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護民官の行き過ぎを執政官が批判

2021-11-29 01:02:00 | 世界史

 

==《リヴィウスのローマ史第巻》=

Titus Livius   History of Rome

    Benjamin Oliver Foster

【17章】

市民が武器を捨て、防衛地点を去ったことを知ると、執政官P......・ヴァレレリウスは同僚執政官に元老院を招集する仕事を任せ、自分は急いで神殿にいる護民官たちに会いに行き、護民官たちを問い詰めた。

「これはいったいどういうつもりだ。諸君はアッピウス・ヘルドニウスにそそのかされて、国家を転覆するつもりか。一人の奴隷を反乱させることもできなかった男が、諸君を堕落させることに成功したようだ。敵が目の前にいる時に、市民に武器を捨てさせ、法律の審議をするのか」。

次にヴァレレリウスは民会に向かって話した。

「市民のみなさん! もし諸君が国家の安全に関心がなく、自分の安全について心配しないとしても、神々を崇める気持ちを仰を失ってはならない。ローマの神々は現在敵の捕虜となっている。最高神ユピテル、女王ユノー、ミネルバそして他の神々が包囲されている。奴隷の集団がローマの保護神を人質にしている。これが諸君の考える国家の理想なのか。敵の大部隊が市内を占拠している。要塞の中に、中央広場と元老院を見下ろす場所に敵がいる。それなのにまるで平和な時代のように、民会が開かれ、元老院が招集されている。元老院では元老が演説し、民会では市民が投票しようとしている。そんなことより、貴族と平民全員がすべきことがある。執政官と護民官が協力し、市民全員が武器を取り、ローマの人々と財産を守ることである。最高神ユピテルが住むローマの自由と平和を回復しなければならない。ああ、諸君は建国者ロムルスの精神を失ったのか!諸君の先祖はサビーニ族に奪われた要塞を取り戻したではないか。おお、ローマの神々よ、昔のようにローマ軍を導いてください! 執政官である私は真っ先に神々を導きに従います。死すべき人間に可能な限り神様が進む後についていきます」。

そして彼は最後に言った。

「私は武器を取る。そして全市民に武器を取るよう呼びかけ。もし誰かが邪魔するなら、執政官の権限を越えてでもその者を敵として処分する。また護民官の権限も彼らの地位を不可侵としている法律も、私は考慮しない。カピトールの丘を占拠している者であれ、広場の市民であれ、市民の武装を邪魔する者は国家の敵である」。

このように過激な発言をする執政官ヴァレリウスに対し、護民官たちは平民に武器を取るよう命令するかもしれなかった。少し前、護民官たちは平民にアッピウス・ヘルドニウスの逮捕を妨害させたのだから、再び強権を行使すればよい。いかに困難な状況にあっても王家の長は王族を率いて果敢に行動する。ヘルドニウスも護民官たちを率いて大胆に行動するだろう。平民の反乱が迫り、敵はローマの内乱を観戦するのを楽しみにしている」。

しかし法律は成立しなかったし、執政官がカピトールの丘に進撃することもなかった。夜の間にに内乱が回避されたからである。夜になると護民官は執政官の武力が怖くなり、家に帰った。反乱の指導者が広場から消えた。元老たちは平民の間を歩き回り、様々なグループに話しかけ、現在の深刻な状況について説明した。平民たちがやろうとしていることが国家にとっていかに危険なことか考えてほしい、と元老たちは語った。

「貴族と平民が争っている場合ではない。貴族と平民の両方が破滅するのである。ローマの城壁、神々の神殿、国家の守護神と市民の家庭、これらの全てが敵に渡されるのだ」。

こうして不和の原因を解消してから、二人の執政官は広場を去り、サビーニ族とヴェイイの襲来に備えて、城門と城壁を視察した。

 

【18章】

同じ夜、トゥスクルム(ローマの南東、アルバ湖の北)に知らせが来て、町の人々はローマの城塞とカピトールの丘が占領されたこと、ローマが内乱状態であることを知った。当時ローマから追放されたマミリウスはトゥスクルムの独裁者となっていた。マミリウスはは急いでトゥスクルムの元老院を招集し、ローマについて情報をもたらした人々を元老たちに合わせた。助けを求めるローマの使者が到着するのを待っていてはならない、とマミリウスは元老たちを説得した。

