2016.07.30 借用概念と固有概念
税法は私的な経済取引に課税するという法律です。したがって、経済取引を規律する私法上の概念を用いて税法を規定する場合がほとんどです。
このように、税法以外の法領域で用いられる用語や概念を税法がそのまま用いている場合を「借用概念」といいます。
ただし、税法以外の法領域では用いられていない=税法固有の用語や概念もあります。これを「固有概念」といいます。
法的安定性の観点からいうと、税法自ら他の法領域と異なる意味内容であるとする「明文規定」を除いて、借用概念は、本来の法領域と同意義に解するべきであるというのが我が国の判例・学説となっています。
次に固有概念は、他の法領域の規定には見られない税法独自の規定ですが、よく例にされるのが法人税法上の「所得」という固有概念です。
「所得」は、経済取引で稼得した当期利益に法人税法独自の加算・減算をして算出しますが、この「所得」に不法な利得や無効な利得を含めるかについては見解が分かれます。
例えば横領は不法な利得ですが、私法上有効な利得のみが課税の対象となる所得であるという法的評価を重視すれば所得ではありません。しかし、我が国では担税力を重視して、担税力を増加させる横領は所得として課税の対象としています。
相続税法では、納税義務者を「相続または遺贈により財産を取得した個人で当該財産を取得した時においてこの法律の施行地に住所を有するもの」と定めています(相法1の三)が、この条文の「相続」は民法規定の借用概念となります。
つまり、相続税法は民法の相続の規定を借用することを課税の前提にしているわけです。
ただし、民法の規定と相続税法の概念は全てが同じではありません。
例えば、民法では何人でも養子縁組できますが、相続税法では子供がいる場合の養子は1人、子供がいない場合は2人までしか基礎控除を認めていません(相法15②)。
また、民法では受取人を指定している生命保険契約は、その者の固有の権利として取得するので相続財産とはなりませんが、相続税法ではみなし相続財産として課税対象となります(相法3一)。
退職金も民法では相続財産とはなりませんが、相続税法ではみなし相続財産として課税対象となります(相法3二)。
さらに税法独自の規定として、相続開始日前3年以内に財産の贈与を受けた場合には、贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなされます(相法19)。
ただし、贈与を受けたときに支払った贈与税額は相続税額から差し引くことができます(贈与税額控除)。
このように相続においては、民法には規定されていない相続税法独自の固有概念に十分に注意する必要があります。
(完)
税法は私的な経済取引に課税するという法律です。したがって、経済取引を規律する私法上の概念を用いて税法を規定する場合がほとんどです。
このように、税法以外の法領域で用いられる用語や概念を税法がそのまま用いている場合を「借用概念」といいます。
ただし、税法以外の法領域では用いられていない=税法固有の用語や概念もあります。これを「固有概念」といいます。
法的安定性の観点からいうと、税法自ら他の法領域と異なる意味内容であるとする「明文規定」を除いて、借用概念は、本来の法領域と同意義に解するべきであるというのが我が国の判例・学説となっています。
次に固有概念は、他の法領域の規定には見られない税法独自の規定ですが、よく例にされるのが法人税法上の「所得」という固有概念です。
「所得」は、経済取引で稼得した当期利益に法人税法独自の加算・減算をして算出しますが、この「所得」に不法な利得や無効な利得を含めるかについては見解が分かれます。
例えば横領は不法な利得ですが、私法上有効な利得のみが課税の対象となる所得であるという法的評価を重視すれば所得ではありません。しかし、我が国では担税力を重視して、担税力を増加させる横領は所得として課税の対象としています。
相続税法では、納税義務者を「相続または遺贈により財産を取得した個人で当該財産を取得した時においてこの法律の施行地に住所を有するもの」と定めています(相法1の三)が、この条文の「相続」は民法規定の借用概念となります。
つまり、相続税法は民法の相続の規定を借用することを課税の前提にしているわけです。
ただし、民法の規定と相続税法の概念は全てが同じではありません。
例えば、民法では何人でも養子縁組できますが、相続税法では子供がいる場合の養子は1人、子供がいない場合は2人までしか基礎控除を認めていません(相法15②)。
また、民法では受取人を指定している生命保険契約は、その者の固有の権利として取得するので相続財産とはなりませんが、相続税法ではみなし相続財産として課税対象となります(相法3一)。
退職金も民法では相続財産とはなりませんが、相続税法ではみなし相続財産として課税対象となります(相法3二)。
さらに税法独自の規定として、相続開始日前3年以内に財産の贈与を受けた場合には、贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなされます(相法19)。
ただし、贈与を受けたときに支払った贈与税額は相続税額から差し引くことができます(贈与税額控除)。
このように相続においては、民法には規定されていない相続税法独自の固有概念に十分に注意する必要があります。
(完)