たぬきニュース  国際情勢と世界の歴史

海外のメディアから得た情報を書こうと思います。

5巻4-6章

2023-07-22 09:44:37 | 世界史

【4章】

アッピウス・クラウディウスは再び市民に向かって話を続けた。

「私の同僚の執政副司令官はヴェイイの包囲を解かないと決定した。あくまでヴェイイの占領を目指すのである。包囲委を続けることは得策であり、また必要であることを説明したい。まず最初に戦況を確認したい。私がここで話す話すことを兵士たちが聞いても、真実で公平だと判断するに違いない。私の敵対者の考えを敢えてて紹介することで、私の主張がよく理解されると思う。私の敵対者は兵士に給料を与えることに反対し、従来兵士に給料は払われなかったと言う。しかし現在兵士たちは追加の兵役を強いられ、過重の負担をしている。一般的に、労役に対しては報酬が支払われるものである。苦しい労働と喜びという正反対なものが、しっかりと組み合わされている。以前兵士は自費で国家に奉仕することに不満だったが、兵役の期間は限定され、一年の残りの期間耕作に従事できたので、自分と家族を養うことができた。現在兵士は国家への奉仕が自分の収入源であると知り、給料を受け取って喜んでいる。以前より長く家と土地を留守にすることになっても、無償ではないのだから、兵士は我慢してくれるだろう。国家が市民を兵役に召集する場合、一年分の給料を支払うのであるから、一年間兵役に従事することになってもしかたがない。半年で兵役をやめることはできない。市民の皆さん、私はこのような話をするのは好きでありません。このようなことが問題になるのは傭兵を雇う場合です。市民の義務として祖国の防衛に参加するのであり、市民は傭兵ではありません。我々は祖国の防衛について話しているのです」。

アッピウスは話を続けた。

「そもそも戦争を始めるべきでなかったのか、それともローマの威厳にかかわる問題であり、直ちに決着をつけるべきだったのか。答えは明瞭だ。もし我々が包囲を続ければ、すぐに戦争は終わるだろう。しかしヴェイイを占領しないなら、戦争は続くだろう。理由もなく我々が自信を失う時には、忍耐が大事だと知るべきだ。昔のギリシャの話だが、女性が誘拐されたことが原因で、ギリシャの全軍がある都市を10年間包囲した。その都市はギリシャから遠く、多くの土地と海を越えていかなければなかった。現在、我々は32kmしか離れていない都市の包囲をたった一年でやめようとしている。ヴェイイと戦う理由は小さな問題だと考えるかもしれない。しかしそれはヴェイイを憎む理由がわかっていないからだ。理由を知れば、忍耐しようと思うだろう。ヴェイイはローマに7回戦争を仕掛けた。彼らは和平の条文を平気で破り、ローマの農地を1000回略奪した。ヴェイイはフィデナエに反乱するよう仕向け、フィデナエはローマの植民者を殺した。ヴェイイはは国際条約を破り、ローマの大使を殺し、エトルリア諸都市にローマを攻撃するよう誘った。彼らは現在も全エトルリアを戦争に引き込もうとしている。ローマが平和条約の確認を求めると、彼らはローマの大使を乱暴に扱った」。

【5章】

アッピウスは話を続けた。

「このような敵を相手にして、いい加減に、だらだらと戦ってよいだろうか。これだけ憎むべき理由がありながら、我々が怒りに燃えないなら、たとえ我々が優勢であっても勝利は望めない。ローマ軍は攻城のための巨大な構造物でヴェイイを取り囲んでおり、敵は外に出られない。その結果、彼らは農地を耕すことができず、耕作地は荒れ野になっている。それなのに、我々が今兵を引き上げるなら、作物を失ったヴェイイは復讐心に燃え、また必要に迫られてローマを略奪するに違いない。我々が護民官の考えに従い、戦争を中止するなら、我々は国境地帯で防衛戦をすることになる。護民官は兵士への給料を廃止しようとしたくせに、今や兵士の機嫌を取ろうとしている。ローマ兵はヴェイイの周囲に土塁を築き、堀をめぐらした。これは大変な作業だった。それだけでなく彼らは砦まで造った。最初は少数の砦だったが、兵士の数が増えてからは、数えきれないほどの砦が出来上がった。ヴェイイに対する防衛に加え、エトルリア諸都市の援軍に備えて柵(さく)を築いた。ローマ兵が準備したのはこれだけではない。塔、通路の屋根、弓矢に対する防護柵、そして都市の攻撃に必要なその他の設備をそろえた。これだけ大変な労働により、攻城の準備が完了したというのに、戦争を中止するというか。来年の夏、再びゼロから仕事を始めるのか。再び大変な仕事をして疲れ果てるのか。完成した設備を利用して戦うほうが容易だ。ヴェイイを攻め立て、粘り強く戦い、慎重に事を進めれば、勝利は確実だ。再び苦労して設備を建設する必要がなくなる。全員が一致して努力を続ければ、戦争は短期間で終わる。我々が自ら戦争に介入し、戦争を中断したり、目的の達成を遅らせなければ、戦争は長引かない」。

アッピウスは話を続けた。

「攻城のための設備の構築のために、長い時間かかったことは、既に述べた。次にエトルリア都市連盟の状況を話そう。彼らはひんぱんに連盟会議を開き、ヴェイイに援軍を送るべきか検討している。従って、ローマがヴェイイとの戦争を続ければ、危険だ。現在のところ、エトルリアの諸都市はヴェイイに対し怒っており、また憎んでおり、援軍を送らないと言っているので、今ヴェイイを攻略してしまえば問題ない。しかし攻略に時間がかかるなら、エトルリア連盟の考えが変わる可能性を否定できない。