「ローマに深刻な危険が迫っている。神々がローマとトゥスクルムの同盟を見守っている。トゥスクルムは条約に忠実でなければならい。我々はすぐに行動すべきだ。ローマは強大な国家であり、わが国に近い。ローマに対して我々の義務を果たす絶好の機会だ。神々はこのような機会を二度と与えないだろう」。

 

 

トゥスクルムの元老院はローマに援軍を送る決定をした。兵役に適した年齢の市民が招集され、武器が配られた。早朝トゥスクルム軍がローマに近づくと、ローマの人々はこれを敵の軍隊と誤解した。アエクイ族やヴォルスキ族が攻めてきたと思ったのである。間もなく誤解だとわかり、トゥスクルム軍はローマに入場し、隊列を組んで、中央広場まで行進した。ヴァレリウスの同僚執政官が彼らを城門の守備にあてた。ヴァレリウスはローマ兵を指揮して敵と戦うことになった。ローマ市民に戦闘を決意させたのはヴァレリウスであり、兵士は彼を信頼していた。ヴァレリウスは彼らに向かって宣言した。

「カピトールの丘の敵を排除し、市内の安全を確保したら、私たちは護民官提案の怪しげな法律を容認するつもりだ。私は平民の会議が開催されることに反対しない。私の祖先は平民を保護してきたのであり、これは一族の関心事である。私は家名を裏切らない」。

そしてヴァレリウスはローマ兵を率いてカピトールの丘に向かった。護民官たちが反対したが、無駄だった。トゥスクルムの部隊はヴァレリウスの後に続いた。ローマ兵とトゥスクルムの兵は競い合って要塞を攻略しようとし、それぞれの指揮官が自分の部隊を励ました。敵は自分たちの有利な位置に頼っているだけであり、勇猛なローマ・トゥスクルム軍が迫ると、戦意を失った。ローマ・トゥスクルム軍が攻撃を開始すると、すぐに神殿の入り口まで到達した。その時、先頭で兵士を率いていたヴァレリウスが戦死した。執政官になれる階級に属するヴォルムニウスがこれを目撃した。ヴォルムニウスはヴァレリウスの遺体を守るため、先頭に走り出て執政官に代り、部隊を指揮した。攻撃に集中していた兵士たちは執政官が死んだことに気づかなかった。彼らは勝利後に、将軍無しに戦っていたことを知った。多くの反乱兵が死に、彼らの血が神殿を汚した。ヘルドニウスも戦死した。カピトールの丘は奪還され、捕虜となった者は奴隷か自由人か区別され、それぞれの身分に応じて処罰された。勝利に貢献したトゥスクルムの兵士たちに感謝する決議がなされた。カピトールの丘は掃除され、清められた。戦死した執政官ヴァレリウスの葬儀が壮大になされることを願って、平民たちはヴァレリウスの屋敷に硬貨を投げた。

 

【19章】

秩序と平和が回復されるや否や、護民官たちは元老院にプブリウス・ヴァレリウスの約束を実行するよう、迫った。そして彼らは執政官クラウディウスに言った。

「戦死した執政官が平民をだましたと言われないようにしてほしい。ヴァレリウスの名誉を傷つけないために、平民のための法律を制定すべきだ。ヴァレリウスの遺品である前髪に誓ってほしい」。

しかしクラウディウスは補充の執政官の選挙が終了するまで、法律の制定に着手できない、と述べた。貴族たちが奔走し、やっと12月になってカエソの父クィンクティウス・キンキナットゥスが執政官に選出された。彼はすぐに仕事を始めた。平民は自分たちに敵対的であった人物の父が執政官になったので、動揺した。カエソの父と3人の息子たちは元老院を心から支持していた。カエソの3人の兄弟はカエソに劣らず高邁(こうまい)な精神を有していただけでなく、必要な場合慎重であり、また穏健になれる点でカエソに勝っていた。

カエソの父クィンクティウス・キンキナットゥスは執政官に就任すると、中央広場の演題で何度も演説した。彼は平民を罵倒すると同時に、元老院を痛烈に批判した

「元老院が無気力なため、護民官は絶えず権力を行使し、国王のように話し、遠慮なしに貴族を批判している。護民官はだらしない家族の家長のように振る舞い、共和国の役人とは思えない。勇気や強い意思など、若者が家庭と戦場で評価される素質はカエソがローマから追放された時、消滅した。多弁な扇動家で不和の種をまく人間が、連続して二度、三度と護民官に選ばれ、法律を勝手に解釈して破廉恥な行動をする」。

