大槻雅章税理士事務所

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№178 所得税:生活に通常必要な資産の譲渡による所得

2023-12-22 | ブログ
2023.12.22

近年、ロレックス等の高級時計は「生活に通常必要な資産」に該当するため転売による所得は非課税である、という広告が業者のホームページ等でよく見られます。そこで今回は、「生活に通常必要な資産」ついて考察したいと思います。

1.生活に通常必要な資産

我が国の所得税法では、自己又はその配偶者その他の親族が「生活の用に供する」家具、じゆう器、衣服その他の資産で政令で定めるものの譲渡による所得については所得税を課さないと規定しています(所法9①九)。

そして、政令で定めるものとは、①一個又は一組の価額が 30 万円を超える貴石、半貴石、貴金属、真珠及びこれらの製品、べっこう製品、さんご製品、こはく製品、ぞうげ製品並びに七宝製品、②書画、こっとう及び美術工芸品以外のものと規定しています(所令25)。

2. 生活に通常必要のない資産

また一方で、生活に通常必要のない資産は次の通り規定しています(所令178①)。
一. 競走馬(その規模、収益の状況その他の事情に照らし事業と認められるものの用に供されるものを除く。)その他射こう的行為の手段となる動産
二. 通常自己及び自己と生計を一にする親族が居住の用に供しない家屋で主として趣味、娯楽又は保養の用に供する目的で所有するものその他主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する資産
三. 生活の用に供する動産で上記の所令25条の規定に該当しないもの

3.生活に通常必要であるか否かの判断基準

上記のように「生活に通常必要な資産」と「生活に通常必要のない資産」は限定列挙されているわけですが、ここで問題となるのは、生活に通常必要であるか否かの判断基準は何かということです。これに関し、裁判では「客観性」が争点となっており、判決文では以下のように判示されています。

①その客観的性質だけからは「生活に通常必要でない資産」であるかどうかを判別することができないことから一定の保有目的による限定が加えられている(大阪高裁平成8年11月8日判決)。
②「主観的な意思」によらず、客観的に主たる所有目的を認定すべきであり、仮に所有目的が「主観的な意思」によるものであったとしても、このことは、客観的な所有目的の認定を妨げるものではない(東京地裁平成10年2月24日判決)。
③個人の主観的意思という抽象的なものは、外部からは容易に知り難いものであり、その認定に当たっては、客観的事実を軽視し、個人の主観的意思を重視することは税負担の公平と租税の適正な賦課徴収を実現する上で適当ではない(仙台高裁平成13年4月24日判決)。

以上の判決を踏まえて、ロレックス等の高級時計が「生活に通常必要な資産」であるかどうかを考えると、①その資産自体が持っている「客観的性質」がいかなるものであるか、②その資産を所有していることが「通常」かつ「必要」であるか否か、③非課税資産の認定が公平で適正な課税の妨げにならないか?等について、客観的に判断されることになります。

具体的には、転売したロレックス等の高級時計に施行令25条に定める貴金属等としての性質がないか?転売が業務として又は事業として行われていないか?所有目的が通常かつ必要なものであるか?等が税務当局によって客観的に検討されことになるでしょう。

(完)