の更正をする場合を除き、その内国法人の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその内国法人に係る法人税の課税標準を推計して、これをすることができる。

(完)

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