大槻雅章税理士事務所

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№108 判例評釈:競馬の当たり馬券の所得計算

2018-01-04 | ブログ
2018.01.03 判例評釈:当たり馬券の所得計算

今回は、競馬の当たり馬券の払戻金を雑所得の総収入金額とし、外れ馬券の購入代金を必要経費として控除した所得税の確定申告をしたところ、上告人(所轄税務署長)から、本件所得は一時所得に該当し、外れ馬券の購入代金を一時所得に係る総収入金額から控除することはできないと賦課決定を受けたことから、被上告人が当該賦課決定の取消しを求めた事案を解説いたします。

(最高裁判所第二小法廷 平成29年12月15日判決/平成28年(行ヒ)第303号)


長文となりますが、本件の争点は、次の2点です。

1.競馬の当たり馬券の払戻金が雑所得(営利を目的とする継続的行為から生じた所得)に当たるか?

2.競馬の外れ馬券の購入代金を必要経費(馬券の払戻金を得るため直接に要した費用)として控除できるか?


第1審判決は請求を棄却しましたが、控訴審判決(東京高等裁判所)は第1審判決を取消し被上告人の請求を認容したため、所轄税務署長が上告しました。

最高裁は、本件における競馬の当たり馬券の払戻金が所得税法35条1項にいう雑所得に当たるとし、競馬の外れ馬券の購入代金は、雑所得である当たり馬券の払戻金を得るため直接に要した費用として、所得税法37条1項にいう必要経費に当たるとし、原審の判断は是認することができるとして、上告を棄却しました。

本件最高裁の判決にいたる詳細は以下の通りです。

<事実の概要>


(1)ア.被上告人は、インターネットを介して馬券を購入することができるサービスを利用し、平成17年から22年までの6年間にわたり、中央競馬のレースで、1年当たり合計3億円から21億円程度となる多数の馬券を購入し続けた。上記サービスは、当たり馬券の払戻金等をその後の馬券の購入に充てることや、馬券の購入代金及び当たり馬券の払戻金等の決済を節ごとに銀行口座で行うことを可能にするものであった。被上告人は、日本中央競馬会に記録が残る平成21年の1年間においては、中央競馬の全レース3453レースのうち2445レース(全レースの約70.8%)で馬券を購入した。

イ.被上告人は継続的に収集した情報を自ら分析して評価し、レースごとに、競争馬の能力、騎手(技術)、コース適性、枠順(ゲート番号)、馬場状態への適性、レース展開、競争馬のコンディション等の考慮要素を評価、比較することにより着順を予想する。その上で、予想の確度の高低と予想が的中した際の配当率の大小との組合せにより、購入する馬券の金額、種類及び種類ごとの購入割合等を異にする複数の購入パターンを定め、これに従い、当該レースにおいて購入する馬券を決定する。馬券購入の回数及び頻度については、偶然性の影響を減殺するために、年間を通じてほぼ全てのレースで馬券を購入することを目標とし、上記の購入パターンを適宜併用することで、年間を通じての収支(当たり馬券の払戻金の合計額と外れ馬券を含む全ての有効馬券の購入代金との差額)で利益が得られるように工夫する。

(2)被上告人は、平成17年から22年までの各年の収支上、17年に約1800万円、18年に約5800万円、19年に約1億2000万円、20年に約1億円、21年に約2億円、22年に約5500万円の利益を得ていた。

(3)被上告人は、平成17年分から22年分の所得税に係る申告期限内の確定申告を行い、その際、本件所得は雑所得に該当し、外れ馬券の購入代金が必要経費に当たるとして総所得金額及び納付すべき税額を計算したところ、所轄税務署長から、本件所得は一時所得に該当し、上記の各年分の一時所得の金額の計算において外れ馬券の購入代金を一時所得に係る総収入金額から控除することはできないとして、各年分の所得税に係る更正及び過少申告加算税の賦課決定を受けた。


<判旨>


1.競馬の当たり馬券の払戻金が雑所得に当たるか?


所得税法上、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得で、営利を目的とする継続的行為から生じた所得は、雑所得に区分されるところ(34条1項,35条1項)、営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否かは、文理に照らし、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断するのが相当である(最高裁平成26年(あ)第948号同27年3月10日第三小法廷判決・刑集69巻2号434頁参照)。

これを本件についてみると、被上告人は、予想の確度の高低と予想が的中した際の配当率の大小の組合せにより定めた購入パターンに従って馬券を購入することとし、偶然性の影響を減殺するために、年間を通じてほぼ全てのレースで馬券を購入することを目標として、年間を通じての収支で利益が得られるように工夫しながら、6年間にわたり、1節当たり数百万円から数千万円、1年当たり合計3億円から21億円程度となる多数の馬券を購入し続けたというのである。このような被上告人の馬券購入の期間、回数、頻度その他の態様に照らせば、被上告人の上記の一連の行為は、継続的行為といえるものである。

そして、被上告人は、上記6年間のいずれの年についても年間を通じての収支で利益を得ていた上、その金額も、少ない年で約1800万円、多い年では約2億円に及んでいたというのであるから、上記のような馬券購入の態様に加え、このような利益発生の規模、期間その他の状況等に鑑みると、被上告人は回収率が総体として100%を超えるように馬券を選別して購入し続けてきたといえるのであって、そのような被上告人の上記の一連の行為は、客観的にみて営利を目的とするものであったということができる。

以上によれば、本件所得は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得として、所得税法35条1項にいう雑所得に当たると解するのが相当である。

2.競馬の外れ馬券の購入代金を必要経費として控除することができるか?

所得税法は、雑所得に係る総収入金額から控除される必要経費について、雑所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額等とする旨を定めているところ(35条2項2号,37条1項)、本件においては、被上告人は、偶然性の影響を減殺するために長期間にわたって多数の馬券を頻繁に購入することにより、年間を通じての収支で利益が得られるように継続的に馬券を購入しており、そのような一連の馬券の購入により利益を得るためには、外れ馬券の購入は不可避であったといわざるを得ない。したがって、本件における外れ馬券の購入代金は、雑所得である当たり馬券の払戻金を得るため直接に要した費用として、同法37条1項にいう必要経費に当たると解するのが相当である。


<筆者解説>

本件所得は「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」であるから雑所得と解され、雑所得の場合は「外れ馬券の購入代金」が必要経費になり得ると認められた事案です。

したがって、「営利を目的とする継続的行為」でない場合は、当たり馬券の払戻金は一時所得として課税されることになります。

一時所得には必要経費という概念がないため、「外れ馬券の購入代金」を当たり馬券の払戻金から必要経費として控除することは認められません。

一時所得の場合は、「当たり馬券の購入代金」のみが「その収入を得るために支出した金額」として当たり馬券の払戻金から控除できます。



(完)