ここでカエソの父はアウルス・ヴェルギニウスを指さしながら、話を続けた。

「あの男は、カピトールの丘を占拠したならず者たちと同様処罰されるべきだ。彼はたまたまあの丘にいなかっただけで、同罪だ。ヴェルギニウスはヘルドニウス(ならず者の指導者、国外追放された過激な平民派)より罪が軽いだろうか? 神に誓って言う、断じてそんなことはない。ものごとを正しく評価するなら、ヴェルギニウスの方が罪が重い。彼は諸君に反乱を勧めた。他に何もしなくても、このことだけで彼は国家の敵であると判明した。この男は戦争が迫っていることを否定し、諸君に武器を捨てさせた。丘を占拠した奴隷と亡命者の攻撃を前にして、ローマは無防備になった。私は諸君に質問したい。クラウディウスや戦死したヴァレリウスを尊敬しないで、また中央広場にいる敵をそのままにして、諸君はカピトールの丘に向かって進撃した。敵はカピトールの丘とその城塞を占拠した。そして奴隷と亡命者の部隊の指導者は神聖な場所を汚し、最高神ユピテルの神殿のあらゆる場所に足を踏み入れた。これは神々と人間を侮辱する行為である。ローマ人はこれを許してはならない。それなのに最初に武器を取ったのはトゥスクルムの市民であり、ローマの市民ではなかった。ロ-マの要砦を奪い返したのはトゥスクルムの将軍マミリウスであるか、それともローマの執政官のどちらであるか、ヴァレリウスかクラウディウスかも、わからない。これまでローマはラテン人の武装を許可してこなかった。ラテン人は侵略されても、自分たちで防衛することもなかった。護民官たちに聞きたい、これが平民を守るやり方なのか? 敵が無防備の平民を殺害するのを黙って見ているのか? 諸君は市民の中で最も卑しい部分を他の市民から分離し、彼らを一つの地方とし、それを護民官の国家とした。もしその国の市民の家が武装した奴隷たちに包囲されたら、諸君はその市民を助けなければならないと考えるだろう。最高神ユピテルが武装した奴隷と亡命者によって監禁されたら、人間によって助けられるべきでなかったか。神々の姿は神聖でも、不可侵でもないと言いながら、護民官たちは自分たちは神聖で不可侵だと主張するのか。神々と人間に対する諸君の罪がどれほど深かろうと、諸君は今年法律を実現すると表明している。もし諸君が成功したら、私は執政官に就任した日を呪うだろう。その日は国家にとってヴァレリウスが戦死した日より悪い。私はローマ市民である諸君に伝えたい、私たち執政官が最初にやりたいことは、ヴォルスキ・アエクイ軍に向かって軍を進めることである。奇妙な運命により、我々が平和な時より戦争している時に、神々は我々を応援するようだ。現在起きていることから判断するより、過去に起きたことから結論を出す方が良いようだ。もしカピトールの丘が亡命者たちに占領されたままなら、ヴォルスキ・アエクイ軍はどれほど危険だったろう」。

 

【20章】

執政官キンキナットゥス(カエソの父)の演説は平民に強い印象を与えた。貴族たちは勇気づけられ、国家が再建されたように思った。もう一人の執政官クラウディウスは自らは提案しなかったが、同僚を応援することで勇気を示した。クラウディウスはキンキナットゥスが重要な問題について第一歩を踏み出したことに満足していたが、キンキナットゥスの提案を実行するにあたっては執政官としての責任を感じた。

一方で護民官たちは執政官の演説はたわごとだと言って、あざ笑っていた。彼らは絶えず言った。

「誰も徴兵に応じないのに、執政官はどうやって軍隊を進めるつもりだ」。

執政官クィンクティウスは次のように答えた。

「徴兵する必要はない。カピトールの丘を奪回するためヴァレリウスが人々に武器を配布すると、全員が『執政官の命令があればすぐ集結します。命令がない限り解散しません』と誓った。従って執政官である我々は忠誠を誓った者全員に命令する。明日、武装してレギッルス湖に集結せよ」。

