大槻雅章税理士事務所

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№187 相続税:タワーマンションの財産評価

2024-09-08 | ブログ
2024.09.08

マンションの相続税評価額は「財産評価基本通達」で定める評価方法により評価しますが、令和6年1月1日以降に相続・贈与で取得した区分所有マンションの評価方法が改正されました。タワーマンションの財産評価に関する質問が多くありますので、今回は評価が見直された背景や、改正後の計算方法を解説したいと思います。

1.令和5年12月31日までの評価方法

改正前の評価額を計算式で表すと以下のとおりでした。
マンションの土地の相続税評価額=敷地全体の評価額(路線価等)×敷地権割合

なお、マンションの建物の相続税評価額は、改正前も改正後も固定資産税評価額に基づいて評価されます。

タワーマンションは高層建築のため、1棟の土地面積に対して多数が部屋を専有するので、1戸あたりの土地面積は狭小となり、所有者の持分は小さくなります。
そして、1戸あたりの土地の評価額は持分で算定するので、高層階でも低層階でも専有面積が同じであれば、土地の相続税評価額は同じでした。
タワーマンションは高層階ほど実際の市場価値が高くなる特徴があるにもかかわらず、土地の評価額は市場価値を考慮していませんでした。特に立地条件が良好な大都市部の土地ほど、評価額が市場価格にくらべ低くなる傾向にありました。

実際、国税庁が発表した資料によれば、20階建以上のタワーマンションの階層別乖離率は平成30年の中央値で3.16倍あるとされています。
https://www.nta.go.jp/about/council/idenshi/20230601/shiryo.pdf
これを利用し、高額なタワーマンションを全額借入金で購入することで相続税を圧縮するという「タワマン節税」が行われてきました。
例えば、市場価格1億円のタワーマンションを1億円の借入金で購入したとします。そうすると相続税の計算では1億円の債務に対して改正前のタワーマンション評価額が3千万円になると差引き7千万円分の課税価格が圧縮される(相続税が減額される)仕組みです。

2.最高裁判決

ところが、令和4年4月19日にタワマン節税を否認した国側が勝訴するという最高裁判決がありました(令和2(行ヒ)283、民集76巻4号411頁)。判決の詳細は次回№188を参照して下さい。

判決の要旨は、
「相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとする。」という考え方です。

そして、この最高裁の事案の場合、
「当該不動産は、被相続人が購入資金を借り入れた上で購入したものであるところ、上記の購入及び借入れが行われなければ被相続人の相続に係る課税価格の合計額は6億円を超えるものであったにもかかわらず、・・・当該不動産の価額を上記通達の定める方法により評価すると、課税価格の合計額は2826万1000円にとどまり、・・・相続税の総額が0円になる。」
「そして、被相続人及び上告人らは、本件購入・借入れが近い将来発生することが予想される被相続人からの相続において上告人らの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて本件購入・借入れを企画して実行したというのであるから、租税負担の軽減をも意図してこれを行ったものといえる。」
「したがって、本件各不動産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するということはできない。」
と判示しました。

3.令和6年1月1日以降の評価方法

上記最高裁の判決を受けてマンションに適用される新しい評価額の計算式は、以下のように改正されました。なお算式中、「改正前評価額 × 評価乖離率」の部分が改正後の理論的な市場価格(時価)となります。また「最低評価水準0.6(定数)」の部分は、現行の戸建ての時価と相続税評価額の乖離が60%であることを踏まえたものです。

マンションの土地の相続税評価額=改正前評価額 × 評価乖離率 × 最低評価水準0.6(定数)

※改正前評価額=敷地全体の評価額(路線価等)×敷地権割合
※評価乖離率=①+②+③+④+⑤
① 築年数×△0.033
② 総階数÷33(1.0超は、1.0)×0.239(小数点以下第4位以下切捨)
③ 所在階×0.018
④ 敷地利用権面積(持分相当分)÷建物専有面積×△1.195(小数点以下第4位切上)
⑤ 3.220(国税庁にて指定の数値)

①の築年数は古いほど評価額が下がるので、1年あたり3.3%減少する計算です。
②の総階数は、33階を超えると一律23.9%加算です。逆に、33階以下は1階あたり約0.7%減少する計算です。
③の所在階は、1階ずつ上がるに連れて1.8%ずつ上昇する計算です。よって、低層階である程、加算率が抑えられる計算です。
④の敷地持分狭小度は、部屋の専有面積に対し敷地の持分が何%かの割合により変動し、割合が1%変動するごとに約1.1%評価が増減する仕組みです。よって、敷地に対して総戸数が少なければ、マイナスが大きくなり評価額が下がる計算になります。

例えば、上記の算式で評価乖離率が5の場合、敷地全体の評価額×敷地権割合が3,000万円であれば、3,000万円×5×0.6=9,000万円となります。改正前の評価額3,000万円に比して改正後は3倍の評価額となります。

改正後は、「築年数」「路線価」「総階数」「所在階」「総戸数(敷地持分狭小度)」を考慮して相続税評価額が算定されることになりました。

(完)

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