大槻雅章税理士事務所

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№181 消費税:2割特例

2024-03-03 | ブログ
2024.03.03

令和5年10月1日からインボイス制度が開始されました。これに伴い、免税事業者が適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者) に登録して課税事業者になった場合は、いわゆる2割特例の選択が可能となります。今回は2割特例について質問がありましたので解説します。

1.概略

2割特例の対象者は、次の①と②、または①と③の納付税額を比較して有利な計算方法を選択できます。

① 2割特例の納付税額=売上げに係る消費税額-売上税額×8割
② 一般課税(実額計算)の納付税額=売上げに係る消費税額-仕入れに係る消費税額
③ 簡易課税の納付税額=売上げに係る消費税額-売上税額×業種別みなし仕入率

2.対象となる者

2割特例は、インボイス制度の創設に伴い、免税事業者からインボイス発行事業者として課税事業者になった者のみが対象となります。従来からの課税事業者には2割特例は適用されません(28改正法附則51の2①②)。

3.2割特例の適用期間

2割特例の適用が可能な期間は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間となります。

<12月決算の場合>
① 令和5年10月1日~令和5年12月31日まで
② 令和6年1月1日~令和6年12月31日まで
③ 令和7年1月1日~令和7年12月31日まで
④ 令和8年1月1日~令和8年12月31日まで ← 令和8年9月30日が属する

<3月決算の場合>
① 令和5年10月1日~令和6年3月31日まで
② 令和6年4月1日~令和7年3月31日まで
③ 令和7年4月1日~令和8年3月31日まで
④ 令和8年4月1日~令和9年3月31日まで ← 令和8年9月30日が属する

4.2割特例の適用を受けることができない課税期間

① 2割特例は、インボイス発行事業者の登録がなかったとしたならば消費税を納める義務が免除されることとなる課税期間を対象としているので、基準期間における課税売上高が1千万円を超える課税期間には適用されません(28改正法附則51の2①)。

② 新設法人・特定新規設立法人の納税義務の免除の特例により事業者免税点制度の適用が制限される課税期間には適用されません(消法12の2①、12の3①)。

③ 調整対象固定資産や高額特定資産を取得して仕入税額控除を行った事業者の課税期間には適用されません(消法9⑦)。

④ 消費税課税期間特例選択届出書を提出して、課税期間を1カ月又は3カ月に短縮する特例の適用を受けている課税期間には適用されません。

5.届出、制限、注意点など

① 2割特例の適用に事前の届出は不要です。ただし、消費税の確定申告書に2割特例の適用を受ける旨を付記する必要があります(28改正法附則51の2③)。

② 2割特例を適用して申告した翌課税期間以後において継続して2割特例を適用しなければならないという制限はなく、消費税の申告を行う都度、適用を受けるかどうかの選択が可能です。

③ 令和5年10月1日より前から消費税課税事業者選択届出書の提出により引き続き課税事業者となる者は、2割特例の適用を受けることができません。例えば、令和4年中に消費税課税事業者選択届出書と合わせて適格請求書発行事業者の登録申請書を提出し、令和5年1月から消費税の課税事業者となった事業者については、令和5年10月1日より前から消費税の課税事業者であることから、2割特例の適用を受けることができません。

④ ただし③の「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出した事業者で、消費税課税事業者選択届出書の提出により令和5年10月1日を含む課税期間から課税事業者となる事業者については、当該課税期間中に「消費税課税事業者選択不適用届出書」を提出することにより、消費税課税事業者選択届出書の効力を失わせる措置が設けられています(28改正法附則51の2⑤)。

⑤ 免税事業者がインボイス発行事業者の登録申請を行った場合には、登録開始日(令和5年10月1日)を含む課税期間中に消費税簡易課税制度選択届出書を提出することにより、その課税期間から簡易課税制度を適用することができます(30改正令附則18)。

⑥ 2割特例の適用を受けたインボイス発行事業者が、2割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間中に、消費税簡易課税制度選択届出書を提出したときは、その提出した日の属する課税期間から簡易課税制度の適用を受けることができます(28改正法附則51の2⑥)。

6.まとめ

① 消費税の申告を行う際に2割特例の選択ができるので、一般課税(実額計算)で還付税額が発生した課税期間は一般課税で申告できる。

② 2割特例と簡易課税を比較すると、みなし仕入率が90%の卸売業、80%の小売業以外の業種は2割特例の選択が有利となる。

③ 2割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間中に消費税簡易課税制度選択届出書を提出すれば、翌課税期間は簡易課税で申告できる。

④ 2割特例の対象者であっても、基準期間(または新設法人等の特定期間※)における課税売上高が1千万円を超える課税期間については2割特例の適用はない。

※特定期間とは、前事業年度開始の日以後6か月の期間です。ただし、前事業年度が7ヶ月以下の短期事業年度である場合は除かれます(法9②4二)。
例えば、設立第1期目が7ヶ月以下の事業年度の場合は、1期目の事業開始の日以後6ヶ月の課税売上高が1,000万円超であっても、第2期目は免税事業者となります。

(完)