2018.12.24 判例評釈:過大役員退職慰労金の否認
役員に支給する退職金は適正額のみが損金の額に算入されます。そこで、今回は法人が支払った役員退職慰労金が過大か否か争われた最近の裁判例を取り上げ、納税者側が敗訴したケースと納税者側が勝訴したケースをそれぞれ紹介します。
1.納税者側が敗訴したケース
(平成29.4.25東京高裁判決、平成29年(行コ)第334号、同30年(行コ)第274号)
①事実の概要
法人が死亡退職した元代表取締役に支給した役員退職慰労金を損金算入した確定申告につき、税務署が役員退職慰労金のうち不相当に高額な部分の損金算入を否認したため、その取消しを求めて法人側が提訴したところ、一審の東京地裁が一定金額の部分は退職給与として相当とする判決を言い渡したため、その判断を不服とした税務署側が控訴した事案である。
②争点
原審は、税務署側主張の平均功績倍率にその半数を加えた率に元代表者の最終報酬月額及び勤続年数を乗じた金額相当額(3億円余)までの部分は退職給与として相当と判断した。
これに対し、税務署側は、平均功績倍率は同業類似法人の抽出を合理的に行った上で、法人税法の趣旨に最も合致する合理的な方法で算定されたものであると主張した。
③判旨
東京高裁は、元代表者の具体的な貢献の態様及び程度が明らかではなく、同業類似法人の平均功績倍率によってもなお、同業類似法人の役員に対する退職給与の支給状況として把握されたとは言い難いほどの極めて特殊な事情があったとまでは認められないと判示して、原処分庁が認定した額が元代表者に対する退職給与として相当であると判断した。
2.納税者側が勝訴したケース
(平成29.10.13東京地裁判決、平成27年(行ウ)第730号)
①事実の概要
法人が死亡退職した元代表取締役に支払った退職慰労金の額を損金算入した確定申告ににつき、税務署が役員退職給与の額のうち不相当に高額な部分の金額は損金の額に算入されないとする法人税の更正処分をしたため、法人がその取消しを求めて提訴したという事案である。
②争点
法人は、退職役員の最終月額報酬額×役員在職年数×平均功績倍率の算式を用いて4億円超の役員退職給与を支払った。これに対し税務署は、類似の5法人を機械的に抽出し、抽出基準及び抽出方法は合理的であるとした上で、5法人の平均功績倍率は3.26であり、その功績倍率に死亡した役員の最終報酬月額及び勤続年数を乗じると2億1000万円程度となることから、その額を超える額は不相当に高額な部分の金額(法法34②)に該当すると指摘、損金の額には算入されないと主張した。
③判旨
平均功績倍率(同業類似法人の役員退職給与の支給事例における当該役員退職給与の額をその退職役員の最終月額報酬額に勤続年数を乗じた額で除して得た倍率である功績倍率の平均値)に、当該退職役員の最終月額報酬額及び勤続年数を乗じる方法(いわゆる平均功績倍率法)を用いて役員退職給与の相当額を算定する場合において、少なくとも課税庁側の調査による平均功績倍率の数にその半数を加えた数を超えない数の功績倍率により算定された役員退職給与の額は、当該法人における当該役員の具体的な功績等に照らしその額が明らかに過大であると解すべき特段の事情がある場合でない限り、法人税法施行令70条2号にいう「その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額」を超えるものではない。
3.筆者解説
ケース1の納税者側が敗訴した判決では、当該役員の具体的な貢献の態様及び程度が明らかでないことを指摘し、同業類似法人の役員に対する退職給与の支給状況に比して極めて特殊な事情があったとは認められないと判示しています。
ケース2の納税者側が勝訴した判決では、当該役員の具体的な功績等に照らし支給額が明らかに過大であると解すべき特段の事情がある場合でない限り、退職給与として相当であると認められる金額を超えるものではないと判示しています。
つまり退職する役員の貢献度の証明を納税者側がすべきか、課税庁側がすべきかで真逆の判決となっています。
私見としては、法人は社内規定に基づき役員退職慰労金を支給し「事業規模が類似する同業類似法人の退職金の支給額」と比較検討できないことから、これらのデータを課税庁側が開示する必要があると考えます。
また、役員の功績・貢献度の具体的な基準、それを法人側が明らかにする手段・方法を課税庁側が示し、それを明定ないしは通達すべきであると考えます。