すると護民官は屁理屈を言って、人々にそのような義務はないと主張した。

「人々がヴァレリウスに忠誠を誓った時、クィンクティウスは執政官ではなかった」。

しかし護民官は人々を説得できなかった。この時代は現在と違い、神々をおろそかにする者はいなかった。誓いや法律を自分に都合よく解釈する者はいなかった。誰もが義務に従って行動した。それで護民官たちは妨害しようとしても無駄だとわかたが、なんとか軍隊の出発を後らせようとした。その頃外国で次のような噂が広がった。

「ローマの予言者たちがレギッルス湖へ行き、予言の通常の形式に従い、正規に構成された民会を開催する場所を選定するようだ」。

護民官たちは軍隊の編成を後らすことに専念したが、護民官が乱暴に権力を行使するやり方は、正規の部族民会で無効にされることになった。執政官が望むように、全員が投票するだろう。また上訴の権利は市内から一マイル以内でしか認められない。そして護民官たちが軍隊と一緒にローマを出るなら、彼らは執政官の命令に従わなければならない。このような噂は護民官を不安にした。彼らをさらに不安にしたのは、クィンクティウスが執政官の選挙をしないと繰り返し述べたことだった。

「国家の病が重いので、いかなる薬も効果がない。共和国に歯医者が必要だ。現在の制度を転覆しようと試みる者は国家の医者から上訴の手段がないことを告げられるだろう」。

 

【21章】
元老たちはカピトールの丘にいた。護民官たちは仰天しながらそこに向かった。平民が後に続いた。護民官たちはは最初に執政官に向かって大声で助けを求め、次に元老たちに助けを求めたが、執政官の決心は変わらなかった。それで護民官たちは元老院の権威に従うと約束した。執政官は平民と護民官の要求を元老院に提出した。元老院は次のように議決した。

「護民官は年内に法律を提案してはならない。執政官は軍隊をローマから連れ出してはならない。高官の職は延長てきる。護民官は二年連続選ばれてもよい」。

執政官は元老院の権威に従った。執政官の反対にもかかわらず、護民官は再選された。元老院は平民の立場が有利になることを避けて、ルキウス・クィンクティウスを再び執政官に任命した。元老院の決定は執政官を怒らせた。執政官はこの一年これほど良かったことはなかった。彼は嘆いた。

「選ばれし元老の方々! 徴兵を実施してください。あなた方の権威は平民に対しこれほど無力なのですか? 私はあきれてしまう。あなた方は自ら自分の権威を弱めている。元老院は以前、高官の再任を禁じたのに、現在あなた方はこの規則を無視しようとしている。まるで無思慮で向こう見ずな大衆に後れを取るまいとしているようだ。元老院の権力を増すためには、軽薄さと法律無視の態度を示す必要があるかのようだ。しかしそれは間違いだ。他人の決定を否定するのはわかるが、自分の決定と命令を捨て去るなど、理解できないし、全く愚かなことだ。元老の方々! あなたたちは無分別な大衆の真似をして、罪を犯すのですか。あなた方は他人の真似をするのではなく、他人の手本であるべきです。人々はあなた方を見習って行動するべきです。私は護民官を真似するつもりはなく、執政官に再び就任するつもりもありません。これは元老院の決定に反しますが、私は元老院を信頼しています。ところでクラウディウスさん、私は是非あなたにお願いしたい。人々の無法な行動を抑制していただきたい。私に栄誉が与えられるのを、あなたは邪魔したことがないと私は記憶しています。私はあなたの行動を支持するつもりです。私は栄誉を辞退したこで、人々から信頼されました。執政官に再任したら私は憎まれただろうが、辞退したので、それを避けることができます」。

そして二人の執政官は共同で命令を出した。「クィンクティウスを執政官にしてはならない。それを誰かがそれを試みるなら、我々は執政官を決定する投票を禁ずる」。

================(17-21章終了)

 

元老院がクィンクティウスを執政官に選定したのは護民官の再任を認める決定とバランスを取るためだった。若い貴族たちは過激な護民官の再任に反対しており、クィンクティウスは若い貴族の急先鋒だった。護民官が扇動した平民の反乱により、ローマは陥落の瀬戸際まで行った。にもかかわらず、元老院は護民官の再任を認めた。元老院の護民官に対する配慮は特筆すべきである。このような元老院に対し、クィンクティウスは怒りをぶちまけた。貴族の国権派はローマの伝統を守り、国家の防衛を真剣に考えており、彼らの主張は筋が通っている。リヴィウスは平民派と国権派の対立を、一方に偏らず、深く掘り下げている。

 


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