2015.09.22 裁決事例:グループ法人に支払う業務委託料の寄附金認定
法人税法は、「寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもつてするかを問わず、内国法人の行う金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」を寄附金と定義し(法37条7項)、
「内国法人が各事業年度において支出した寄附金の額の合計額のうち、政令で定めるところにより計算した金額を超える部分の金額は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。」と損金算入限度額を定めています(法37条1項)。
その損金算入限度額は、次の算式で計算されます。
損金算入限度額 =( 資本基準額 + 所得基準額 ) × 1/2
資本基準額=期末における資本等の金額 × 当該事業年度の月数/12 × 2.5/1,000
所得基準額=当該事業年度の所得の金額 × 2.5/100
※資本等の1,000分の2.5というと、資本金1,000万円の株式会社の場合、2万5千円にしかなりません。また、所得金額の100分の2.5というと、100万円の法人所得に対して2万5千円です。
つまり、法人税法上の寄附金の損金算入限度額は非常に少額のため、寄附金の大部分は損金算入されないことになるのです。
そこで今回は、グループ法人に対して支払った業務委託料は、当該グループ法人に対する資金援助を仮装して計上されたものであり、対価性がなく、寄附金の額に該当するとされた裁決事例(平成23年8月23日国税不服審判所裁決)を紹介します。
(1) 事例の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)がグループ法人に対して支払った業務委託料について、原処分庁(国税局査察部)が当該業務委託料は法人税法第37条7項に規定する寄附金の額に該当するので損金の額に算入できないとして法人税の更正処分等を行ったことに対し、請求人が当該業務委託には実体があり、原処分庁の事実誤認であるとして同処分等の全部の取消しを求めた事案です。
請求人は、建設コンサルタントを業としており、グループ法人との間で取り交わした「業務委託契約書」には、次の内容が記載されています。
A 委託内容は、営業に関する一切の業務とする。
B 業務委託に関する報酬は、月額○○円とする。
C 車両等、日当及びその他の経費についても全額請求人の負担とする。
D 契約期間は3年間とする。ただし、契約期間満了前1か月までにいずれかにより意思表示がないときは、同一条件で契約が更新されるものとする。
(2) 裁決内容
本件営業等委託料、本件事務等委託料の金額は、法人税の所得金額の計算上損金の額に算入されるか否かについて、次の事実が認められる。
1.委託された業務は、電話応対及び郵便物の開封発送等であり、しかも件数的にはまれにしかない程度のものにすぎず、そのため、経理業務(伝票処理及びその他一般事務)もまたほとんど生じないと認められる。
2.グループ法人のアルバイト従業員は、自身が当該業務の従事者となっていることも承知しておらず、グループ法人における業務を行う傍らに行える極めて補助的な請求人の業務を行ったにすぎないと認められる。
以上のことからすれば、本件業務委託契約は、極めて軽微な業務について締結されたものと認められ、また、その存在そのものが関係者にも認知されていなかったと認めるのが相当であり、グループ法人は、これに係る業務を行っていなかったというべきである。
(したがって)本件営業等委託契約に基づく役務の提供を行っていたと認めることはできず、(中略)本件営業等委託料は、委託業務の役務提供の有無にかかわらずに支払われている対価性のないものであるというべきである。
(そして)本件営業等委託契約は、請求人がグループ法人に対する資金援助に係る支出を業務委託料の名目で支出するために作成した業務委託契約であると認められる。(つまり)本件営業等委託料は、(中略)請求人がグループ法人に対して経済的利益を無償で供与したこととなり、法人税法第37条第7項に規定する寄附金の額に該当すると認めるのが相当である。
また、本件事務等委託契約に示された業務は、従業員が(当該業務の従事者となっていることを承知せずに)行っており、(中略)委託業務の履行状況等の確認もない状態での本件事務等委託料の支払は、委託業務の役務提供の有無にかかわらずに支払われている対価性のないものであるというべきであり、法人税法第37条第7項に規定する寄附金の額に該当すると認めるのが相当である。
(3) 解説
寄附金の支出はその大部分が損金不算入となります。今回の裁決事例では、グループ法人間で「業務委託契約書」を締結していましたが、当該業務委託料は、
1.極めて軽微な業務について支出している。
2.委託業務の役務提供の有無にかかわらずに支払われる対価性のないものである。
3.資金援助に係る支出を業務委託料の名目で支出している。
4.委託業務の履行状況等の確認もない状態で支出している。
等の理由で、経済的な利益の贈与又は無償の供与に該当するとして寄附金と認定されました。
寄附金と認定されないためには「業務委託契約書」を締結することはもちろんですが、契約書には委託業務の内容、重要性、対価の計算根拠、業務担当者を明確に記載し、委託者は履行状況等を確認したうえで業務委託料の支出をしなければなりません。
