大槻雅章税理士事務所

http://otsuki-zeirishi.server-shared.com/

№113 債権譲渡担保契約、債権譲渡登記

2018-06-30 | ブログ
2018.07.01 債権譲渡担保契約、債権譲渡登記

今回は、債権譲渡担保契約、債権譲渡登記の手法について質問がありましたので、以下の事例をもとに解説したいと思います。


(事例)

甲社は、取引先の乙社に対し継続的に商品を卸売している。現在、乙社に対して売掛金を1,000万円(6月末入金予定200万円、7月末入金予定300万円、8月末入金予定500万円)保有しているが、6月末に200万円の入金がなかった。そのため、7月末、8月末に入金予定の売掛金が乙社から回収できない可能性が大である。

一方、乙社は甲社から仕入れた商品を丙社に継続的に販売しているので、甲社は、乙社が丙社に対して保有する売掛金を担保に取れないか?


■債権譲渡担保契約

甲社と乙社間で、乙社の丙社に対する売掛金を債権譲渡担保とする契約を締結します。

債権譲渡担保とは、乙社が丙社に対して有する売掛債権を甲社へ債権譲渡し、乙社が債務不履行を起こすまで、債権の取り立て権限を乙社にとどめておくという特約を取り交わすことです。

現在の売掛金残高だけではなく、乙社と丙社の取引によって将来発生する売掛金も含めて担保に取れます(事例では、現在の売掛金1,000万円+将来の売掛金)。

これにより、通常は乙社が丙社からの支払いを受けるが、乙社が債務不履行などを起こした場合は、甲社が丙社から直接売掛金を回収することが可能となります。


■対抗要件

しかし、丙社からみれば、甲社が正当な権利を有しているか分からないので、甲社に対して支払いをして良いか判断できません。

そこで、甲社は丙社に対して自分が正当な権利者であることを主張するための「対抗要件」を備える必要があります。

将来の債権を担保に取ることは、担保の目的となる債権が特定されていれば有効と解されているので、乙社の丙社に対する債権が他の債権と「識別」できる程度に特定されていればよいと考えられています(最高裁平成12年4月21日判決、民集54巻4号1562頁)。

具体的な債権の特定方法としては、丙社との間で発生する債権の種類、発生年月日が特定されていれば足りうると解されています。


■債権譲渡通知

民法は「指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。」と定めています(民法467条)。

ところが、丙社に通知すれば、乙社から甲社へ債権譲渡した事実が丙社に分かってしまうので、乙社に対する信用不安から丙社は乙社との取引を停止する可能性が出てきます。したがって「債権譲渡通知」は現実的な方法とはいえません。

また、乙社が破産状態となった場合には偏頗行為 (注1) であるとして破産管財人から否認され、返還要求されるリスクが生じます。


(注1) 偏頗(へんぱ)行為否認(破産法162条1項一号、二号)

次に掲げる行為(既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為に限る。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。

一 破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした行為。ただし、債権者が、その行為の当時、次のイ又はロに掲げる区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実を知っていた場合に限る。

イ 当該行為が支払不能になった後にされたものである場合 支払不能であったこと又は支払の停止があったこと。

ロ 当該行為が破産手続開始の申立てがあった後にされたものである場合 破産手続開始の申立てがあったこと。

二 破産者の義務に属せず、又はその時期が破産者の義務に属しない行為であって、支払不能になる前30日以内にされたもの。ただし、債権者がその行為の当時他の破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。


■債権譲渡登記

債権譲渡担保契約以外の方法として、「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」に基づいて、東京法務局に債権譲渡登記をする方法があります(東京法務局のみで受け付けられる)。

この方法によれば、登記時点で丙社に通知する必要はなく、乙社に債務不履行が生じた場合に、丙社に対して登記事項証明書を交付することによって対抗要件を備えることができるので、乙社の債務不履行が生じるまでは債権譲渡の事実を丙社に知られません。

実際に乙社が債務不履行を起こした場合に、丙社に対して登記事項証明書を交付し、丙社に支払いを求めることになります。


■債権譲渡禁止特約

ただし、乙社と丙社間の売買契約において、売掛債権の譲渡を禁止する特約が入っている場合には債権譲渡ができないので、債権譲渡担保の設定、債権譲渡登記はできません。

甲社が乙社と丙社間の債権譲渡禁止特約の存在を知っていた(又は重大な過失により知らなかった)場合には、譲渡担保権の設定自体が無効となるからです(注2)。

(注2) 民法466条1項

債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。

同条2項

前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。



(完)