次回は過大役員給与の裁決事例を検討します。
(完)
役員に支給する退職金は適正額のみが損金の額に算入されます。そこで、今回は法人が支払った役員退職慰労金が過大か否か争われた最近の裁判例を取り上げ、納税者側が敗訴したケースと納税者側が勝訴したケースをそれぞれ紹介します。
1.納税者側が敗訴したケース
(平成29.4.25東京高裁判決、平成29年(行コ)第334号、同30年(行コ)第274号)
①事実の概要
法人が死亡退職した元代表取締役に支給した役員退職慰労金を損金算入した確定申告につき、税務署が役員退職慰労金のうち不相当に高額な部分の損金算入を否認したため、その取消しを求めて法人側が提訴したところ、一審の東京地裁が一定金額の部分は退職給与として相当とする判決を言い渡したため、その判断を不服とした税務署側が控訴した事案である。
②争点
原審は、税務署側主張の平均功績倍率にその半数を加えた率に元代表者の最終報酬月額及び勤続年数を乗じた金額相当額(3億円余)までの部分は退職給与として相当と判断した。
これに対し、税務署側は、平均功績倍率は同業類似法人の抽出を合理的に行った上で、法人税法の趣旨に最も合致する合理的な方法で算定されたものであると主張した。
③判旨
東京高裁は、元代表者の具体的な貢献の態様及び程度が明らかではなく、同業類似法人の平均功績倍率によってもなお、同業類似法人の役員に対する退職給与の支給状況として把握されたとは言い難いほどの極めて特殊な事情があったとまでは認められないと判示して、原処分庁が認定した額が元代表者に対する退職給与として相当であると判断した。
2.納税者側が勝訴したケース
(平成29.10.13東京地裁判決、平成27年(行ウ)第730号)
①事実の概要
法人が死亡退職した元代表取締役に支払った退職慰労金の額を損金算入した確定申告ににつき、税務署が役員退職給与の額のうち不相当に高額な部分の金額は損金の額に算入されないとする法人税の更正処分をしたため、法人がその取消しを求めて提訴したという事案である。
②争点
法人は、退職役員の最終月額報酬額×役員在職年数×平均功績倍率の算式を用いて4億円超の役員退職給与を支払った。これに対し税務署は、類似の5法人を機械的に抽出し、抽出基準及び抽出方法は合理的であるとした上で、5法人の平均功績倍率は3.26であり、その功績倍率に死亡した役員の最終報酬月額及び勤続年数を乗じると2億1000万円程度となることから、その額を超える額は不相当に高額な部分の金額(法法34②)に該当すると指摘、損金の額には算入されないと主張した。
③判旨
平均功績倍率(同業類似法人の役員退職給与の支給事例における当該役員退職給与の額をその退職役員の最終月額報酬額に勤続年数を乗じた額で除して得た倍率である功績倍率の平均値)に、当該退職役員の最終月額報酬額及び勤続年数を乗じる方法(いわゆる平均功績倍率法)を用いて役員退職給与の相当額を算定する場合において、少なくとも課税庁側の調査による平均功績倍率の数にその半数を加えた数を超えない数の功績倍率により算定された役員退職給与の額は、当該法人における当該役員の具体的な功績等に照らしその額が明らかに過大であると解すべき特段の事情がある場合でない限り、法人税法施行令70条2号にいう「その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額」を超えるものではない。
3.筆者解説
ケース1の納税者側が敗訴した判決では、当該役員の具体的な貢献の態様及び程度が明らかでないことを指摘し、同業類似法人の役員に対する退職給与の支給状況に比して極めて特殊な事情があったとは認められないと判示しています。
ケース2の納税者側が勝訴した判決では、当該役員の具体的な功績等に照らし支給額が明らかに過大であると解すべき特段の事情がある場合でない限り、退職給与として相当であると認められる金額を超えるものではないと判示しています。
つまり退職する役員の貢献度の証明を納税者側がすべきか、課税庁側がすべきかで真逆の判決となっています。
私見としては、法人は社内規定に基づき役員退職慰労金を支給し「事業規模が類似する同業類似法人の退職金の支給額」と比較検討できないことから、これらのデータを課税庁側が開示する必要があると考えます。
また、役員の功績・貢献度の具体的な基準、それを法人側が明らかにする手段・方法を課税庁側が示し、それを明定ないしは通達すべきであると考えます。
次回は過大役員給与の裁決事例を検討します。
(完)