2013.05.18 国際課税:「住所」と「生活の本拠」の関係
日本国内より外国で暮らす日数の方が多い個人に対して、日本の所得税が課税されるのか、外国の税法が適用されるのか判断に困る場合があります。
日本より所得税率の低い外国で所得課税される方が有利になるという理由で、住民登録を外国の住居に移せばよいのでは?と考える人もいます。しかし、この考えは間違っています。
そこで今回は「住所」と「生活の本拠」の関係につて解説したいと思います。なお、日本と外国の間で生じる国際二重課税の問題については後日解説します。
所得税の納税義務者のうち「居住者」は、所得の源泉が国内にあるか国外にあるかを問わず、全世界所得について納税義務を負い(所法5条1項、同7条1項1号)、「非居住者(居住者以外の個人)」は、国内源泉所得についてのみ納税義務を負います(同5条2項、同7条1項3号)。
居住者とは、「国内に住所を有し、または現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人(同2条1項3号)」のことで、さらに、居住者は非永住者と永住者に区分されます。
非永住者とは、居住者のうち、日本国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人のことです(同2条1項4号、所基通2-3)。非永住者の場合は、国内源泉所得及び国外源泉所得のうち日本国内で支払われた、又は国外から送金されたものが課税対象となります。
永住者とは、居住者のうち非永住者以外の個人のことです。永住者の場合は、国内払いか国外からの送金かにかかわらず、全ての所得が課税対象となります。
つまり、国内に「住所」を有する個人のうち、日本国籍を有する居住者は永住者となりますから、全世界所得に日本の所得税が課税され、外国で課税された税額を一定の要件で日本の所得税から外国税額控除することになります。具体的には日本で確定申告をして全世界所得に係る税額を精算することになります。
ここで「住所」とは「個人の生活の本拠」を意味し(所基通2-1)、これは民法21条にいう住所と同じ概念です。そこで争点となるのが「個人の生活の本拠」の認定基準です。これについては、次のような裁判例があります。
<事実の概要>
「芦屋市に本店が所在するX会社は、国内外に多くの関連企業を有し、そこで製造した電気製品を世界各国に輸出している。X会社は代表取締役Aに給与を支払った際、Aが業務の必要上香港に居住し、同所に住民登録をして同所を拠点に世界各地に出張し業務を遂行しているものであるから、その住所は香港にあるとの理由でAが非居住者に該当するとして、20%の税額を徴収・納付した。しかし、Y税務署長は、Aが居住者に該当するとしてX会社に対し、源泉徴収所得税の徴収不足額につき納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分をした。」
<判決>
この事案で裁判所は住所について、
「租税法は多数人を相手方として課税を行なう関係上、便宜、客観的な表象に着目して画一的に規律せざるを得ないところからして、客観的な事実、即ち住居、職業、国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有するか否か、資産の所在等に基づき判定するのが相当である。」
としました。
その上で生活の本拠について、
「Aは、日本国籍を有し、芦屋市に本籍を有し、宅地及び住宅を所有し、同人の妻及び長女を居住させている(いずれも住民登録をしている)。なお、Aは三和銀行芦屋支店に預金口座を設け、右土地と家屋の固定資産税を同預金口座より振替納税し、さらに右家屋のガス、電気、水道の使用料も同預金口座より振替支払われた。」などの認定事実を列挙して、Aについては、国内における居宅及び預金などの所有状況、夫婦同居の確認、職業などから住所は国内にあり、したがってAは所得税法2条1項3号にいう「居住者」に該当する」
として、X会社の請求を棄却しました(大阪高裁、昭和61年9月25日判決、訟月33巻5号1297頁)。
上告審もこの判決を是認しています(最高裁、昭和63年7月15日判決、税資165号324頁)。
以上をまとめると、「居住者」であるか否かについては、「住所」が国内にあるか否かにより判定されますが、その「住所」の意義について所得税法は、「各人の生活の本拠をその者の住所とする」という民法の概念を借用しています。
そして、生活の本拠がどこにあるかの判断は、その者の住居、職業、国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有するか否か、資産の所在等に基づき判定されることになります。
(完)