大槻雅章税理士事務所

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№26 移転価格税制

2011-02-08 | ブログ

2010.12.24 法人税・国際課税/移転価格税制

前回№25で外国子会社配当益金不算入制度を解説したところ、たくさんのお問い合わせを頂きました。その中でも多かったのが、日本の親会社と海外の子会社との間で行う取引に課税されるケースに関するものでした。そこで今回は、外国子会社との取引に課税される移転価格税制を解説したいと思います。

(1)移転価格税制の基本的な仕組み

 移転価格税制とは、法人が一定の資本関係又は実質的な支配関係のある海外の関連会社(以下「国外関連者」という。)との間で資産の販売、資産の購入、役務の提供その他の取引(以下「国外関連取引」という。)を行った場合に、
①その法人が国外関連者から支払を受ける対価の額が第三者との通常の取引価格(以下「独立企業間価格」という。)に満たないとき、又は、
②その法人が国外関連者に支払う対価の額が独立企業間価格を超えるときは、
その国外関連取引は、独立企業間価格で行われたものとみなして法人の所得計算を行うというものです(措法66の4①)。

 例えば、日本の親会社が海外の子会社に独立企業間価格より安い移転価格で製品を輸出している場合には、親会社の売上額は通常取引より減少するので、親会社の所得は圧縮され、その分だけ外国子会社の所得が増大することになります。
また、日本の親会社が海外の子会社から独立企業間価格より高い移転価格で製品を輸入している場合には、親会社の仕入額は通常取引より増加するので、親会社の所得は圧縮され、その分だけ外国子会社の所得が増大することになります。

 日本より税率の低い海外に子会社を設立し、その外国子会社との間で上記例のような取引をすれば、グループ全体としては、税の負担を軽減することが可能となります。
そこで、このような場合には、わが国の法人の所得を独立企業間価格に基づいて増額させるのが移転価格税制です。

(2)移転価格税制の対象となる法人

 移転価格税制の適用対象となる法人は、わが国の法人税の課税対象となる法人です。したがって、内国法人のほか、外国法人も移転価格税制の対象となります。

(3)国外関連者

 国外関連者とは、法人と特殊の関係(二の法人のいずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式又は出資の100分の50以上を直接又は間接に保有する関係)にある外国法人をいいます(措令39の12①)。

(4)移転価格税制の対象となる国外関連取引

 移転価格税制の対象となる取引は、法人が国外関連者との間で行う資産の販売、資産の購入、役務の提供その他の取引です。
 すなわち、国外関連者から支払いを受ける対価が独立企業間価格に満たない取引及び国外関連者に支払う対価が独立企業間価格を超える取引が移転価格税制の対象となる取引となります(措法66の4①)。
 逆に、支払いを受ける対価が独立企業間価格よりも高い場合や、支払う対価が独立企業間価格よりも少ない場合は、移転価格税制は適用されません。

(5)独立企業間価格の算定方法

 独立企業間価格の算定方法は、棚卸資産の売買については次の方法により算定するものとされています(棚卸資産の売買以外の取引についてもこれに準ずる)。①~③を基本3法といい、基本3法が使用できないときは④が基本3法に準ずる方法として認められています。

①独立価格比準法(措法66の4①一イ)
特殊の関係にない者(以下「非関連者」という。)が同種の棚卸資産を同様の状況下で売買した対価の額を国外関連取引の対価の額とする方法。

②再販売価格基準法(措法66の4①一ロ)
非関連者への再販売価格から通常の利潤の額を控除して算定する方法。この場合、通常の利潤の額は、類似の棚卸資産について非関連者間で行われた類似の取引に係る売手の利益率を用いて算定します。

③原価基準法(措法66の4①一ハ)
製造等の原価の額に通常の利潤の額を加算して算定する方法。この場合、通常の利潤の額は、類似の棚卸資産について非関連者間で行われた類似の取引に係る売手の利益率を用いて算定します。

④基本3法に準ずる方法(措法66の4①一ニ)
(A)寄与度利益分配法(措令39の12⑧一)
所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因として、支出した人件費、減価償却費の額に応じて国外関連取引の対価の額を算定します。

(B)比較利益分割法(措通66の4(4)-4)
国外関連取引と類似の状況下で行われた非関連者間取引に係る利益の配分割合を用いて、独立企業間価格を算定します。

(C)残余利益分割法(措通66の4(4)-5)
法人又は国外関連者が重要な無形資産を有する場合には、重要な無形資産の価値に応じて合理的に独立企業間価格を算定します。無形資産には、著作権・特許権・実用新案権・意匠権・商標権等があります。

(D)取引単位営業利益法:棚卸資産の販売の場合(措令39の12⑧二)
次の算式で算定します。
独立企業間価格=再販価格-(再販価格×売上高営業利益率+販管費)
※売上高営業利益率=営業利益の額÷収入金額

(E)取引単位営業利益法:棚卸資産の購入の場合(措令39の12⑧三)
次の算式で算定します。
独立企業間価格=取得原価+(取得原価+経費)×総原価営業利益率+販管費
※総原価営業利益率=営業利益の額÷(収入金額-営業利益の額)

(6)事前確認制度

 独立企業間価格の算定方法等について、事前に税務当局と納税者の間で合意する制度として事前確認制度があります。事前確認を受けようとする法人は、「独立企業間価格の算定方法等の確認に関する申出書」をその国外関連者の所在地国ごとに法人の納税地の税務署長に提出します。

(7)相互協議及び対応的調整

 移転価格税制が適用されると、法人と国外関連者を一体としてみると国際的二重課税が生じることから、租税条約に基づき、納税者は権限ある当局に相互協議を申し立てることができます。具体的には、必要事項を記載した「相互協議申立書」を、その所轄税務署長を経由して国税庁長官に提出して申し立てを行うことになります(租実規12)。
 そして、権限ある当局による相互協議により合意があった場合には、納税者の合意の下、その合意内容に従った減額が行われます。
 なお、租税条約相手国が国外関連者に移転価格課税を行った場合には、租税条約に基づく権限ある当局間の合意により、わが国に所在する関連企業の所得を減額する対応的措置が行われることとなっています(租実法7、通法23、通令6①)。

(完)