(完)
法人税法は、「寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもつてするかを問わず、内国法人の行う金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」を寄附金と定義し(法37条7項)、
「内国法人が各事業年度において支出した寄附金の額の合計額のうち、政令で定めるところにより計算した金額を超える部分の金額は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。」と損金算入限度額を定めています(法37条1項)。
その損金算入限度額は、次の算式で計算されます。
損金算入限度額 =( 資本基準額 + 所得基準額 ) × 1/2
資本基準額=期末における資本等の金額 × 当該事業年度の月数/12 × 2.5/1,000
所得基準額=当該事業年度の所得の金額 × 2.5/100
※資本等の1,000分の2.5というと、資本金1,000万円の株式会社の場合、2万5千円にしかなりません。また、所得金額の100分の2.5というと、100万円の法人所得に対して2万5千円です。
つまり、法人税法上の寄附金の損金算入限度額は非常に少額のため、寄附金の大部分は損金算入されないことになるのです。
そこで今回は、グループ法人に対して支払った業務委託料は、当該グループ法人に対する資金援助を仮装して計上されたものであり、対価性がなく、寄附金の額に該当するとされた裁決事例(平成23年8月23日国税不服審判所裁決)を紹介します。
(1) 事例の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)がグループ法人に対して支払った業務委託料について、原処分庁(国税局査察部)が当該業務委託料は法人税法第37条7項に規定する寄附金の額に該当するので損金の額に算入できないとして法人税の更正処分等を行ったことに対し、請求人が当該業務委託には実体があり、原処分庁の事実誤認であるとして同処分等の全部の取消しを求めた事案です。
請求人は、建設コンサルタントを業としており、グループ法人との間で取り交わした「業務委託契約書」には、次の内容が記載されています。
A 委託内容は、営業に関する一切の業務とする。
B 業務委託に関する報酬は、月額○○円とする。
C 車両等、日当及びその他の経費についても全額請求人の負担とする。
D 契約期間は3年間とする。ただし、契約期間満了前1か月までにいずれかにより意思表示がないときは、同一条件で契約が更新されるものとする。
(2) 裁決内容
本件営業等委託料、本件事務等委託料の金額は、法人税の所得金額の計算上損金の額に算入されるか否かについて、次の事実が認められる。
1.委託された業務は、電話応対及び郵便物の開封発送等であり、しかも件数的にはまれにしかない程度のものにすぎず、そのため、経理業務(伝票処理及びその他一般事務)もまたほとんど生じないと認められる。
2.グループ法人のアルバイト従業員は、自身が当該業務の従事者となっていることも承知しておらず、グループ法人における業務を行う傍らに行える極めて補助的な請求人の業務を行ったにすぎないと認められる。
以上のことからすれば、本件業務委託契約は、極めて軽微な業務について締結されたものと認められ、また、その存在そのものが関係者にも認知されていなかったと認めるのが相当であり、グループ法人は、これに係る業務を行っていなかったというべきである。
(したがって)本件営業等委託契約に基づく役務の提供を行っていたと認めることはできず、(中略)本件営業等委託料は、委託業務の役務提供の有無にかかわらずに支払われている対価性のないものであるというべきである。
(そして)本件営業等委託契約は、請求人がグループ法人に対する資金援助に係る支出を業務委託料の名目で支出するために作成した業務委託契約であると認められる。(つまり)本件営業等委託料は、(中略)請求人がグループ法人に対して経済的利益を無償で供与したこととなり、法人税法第37条第7項に規定する寄附金の額に該当すると認めるのが相当である。
また、本件事務等委託契約に示された業務は、従業員が(当該業務の従事者となっていることを承知せずに)行っており、(中略)委託業務の履行状況等の確認もない状態での本件事務等委託料の支払は、委託業務の役務提供の有無にかかわらずに支払われている対価性のないものであるというべきであり、法人税法第37条第7項に規定する寄附金の額に該当すると認めるのが相当である。
(3) 解説
寄附金の支出はその大部分が損金不算入となります。今回の裁決事例では、グループ法人間で「業務委託契約書」を締結していましたが、当該業務委託料は、
1.極めて軽微な業務について支出している。
2.委託業務の役務提供の有無にかかわらずに支払われる対価性のないものである。
3.資金援助に係る支出を業務委託料の名目で支出している。
4.委託業務の履行状況等の確認もない状態で支出している。
等の理由で、経済的な利益の贈与又は無償の供与に該当するとして寄附金と認定されました。
寄附金と認定されないためには「業務委託契約書」を締結することはもちろんですが、契約書には委託業務の内容、重要性、対価の計算根拠、業務担当者を明確に記載し、委託者は履行状況等を確認したうえで業務委託料の支出をしなければなりません。
(完)