大槻雅章税理士事務所

http://otsuki-zeirishi.server-shared.com/

№174 判例評釈:国税通則法65条4項にいう「正当な理由」

2023-08-31 | ブログ
2023.08.31

国税通則法第65条第4項は、過少申告加算税につき、過少申告となったことについて「正当な理由が認められる場合」には、過少申告加算税を賦課しない旨を定めています。
これに関し、高裁で正当な理由があると認められた判決が、最高裁で認められなかった事案がありますので解説したいと思います(第一小法廷、令和3年(行ヒ)第260号)。

Ⅰ.事実の概要

不動産販売会社Xは、全部又は一部が住宅として賃貸されている建物を転売目的で購入し、消費税額の全額を控除対象仕入税額として申告をした。
これに対し、日本橋税務署長Yは、住宅の貸付けにも要するものであるから、共通対応課税仕入れに区分されるべきであり、控除対象仕入税額は、上記消費税額の全額ではなく、これに課税売上割合を乗じて計算した金額となるなどとして、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

Ⅱ.原審東京高裁の判旨(令和3年4月21日)

(1) 平成元年に作成された税務当局の部内資料等には、課税対応課税仕入れとは「直接、間接を問わず、また、実際に使用する時期の前後を問わず、その対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等である」との記載や、「土地の賃貸収入がある場合でも分譲用のマンションの建設計画に基づいて土地の所有権を取得していることが明らかであるときは取得の際に支払った仲介手数料は課税対応課税仕入れに該当する」旨の記載がある。
(2) また、税務当局は、平成7年頃、関係機関からの照会に対し、仮に一時的に賃貸用に供されるとしても、継続して棚卸資産として処理し、将来的には全て分譲することとしている住宅の購入については、課税対応課税仕入れに該当するものとして取り扱って差し支えない旨の回答をし、同9年頃、関係機関からの照会に対し、賃借人が居住している状態でマンションを購入した場合でも、転売目的で購入したことが明らかであれば、課税対応課税仕入れに該当する旨の回答をした。
(3) 他方、平成17年以降、税務当局の職員が執筆した公刊物等において、事業者の最終的な目的は中古マンションの転売であっても、転売までの間に非課税売上げである家賃が発生する場合には、中古マンションの購入は共通対応課税仕入れに該当する旨の見解が示され、また、本件各申告当時に公表されていた複数の国税不服審判所の裁決例及び下級審の裁判例において、本件各課税仕入れと同様の建物の取得の用途区分につき、上記と同様の見解に基づく税務当局側の主張が採用されていた。

上記(1)(2)(3)の事実関係の下において、税務当局は、平成元年当時、主たる目的又は最終的な使用目的を考慮して用途区分を判定していたところ、同9年頃、本件各課税仕入れと同様の課税仕入れを転売目的に着目して課税対応課税仕入れに区分したことがあり、その後、同17年頃までに上記の見解を変更したことがうかがわれるから、従来の見解を変更したことを納税者に周知するなど、これが定着するよう必要な措置を講ずるのが相当であったのに、そのような措置を講じているとは認められない。
このような税務当局の対応や、これを根拠とする紛争が継続している事情の下では、本件Xが、転売を目的とする本件各課税仕入れを課税対応課税仕入れに区分した上で控除対象仕入税額の計算をしたことには、国税通則法65条4項にいう「正当な理由」がある。

Ⅲ.最高裁判決(令和5年3月6日)

原審東京高裁の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

(1) 国税通則法65条4項にいう「正当な理由があると認められる」場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに過少申告による納税義務違反の発生を防止して適正な申告納税の実現を図るという過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である(最高裁平成17年(行ヒ)第9号同18年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4号1611頁参照)。
(2) 税務当局は、遅くとも平成17年以降、本件各課税仕入れと同様の課税仕入れを、当該建物が住宅として賃貸されることに着目して共通対応課税仕入れに区分すべきであるとの見解を採っており、そのことは、本件各申告当時、税務当局の職員が執筆した公刊物や、公表されている国税不服審判所の裁決例及び下級審の裁判例を通じて、一般の納税者も知り得たものということができる。
(3) 他方、それ以前に税務当局が作成した部内資料や税務当局関係者が編者である公刊物及び平成7年頃の関係機関からの照会に対する回答には、事業者の目的に着目して用途区分を判定していたとも理解され得る記載等があるものの、これらは、本件各課税仕入れと同様の課税仕入れに直接言及するものでなく、その趣旨や前提となる事実関係が明らかでないなど、必ずしも上記見解と矛盾するものとはいえない。
(4) また、税務当局は、平成9年頃、関係機関からの照会に対し、本件各課税仕入れと同様の課税仕入れを課税対応課税仕入れに区分すべき旨の回答をしているが、このことから、直ちに、税務当局が一般的に当該課税仕入れを事業者の目的に着目して課税対応課税仕入れに区分する取扱いをしていたものということはできないし、上記回答が公表されるなどしたとの事情もうかがわれない。

そうすると、平成17年以降、税務当局が、本件各課税仕入れと同様の課税仕入れを当該建物が住宅として賃貸されることに着目して共通対応課税仕入れに区分する取扱いを周知するなどの積極的な措置を講じていないとしても、事業者としては、上記取扱いがされる可能性を認識してしかるべきであったということができる。

そして、上記取扱いは消費税法30条2項1号の文理等に照らして自然であるといえ、・・・Xが本件各申告において本件各課税仕入れを課税対応課税仕入れに区分して控除対象仕入税額の計算をしたことにつき、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になるということはできない。

以上によれば、Xが本件各課税仕入れに係る消費税額の全額を当該課税期間の課税標準額に対する消費税額から控除したことにつき、国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があると認めることはできない。

Ⅳ.まとめ

国税通則法65条4項にいう「正当な理由があると認められる」場合とは、
(1) 税務当局が取扱いを周知するなどの積極的な措置を講じていないとしても、事業者としては、取扱いの可能性を認識してしかるべき場合。
(2) 真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情がある場合。
(3) 当初から適法に申告し納税した納税者と間の客観的不公平を考えてもなお、過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合。
をいうものと解されます。

(完)