一時期クラシック・音楽を主題にした映画が流行ったことがある。
古くは「オーケストラの少女」やヴァイオリンの巨匠ハイフェッツが本人役で出演する「彼等に音楽を」、そしてディズニー映画で「ファンタジア」。
◆「彼等に音楽を」http://www.youtube.com/watch?v=S3HnjQQR40I&mode=related&search=
1939年製作。貧乏な少年がヴァイオリンが好きで、これも貧乏な父と娘が経営する音楽学校に通う事になる。
音楽学校の経営を立て直すべく娘の恋人の新聞記者の青年とともに音楽会開催を企画する。主人公の少年はふとしたことで大ヴァイオリにストハイフェッツ(本人が演じている)と知り合い自分達の音楽会出演を頼む。
超売れっ子の有名ヴァイオリスト・ハイフェッツが出演できるはずも無くていよく断られる。
ハイフェッツのヴァイオリン盗難事件に主人公の少年が巻き込まれたりする挿話があって、既に音楽会が始まった学校のホールに駆けつけると、・・・・廊下に溢れた父兄に混じってホールから流れる妙なるヴァイオリンの音を聴くと、・・・・・・。
とても学生の演奏とは思えない神業のような樂の響き。
メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲ホ短調 第三楽章 最後まで全曲演奏します。
画面はパトカーに先導されて、タクシーで主人公達が会場に駆けつけるところから。
なお主人公の一人の新聞記者役の俳優は見覚えがあると思っていたら、最後のクレジットで見るとジョエル・マックリーと言って少年時代のB級西部劇の主人公をやっていた俳優。
ゲイリークーパーやジョンウエインがA級西部劇のヒーローなら、ランドドルフ・スコットやジョエル・マックリーはB級映画で子ども達にとっては同じくヒーローだった。
だが少なくともレーガン大統領よりは格上の西部劇スターだった。
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録画したビデオで古い映画を見た。
1954年製作のエリザベステーラー主演の音楽映画「ラプソディー」。
この映画を見るのはこれで3度目。
始めて見たのは時を遡ること半世紀、クラシック音楽に興味を持ち始めた中学生の頃,国際大通りから入った通りにあった「グランド・オリオン」という映画館で見た。
音楽好きの知人の勧めで見たのだが、ストーリーは二の次だった。
当時音楽と言えばラジオか公民館等で行われていた「レコードコンサート」でしか聴く機会の無い13歳の少年にとって、この映画は、クラシック音楽を目で見て同時に耳で聴く生演奏会のような映画だった。
芳紀まさに22歳の美女エリザベステーラーを中心に展開する美男美女のラブストーリーには正直言ってあまり関心が無かった。
当時のアメリカの美人女優ではエリザベス・テーラーよりはむしろヴィヴィアン・リーやオードリー・ヘプバーンの方が美人だと思っていたせいかも知れない。
二度目に見たのは十数年前、NHKのBSで放映されたとき録画したビデオでストーリー部分は早送りして音楽演奏のシーンだけを見た。
それまでにも日本映画「ここに泉あり 」でヴァイオリニストやピアニストの演技ぶりを見ていた。
俳優が演ずるので仕方が無いとは言え、岸恵子ふんするピアニストや岡田英二扮するヴァイオリニストが劇中で演奏する時はカメラアングルによる演奏の誤魔化しがやたら目に付いた。
例えばピアノを弾くシーンでは後姿が多く、顔が映るときは演奏する手はカメラから外す。 後は上半身だけで手は映さない顔の表情だけの演技。
岡田英二のコンサートマスターはもっとひどかった。
右手のボウイングのギコチナサは勿論、左手首の硬さもとてもヴァイオリニストの演奏には見えなかった。
要すれば、一流ヴァイオリニストの妙なる楽の音を演奏する演奏者が画面ではゴチゴチに固まった初心者の姿といった具合。
この違和感が折角の岸恵子、岡田英二の美名美女の熱演を白けさしていた。
話が脱線したが「ラプソディー」二回目の鑑賞では音楽映画と銘打っていただけあって、劇中の演奏場面でもハリウッド映画の実力を感じずにはおれなかった。
エリザベス・テイラーふんするルイズの恋人の音楽学生の恋人ポールを演じたヴィットリオ・ガスマンのヴァイオリニスト振りは見事の一言に尽きた。
楽器の構え方に弓の持ち方、それに左手のビブラートもサマになっており、とても音楽の素人が演じているとは思えない演技であった。
ルイーズに横恋慕するピアノの学生ジェームスを演じたジョン・エリクスンのピアニスト振りも見事であった。
岸恵子や岡田英二の迷演奏とは比べ物ではなかった。
それもそのはずこの映画の音楽映画としての力の入れようは大変なもので、陰の演奏者に当時51歳で、既に20世紀を代表する大ピアニストの名声を得ていたクラウディオ・アラウと18歳の新進気鋭の天才ヴァイオリニスト・マイケル・レビンを配したことでその力の入れようが分かる。
◆陰のピアニスト:クラウディオ・アラウ
◆陰のヴァイオリニスト:マイケル・レービン
更にスタッフ・クレジットを見ると「ヴァイオリン・スーパーバイザー」と「ピアノ・スーパーバイザー」という専門のスタッフを配して劇中の演奏振りをより本物に見えるように訓練したことが伺えた。
このように折角の若き日のエリザベス・テーラー主演のラブ・ロマンス映画も、二度ともストーリー無視の映画鑑賞としては邪道ともいえる見方をしていたのだ。
ところが三度目の正直で、先日見た時は音楽映画としては勿論、ラブ・ストーリーとしてもよく出来た映画であることに半世紀の時を越えて新鮮な驚きを感じた。(続く)