デリゾールはユーフラテス南岸に発展した小都市である。「ゾール」は川の茂みを意味する。
ユーフラテスを上流に上るとラッカに至り、下流に下ると、イラクのアンバール県に至る。デリゾールは交通の要衝であり、県内には大小の油田がある。
小さな都市の支配をめぐり、アサド政府軍とISISが熾烈な戦いを続けている。ISISは市の北部を占領していたが、ユーフラテスにかかる橋を破壊され、川を背に孤立している。文字通り背水の陣である。東西に延びている戦線の中で、シナーア工業地区が最も重要な戦場となった。政府軍の拠点である旧空港に隣接していたからである。
旧空港への脅威を取り除くため、政府軍はまず東端のサクル島のISISを始末することにした。それに成功すれば、シナーア工業地区のISISは左翼の味方を失い、処理しやすくなる。サクル島はデリゾール戦の主戦場となった。
第104旅団によるISIS掃討作戦は順調に進み、ISISは島の東端に追い込まれた。10月末、サクル島作戦は最終段階に入った、と第104旅団は判断した。
しかしサクル島作戦はなかなか決着しなかった。ISISが粘り抜いたからである。第104旅団の判断が甘かったわけではなく、実際にISISは窮していた。
このような状況下で、ISISに援軍が到着した。到着した部隊は新たな戦線を開いた。彼らは、いきなりデリゾールの政府軍の心臓を突いた。
ISISはデリゾール県の95%を支配している。政府軍は県の中心都市を支配しているだけである。そして、その政府軍を支えているのは、市のはずれにある軍事空港である。ここから飛び立つ戦闘機と戦闘ヘリがISISを爆撃するだけでなく、政府軍への補給は空輸によって行われている。
ISISの反撃は敵の心臓部を突くことだった。
<ISIS、軍事空港を攻撃>
===== Masdar News 12月3日・4日 ========
ISISは政府軍の基地がある軍事空港とその周辺の住宅地域に大規模な攻撃をかけた。
ハサカ県(シリア)とアンバール県(イラク)のISISが到着し、政府軍に対し攻撃を開始した。一方サクル島でも、これまで防戦一方だったISISは援軍を得て反撃に転じた。
12月3日、ISISは空港周辺にある政府軍の防衛拠点を攻撃し、政府軍は空港内に退却した。ISISはマリーヤ村を占領し、ジャフラに迫った。ジャフラを攻略すれば、ISISはサクル島の友軍と合体できる。
ISISはジャフラの学校を占拠したと発表したが、政府軍はこれを否定している。
この日シリア空軍は10回ISISを空爆した。
翌日(4日)の朝、第104旅団はISISの大部隊を鎮圧し、20名のISIS兵が死亡した。また3台のISISの車両を捕獲した。
政府軍の援軍として国民防衛軍(=民兵)がマリーヤ村に到着し、村を占拠しているISISと交戦中である。
《サクル島でもISISが反撃》
サクル島では、ISISに補給物資が届けられた。仲間が船でユーフラテス川を渡り運んだのである。島の端に追いつめられ、ISISは補給物資を待ち望んでいた。補給を得たISISは中央公園に陣取る第104旅団を攻撃した。
ISISは島の東部の船着き場を確保した。同時に島の東端から東側の本土に渡るつり橋も確保した。
ISISの勢いに押され、第104旅団は後退したが、その後空軍の支援を受けながら、第104旅団はいくつかの地域を奪回した。
今朝(4日)、サクル島での激しい戦闘の後、第104旅団はISISのイラク軍戦車T-55を捕獲した。(次の写真)
12月3日、ISISは3方から空港に迫った。南東のマリーヤと東のジヤフラについてはすでに述べた。ISISは3日夜になって、空港の北のラサファ地区の政府軍を攻撃した。ラサファは陸軍基地の北にある。(地図参照)
ラサファの北にシナーア工業地区がある。地図に「シナーア工業地区」の文字を書き入れようとすると、戦線と政府軍の旗を消すことになるので、やめた。シナーア工業地区は市の中心部の戦線の東端に位置し、10月の主戦場だった。
12月3日の夜、ラサファ地区の政府軍検問所でリビア人ISISが自爆攻撃をした。自爆攻撃は失敗に終わった。政府軍はかろうじてラサファ地区を維持しているが、ISISは防衛線を突破しようと、攻撃を続けている。
ラサファの戦闘で、9人のISISが死亡し、21人が負傷した。ISISの装甲車(BMB)2台と対空砲を積んだ小型トラック3台が破壊された。(政府軍発表)
原文) Deir Ezzor: ISIS Launches an Offensive of the Military Airport By Leith Fadel - 04/12/2014
===================(Masdar News終了)
以上は12月3日・4日の戦闘である。5日の戦闘について「シリア人権監視団」が報告している。
======Syrian Observatory for Human Rights========
《2014年12月5日》
3日間続いている空港周辺の戦闘で、45名のISIS兵が死亡した。その約半数の25名がシリア人である。
SISは空港内の政府軍を砲撃している。
また空港の西側の山地で激しい戦闘がおこなわれている。この山地には政府軍のレーダーと砲台が置かれている。東のふもとに空港がある。
ISISは政府軍の陣地数か所を占領し、戦車2台・装甲車・重機関銃・大砲を戦利品とした。政府軍兵士と民兵あわせて19名が死亡した。
山のふもとを主要道路が走っている。ISISがこの山を奪取すれば、空港の政府軍は地上の補給路が危険にさらされる。
================(引用終了)
<ISIS、空港へ突入>
12月6日午前1時、空港付近で大爆発音がした。ISISは自動車による自爆攻撃をしと主張しているが、政府軍の発表によれば、ロケット弾が空港の南側にある正門の防壁に命中した。爆発により、政府軍兵士19名が死亡した。そ爆発に続き、ISISは空港内の政府軍を砲撃した。その後空港の南西の境界で銃撃戦になったが、政府軍の砲撃と空爆により、ISISは撤退した。戦闘は1時間で終了した。
ISISは空港内に侵入したと主張している。
この日未明の空港攻撃は南側だけではなく、ISISは空港の北東部のミサイル大隊の基地をも攻撃し、占領した。これが事実としても、一時的なもので、空港周辺のISISは間もなく一掃された。(104旅団兵士の話)
12月5日夜に、ISISが空港の西の高地を占領したのは事実である。ISISは11人の政府軍兵士を殺害し、高地の南側にある政府軍検問所2か所を占領した。9月6日の早朝、シリア空軍が高地のISISを徹底的に爆撃した。地上では第17予備師団の第137旅団が前進した。84人のISIS兵が死亡した。ほとんど空爆によるものである。
この時の空爆で、塩素ガス弾も使用されたらしい。予備師団は頼りにならないので、シリア空軍は毒ガスに頼ったようである。空港の西に位置する高地にはレーダーがあり、多数の重砲が置かれている。この高地は戦略拠点である。ここからISISを追い払ったのは成功だが、毒ガス使用は不名誉である。