大槻雅章税理士事務所

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№186 法人税:移転価格税制

2024-08-13 | ブログ
2024.08.13

日本の親会社が海外の子会社に商品を販売するとき、第三者へ販売する通常価格より低い価格で販売すると、日本の親会社の利益は通常より少なくなるので、結果として日本から海外へ利益が移転したことになります。相手国の税率が日本より低ければ、この取引によってグループ会社全体の税負担が減ります。
このような利益の海外移転を防止するためには、海外の関連会社との取引価格が通常の取引価格と同じになるように、課税所得の再計算をする必要があります。支配関係がない第三者と同水準の価格に是正する必要があるからです。
今回は移転価格税制について質問がありましたので概略を説明します。

1. 移転価格税制の概要

企業が「海外の関連企業(国外関連者)との取引価格(移転価格)」を通常の価格と異なる金額に設定すれば、一方の利益を他方に移転することが可能となります。移転価格税制は、このような海外の関連企業との間の取引(国外関連取引)を通じた所得の海外移転を防止するため、国外関連者との取引が、通常の取引価格(独立企業間価格)で行われたものとみなして所得を計算し、課税する制度をいいます(財務省HP)。

国外関連者とは、対象となるその法人との間に50%以上の株式の保有関係等の特殊の関係のある外国法人をいいます。

2.移転価格の算定方法

日本の移転価格税制において規定されている独立企業間価格算定方法として以下の①~⑤までの方法があります。
基本的には①②③(基本三法)が採用されています。算定方法の選び方については、各事案に合わせて最も適切な方法を選ぶことが求められます。②は主に海外子会社から仕入れた製品を第三者に販売する場合に用いられ、③は主に第三者から仕入れた商品を海外子会社に販売する場合に用いられます。

① 独立価格比準法・・・非関連者の類似の取引を参照し、価格を比較する方法
② 再販売価格基準法・・・売上高に対する粗利率を非関連者の類似の取引と比較する方法
③ 原価基準法・・・売上原価に対する粗利率を非関連者の類似の取引と比較する方法
④ 利益分割法・・・合算営業利益を分割する方法
⓹ 取引単位営業利益法・・・主に比較対象企業の営業利益率と比較する方法

3.移転価格文書化制度

移転価格税制等に係る文書化制度(移転価格文書化制度)として、以下の①~③までの措置が講じられています。

① 独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類(ローカルファイル)に関する同時文書化義務

前事業年度に一の国外関連者との間で行った国外関連取引の合計額が 50 億円以上又は無形資産取引の合計額が3億円以上である法人は、「独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類(ローカルファイル)」を確定申告書の提出期限までに作成又は取得し、保存することが義務付けられています(同時文書化義務)。

具体的には、国外関連取引の内容を記載した書類として、国外関連取引に係る資産及び役務の内容や、国外関連取引において法人及び国外関連者が果たす機能・リスク、国外関連取引に係る法人及び国外関連者の損益の明細、事業の内容、事業の方針等を記載した書類を作成、取得等する必要があります。また、独立企業間価格を算定するための書類として、独立企業間価格の算定方法、その方法を選定した理由、比較対象取引の選定方法、比較対象取引の明細等を作成、取得等する必要があります。なお、同時文書化義務は、平成 29年4月1日以後に開始する事業年度から適用となります。

② 国別報告事項(CbC レポート)の提供

多国籍企業グループの事業活動が行われる国又は地域ごとの収入金額、税引前当期利益の額、納付税額等を記載する「国別報告事項(CbC レポート)」の提供を求める制度が創設されました。
CbC レポートについては、最終親会社等の直前の会計年度の連結総収入金額 1,000億円以上の多国籍企業グループに対して、国税電子申告・納税システム(e-Tax)により所轄税務署長に提供することが義務付けられています。提供期限は、最終親会社等の会計年度終了の日の翌日から1年以内となっており、適用対象年度は、平成 28年4月1日以後に開始する最終親会社等の会計年度からとなっています。

③ 事業概況報告事項(マスターファイル)の提供

多国籍企業グループの組織構造、事業の概要、財務状況等のグローバルな事業活動の全体像を記載する「事業概況報告事項(マスターファイル)」の提供を求める制度が創設されました。
マスターファイルについては、CbC レポートと同様に、最終親会社等の直前の会計年度の連結総収入金額が 1,000 億円以上の多国籍企業グループに対して、e-Tax により所轄税務署長に提供することが義務付けられています。提供期限は、最終親会社等の会計年度終了の日の翌日から1年以内となっており、適用対象年度は、平成 28年4月1日以後に開始する最終親会社等の会計年度からとなっています。

4.事前確認制度

移転価格税制においては「事前確認制度(APA:Advance Pricing Arrangement)」が導入されています。事前確認とは、企業の申出によって国外関連取引に係る独立企業間価格の算定方法及びその具体的内容について、税務署長等が事前に確認を行うことです。
事前確認を受けた国外関連者間取引については、独立企業間価格で行われたものとして取り扱われます。

事前確認の手続きの流れは次の通りです。
・ 国税庁および所轄国税局と事前相談
・ 事前確認の申請(対象事業年度、国外関連者、対象取引、独立企業間価格の算定方法)
・ 国税局による事前確認の審査
・ 相手国の税務当局と相互協議
・ 合意(=確認通知をもってAPAの取得)

5.その他の注意点

① 海外の子会社から受け取った配当金は、海外で課税後の利益の配当であり、事業取引から生ずる利益の代わりに、配当金を増やしたとしても、移転価格上の所得調整とはなりません。

② 現地のパートナー会社と合弁会社を設立する場合、設立段階で移転価格について現地のパートナー会社と協議し、設立後においても移転価格税制に従った価格設定を行う必要があります。

(完)