ヴェイイに時間を与えるなら、彼らはもっと影響力のある大使を、もっと多くの都市に派遣するだろう。それだけではない。ヴェイイは諸都市に嫌われることになった原因を除去するかもしれない。エトルリア連盟の同情を得るために、ヴェイイ市民が満場一致の決議で、王政を廃止するかもしれない。あるいは国王が国民を不幸にするのを避け、自ら退位するかもしれない」。

アッピウスは次に護民官に向かって言った。

「諸君の方針を採用すると、破滅的な結果を招くことがお分かりだろうか。非常に苦労して作り上げた攻城のための仕掛けを無駄にし、ローマの国境地帯が略奪され、ヴェイイだけでなく、全エトルリアとの戦争になる。諸君に提案に従うと、このような結果になるのだ。誓って言うが、諸君はやぶ医者と同じだ。患者がすぐに治りたくて、根本的な治療を受け、その後飲み食いにふけり、病は治療困難になってしまう」。

【6章】

アッピウスは続けた。「ヴェイイ戦を中止しろという諸君の扇動は兵士にそれほど影響を与えないだろうが、状況次第では、大きな影響を与える。兵士の訓練において最も重要なのは、勝利の喜びを知ることだが、戦争が長引いた時、うんざりせずに我慢し、長期戦の後の勝利を待ち望めるようになることである。今回の戦争が夏までに終わらなければ、兵士たちは冬の間も戦うことになる。秋になって、渡り鳥のように、寒さをしのぐ屋根を求めるようではまずい。狩りが好きな者は雪と氷を何とも思わず、森や山の中を歩き回る。彼らには情熱があり、それが喜びなのだ。遊びや趣味において人間が示す忍耐心を、戦争においても発揮すればよい。兵士たちの肉体が頑健でなくなり、精神も弱くなったので、冬に家を離れ、陣地で生活することにに耐えられなくなったのだろうか。海上で戦う兵士たちは季節に注意を払い、順風な気候の時に活動する。ローマ兵は陸上で戦うのに、季節を気にして、暑い時と寒い時は戦闘を避けるのだろうか。談じて、そんなことはない。兵士たちに向かってそんなことを言えば、彼らは顔を赤くしてそれを否定するだろう。『いや、精神的にも肉体的にも自分たちは忍耐力がある。冬であれ夏であれ戦うことができる』と彼らは言うだろう。『我々は護民官に弱々しい怠け者の保護を頼んだことはない。そもそも我々の先祖は護民官という制度を、涼しい日陰や屋根のある避難所で創設したのではない。我々勇敢なローマ兵は現在のヴェイイ戦の先を見ている。将来の戦争においても勝利し、諸国民の中で名声を獲得たいと思っている』」。

アッピウスは続けた。

「現在の危機において、隣国がローマをどう評価するかは重要だ。ある都市を攻撃した場合、その都市がどのように反撃するかが問題だ。また反撃に対し、攻撃側がどう対応するかも重要だ。ローマが恐れられているのは、ローマ兵が長期の包囲戦にも耐え、いかなる寒さの中でも包囲を続けるからだ。ローマ軍が攻撃を開始するなら、勝利するまで戦いをやめない。ローマ軍は猛烈に突撃するだけでなく、粘り強く戦う。全ての軍事作戦において、粘り強さは重要だが、包囲戦の際は特にそうだ。大部分の都市はしっかり防備され、自然の要害に守られており、攻めるのが難しい。都市を攻略するには時間をかけ、市内の人々が飢えと渇きに耐えられなくなるのを待つしかない。ヴェイイを攻略するのも、この方法しかない。それなのに、護民官は包囲の中止を求めて、敵を助けようとしている。ヴェイイはエトルリアの諸都市から見捨てられても、ローマの国内に支持者を見出すだろう。ヴェイイが待ち望むことが起きるだろう。ローマで反乱が起き、軍隊の陣地にまで波及するだろう。一方ヴェイイの市民は法律と秩序を尊重しており、包囲に苦しめられても、国王の専制政治を憎んでも、ヴェイイの市民は革命を支持しない。またエトルリアから援軍が来なくても、彼らは自暴自棄にならない。反乱を計画する者は直ちに処刑され、ローマで護民官が話していることを口にすることは許されない。ローマでも軍旗を投げ捨てたり、戦列から逃げ出せば、棒打ちにより死刑に処せられるが、軍旗を捨てるようそそのかしたり、陣地を放棄するよう勧める者がいると、一人や二人の兵士ではなく、全部の兵士が彼の話に耳を傾ける。護民官がいかなる話をしても、諸君は耳を傾けることに慣れてしまった。たとえ国家を裏切ることになろうと、共和国を破壊することになろうと、諸君は護民官に従う。護民官の主張に幻惑され、あらゆる種類の悪行を許している。護民官が最後にやりたいのは、中央広場で騒ぎ立てたことを、陣地の兵士たちに向かってわめくことだ。兵士を堕落させ、司令官に従わないよう惑わすことだ。ローマにおいて、自由とは兵士が元老院を尊敬せず、高官や法律を尊重せず、祖先の伝統や制度を忘れることだ。ローマ人の自由は軍律を無視することだ」。


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