大槻雅章税理士事務所

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№106 内部留保への課税

2017-10-22 | ブログ
2017.10.22 内部留保への課税

平成29年第48回衆議院選挙で某政党のホームページを見ると、「約300兆円ある大企業の内部留保への課税を検討し、プライマリーバランスの改善を図ります」「消費税の増税を凍結する代替財源として内部留保に課税を」という公約があります。

また、某政党の党首は「大企業の内部留保は2016年度で約406兆円もあり、これを使って賃上げを」という演説をしています。

企業の内部留保に課税するとか、内部留保を賃上げの財源にするという考え方には「大儲けしてガッポリ貯めている大企業の現金を庶民に分配しろ」といった文脈が感じ取れます。

内部留保とは何?でしょうか。企業が利益を内部留保することは悪い行為でしょうか?


結論からいうと、内部留保=現金ではありません。また、内部留保は悪いとも言い切れません。その理由は以下のとおりです。

内部留保というのは「企業の税引き後利益から株主に配当を支払った残りの利益剰余金」のことで、内部留保の一部は現金で残っていますが、多くは、現金で購入した在庫資産(材料・商製品)、固定資産(建物・機械・不動産)、投資資産(有価証券・保険積立金)などに姿を変えています。

この内部留保に課税すると、キャッシュが残っていない企業は固定資産や投資資産を売却して税金を支払わないといけないので、市場経済は大混乱となります。

特に国際業務に携わる銀行は、バーゼル合意(BIS規制)により自己資本比率の達成すべき最低水準(8%以上ないしは10.5%以上)を定められていますので、内部留保が少ないメガバンクは国際業務ができなくなります。

つまり、企業が将来の安全を考えて内部留保を蓄えることを悪いと言えず、内部留保を減らすことが良いとも言えません。

以前の法人税法では、企業を同族会社と非同族会社に区分し、同族会社の内部留保に対して留保金課税制度を適用していました。同族会社の配当を促進し、配当をしている非同族会社との課税の公平性を理由とした課税制度でした。同族会社は、株主=経営者という関係であるため、株主である自分自身に配当すると所得税が課税されるので、ほとんどの同族会社の経営者は配当をしていません。

しかし、日本では法人の大多数が中小同族会社であり、中小企業の内部留保を充実させ、企業体質の健全化と強化を図る観点から、平成19年法人税の改正で、資本金が1億円以下の中小同族会社についてはこの留保金課税制度の適用は撤廃になりました。

ただし、経済の活性化のためには、企業のキャッシュを設備、給料、配当などに振り向けさせる税制が求められます。実際に、現行の法人税法では、設備投資や雇用の増加に応じて減税する税制優遇措置が実施されています(No77参照)。また、受取配当等の益金不算入制度の見直しも行われています(No88参照)。

(完)