大槻雅章税理士事務所

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№150 相続税:死亡した代表者が有していた自社への貸付金

2021-08-01 | ブログ
2021.08.01

被相続人が有する貸付金や売掛金等の債権は、原則として元本に利息を加えた価額で評価されるので(財産評価基本通達204)、同族会社への貸付金等は被相続人の財産として課税されます。

ただし、課税時期(相続開始時)に一定の事実が発生しているような場合には、回収不能な部分は元本の価額に算入されません(財産評価基本通達205)

この取り扱いは、課税時期(相続開始時)において財産評価基本通達205の各項目に該当していることが厳密に求められるため、相続開始後に当該状況に当てはまったとしても回収不能部分の元本額不算入は認められません。

また、「その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」の事実認定は難しく、裁判例でも回収不能と認められなかった事例もあります。

裁判所は、原則として貸付金元本と利息の合計額で貸付金債権を評価すると定めた評価通達204と貸付金債権の評価の例外を定めた評価通達205は合理的であると指摘し、評価通達205にいう「その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」とは、評価通達205(1)ないし(3)の事由と同程度に、債務者が経済的に破綻していることが客観的に明白であり、そのため債権の回収の見込みがないか又は著しく困難であると確実に認められるときをいうものと解すべきとしています(東京地裁平成30年3月27日判決)。

財産評価基本通達205 (貸付金債権等の元本価額の範囲)
課税時期において次に掲げる金額に該当するときその他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときにおいては、それらの金額は元本の価額に算入しない。

(1) 債務者について次に掲げる事実が発生している場合の債権等の金額(その金額のうち、質権及び抵当権によって担保されている部分の金額を除く。)
①手形交換所(これに準ずる機関を含む。)において取引停止処分を受けたとき
②会社更生手続の開始の決定があったとき
③民事再生法の規定による再生手続開始の決定があったとき
④会社の整理開始命令があったとき
⑤特別清算の開始命令があったとき
⑥破産の宣告があったとき
⑦業況不振のため又はその営む事業について重大な損失を受けたため、その事業を廃止し又は6か月以上休業しているとき

(2) 再生計画認可の決定、整理計画の決定、更生計画の決定又は法律の定める整理手続によらないいわゆる債権者集会の協議により、債権の切捨て、棚上げ、年賦償還等の決定があった場合において、これらの決定のあった日現在におけるその債務者に対して有する債権のうち、その決定により切り捨てられる部分の債権の金額及び次に掲げる金額
①弁済までの据置期間が決定後5年を超える場合におけるその債権の金額
②年賦償還等の決定により割賦弁済されることとなった債権の金額のうち、課税時期後5年を経過した日後に弁済されることとなる部分の金額

(3) 当事者間の契約により債権の切捨て、棚上げ、年賦償還等が行われた場合において、それが金融機関のあっせんに基づくものであるなど真正に成立したものと認めるものであるときにおけるその債権の金額のうち(2)に掲げる金額に準ずる金額

この場合、貸付金債権等を相続財産に加えたくないという理由で、生前に債権放棄をする方法や資本に組み入れる方法(デット・エクイティ・スワップ)がありますが、債権放棄をした場合には、法人側では放棄してもらった金額を債務免除益に計上し、欠損金を超える部分には法人税が課税されます。
また、貸付金を資本に組み入れる(デット・エクイティ・スワップ)を行う場合にも債務者である同族法人の債務消滅益に課税される場合があります(同族会社の行為計算否認規定)。

(完)