大槻雅章税理士事務所

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№30 消費税の複数税率

2011-05-05 | ブログ

2011.04.15 消費税複数税率の導入について

いわゆる“つなぎ法案”が平成23年3月29日に衆議院を通過し、31日の参議院でも可決されて成立しました。税制に関する「国民生活等の混乱を回避するための租税特別措置法等の一部を改正する法律」および「国民生活等の混乱を回避するための地方税法の一部を改正する法律」も“つなぎ法案”に含まれています。
したがって、平成23年3月31日をもって終了となっていた税法の一部規定の期限は、6月30日まで3ヶ月間延長され“つながれる”ことになりました。
本来、税制改正法案については、年度末の3月31日までに成立させるべきところ、“つなぎ法案”の成立を得て、通常国会の会期末である6月30日までに一定の結論を出すことになります。

今後の税制改正法案の審議では、少子高齢化に伴う社会保障費の財源として、また、東日本大震災の復興費用の財源として、消費税の税率を引き上げることが主張され、その場合には、食料品や生活必需品に軽減税率を導入することも議論されることになろうかと思います。

しかしながら、消費税に複数税率を導入すれば以下の問題が生じます。

①複数税率を導入すると同時にインボイス方式の導入も必要となる。

消費税とは、製造業者から卸売業者や小売業者を経由して、若しくはサービスを提供する事業者を経由して、消費税の税負担を消費者に転嫁しようとする間接税です。そして、それぞれの流通過程で、各事業者が課税売上に係る消費税額から課税仕入れに係る消費税額を控除した税額を税務署に納付しています。ところが複数税率が導入されると、インボイスを発行して、この物品・このサービスの場合はゼロ%、この物品・このサービスの場合は10%などと個別明細を記載する必要があります。これにより、新たに発生する経理処理や事務コストの負担に対応できない免税事業者や小規模事業者は、流通過程の取引から排除される可能性が高くなります。

②事業者の事務負担が増大する。

現行の消費税は、帳簿に記載された課税売上・課税仕入から消費税を計算するという帳簿方式を採用しているので、法人税や所得税の所得の算定に付随する形で行われています。ところが、消費税の複数税率が導入されると、上記①のようなインボイスの集計又は税率ごとの分類集計が必須となり、今よりも事業者の事務負担が増大します。また、税率がどの分類に属するかの判断が非常に難しく、事業者に高度な税務知識を要求することになります。

③消費税率が恒常的に引き上げられる可能性がある。

複数税率を採用して、軽減税率適用のすそ野を広くすればするだけ、標準税率はどんどん引き上げられていき、消費者全体の消費税負担は変わらないのに、税制だけを複雑にする結果になってしまいます。

以上のような問題点を考慮すれば、事業者に多大な事務負担とコストを強いる複数税率の導入には慎重であるべきと考えます。
私見としては、消費税率の引き上げはやむを得ないが、できるだけ引き上げ幅を少なくし、食料品や生活必需品に軽減税率を適用するのではなく、逆に、一部の贅沢品や嗜好品に消費税より高い税率を課す物品税を導入し、消費税と区別したほうが一般の理解を得やすいと思っています。
物品税は、消費税導入の際、消費税に吸収される形で廃止された間接税です。主に高級で高額な商品を対象としているため元々詳細な商品管理が行われており、事業者の事務負担が変わらないこと、インボイス方式の導入に無理がないこと、税務当局にも徴税ノウハウが残っていること、などから再び導入しやすい税目であると思います。

(完)