大槻雅章税理士事務所

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№193 所得税:所得金額とは

2025-03-02 | ブログ
2025.03.02

昨今、いわゆる「103万円の壁」論争で所得の意味を間違って理解しているケースが見受けられます。そこで今回は、所得税法で定める所得について解説します。課税の対象となる所得は課税の目的に応じて分類され、次の1から6の段階を経て納税額を計算します。
そして、本稿の最後に国民民主党案と自民党案を比較衡量したいと思います。

1. 総合所得

所得税法において、「所得の金額」とは、その年の収入金額から収入を得るために直接要した金額等(必要経費や給与所得控除額等の一定の控除額)を差し引いた残りの金額をいいます。
所得は10種類(利子・配当・不動産・事業・給与・退職・山林・譲渡・一時・雑)に分類されています。

10種類に分類されるのは、所得の種類に応じて計算に差を設けるためです。例えば、退職所得は長年にわたる勤務に対する対価を退職時に一時に受け取るものであるという理由で、他の所得と区分して軽課(退職所得額控除後の残額の1/2に課税し、さらに他の所得と合算されずに分離課税)されます。

10種類の所得のうち、分離課税の適用を受ける利子所得及び配当所得、並びに山林所得及び退職所得は下記2の分離課税とされますが、残りの所得は合計して総合課税されます。これらの所得を総合所得といいます。

2. 分離所得

所得税は、上記1の総合課税が原則ですが、下記①~⑥の所得については、他の所得と合算せず、分離して税額を計算します。これらの所得を分離所得といいます。

① 土地・建物等の譲渡所得(長期及び短期)
② 上場株式等に係る配当所得(平成28年1月1日以後に支払を受けるべき特定公社債等の利子等に係る利子所得含む)
③ 株式等に係る譲渡所得(上場及び上場以外)
④ 先物取引に係る雑所得等
⑤ 山林所得
⑥ 退職所得

3. 合計所得金額

合計所得金額とは、事業所得・不動産所得・給与所得・総合課税の利子所得・配当所得・短期譲渡所得及び雑所得の合計額(損益通算後の金額)に、総合所得の長期譲渡所得と一時所得の合計額(損益通算後の金額)の2分の1の金額並びに退職所得及び山林所得(損益通算後の金額)を加算した金額です。
また、上記2の①②③④の分離所得がある場合には、これらの分離所得(長(短)期譲渡所得については特別控除前の金額)の合計額が加算されます。

合計所得金額を用いて判定されるものには、以下のものがあります。
① 配偶者控除、扶養控除の所得判定
② 配偶者特別控除の所得1,000万円超の判定
③ 寡婦、ひとり親控除の所得要件(500万円以下)の判定
④ 個人住民税の均等割の非課税限度額
⑤ 個人住民税の障害者、未成年者、寡婦、ひとり親の非課税限度額

判定上の注意すべき点として、上場株式等の譲渡損失の繰越控除や特別控除(居住用財産の3,000万円等)を適用した場合は、繰越控除前、特別控除前の合計所得金額で判定されます。
特に、確定申告で上場株式の譲渡所得の繰越損失を適用し、還付申告する場合には注意が必要です。

4.総所得金額

総所得金額とは上記1の総合所得のうち、損益通算並びに純損失の繰越控除及び雑損失の繰越控除を適用した後の金額をいいます。

5.総所得金額等

総所得金額等とは、上記3の合計所得金額から、純損失または雑損失等の繰越控除を控除した後の合計所得のことをいいます。 総合所得のみで構成される「総所得金額」に「分離所得」が加算されることから、総所得金額等といいます。なお、分離課税される土地・建物等の譲渡所得に伴う「特別控除」を適用する前の金額です。

6.課税所得金額

課税所得金額とは、上記5の総所得金額等から分離所得の土地・建物等の譲渡所得に伴う特別控除を適用し、さらに基礎控除等の所得控除を適用した後の所得金額をいいます。
課税所得金額に税率を適用して納税額を計算します。

7.まとめ

国民民主党が主張する「103万円の壁」の解決策は基礎控除の増額です。この方法は、全ての納税者が対象となるため莫大な財源を要します。また、土地・建物等の譲渡、株式等の譲渡などの分離所得を含む課税所得から減税するので高額所得者に恩恵があります。
一方、自民党案は、給与所得控除額の増額など、総合所得の範囲内で段階的に減税します。これは財源が少なくて済み、実現の可能性が高い方法です(№190、№192を参照)。
二つの案のバランスを取ることが、多くの納税者にとって中立で公正な解決策になると考えます。

(完)