「旅の坊主」の道中記:常葉大学社会環境学部・小村隆史の防災・危機管理ブログ

日本唯一の防災学部はなくなっても、DIGと防災・危機管理を伝える旅は今日も続いています。

「防災教育のあるべき姿と地震・津波防災DIG・土砂災害対策DIG」(その7)

2015-10-05 23:47:40 | 防災教育
この日は朝イチに20年来お世話になっている東京・四ッ谷の山口歯科を受診、
その後「いきなりステーキ」で肉分を多少なりとも補給した後、大学へ、という日だった。

原稿書きの大きな山を越え、多少なりとも新規案件に取り組める精神的余裕が出来た日。
ただ、振り返ってみれば、どれほどの新しい挑戦を始めることが出来たか、と問えば、
大したことが出来ていないようにも思う……。
それでも(いささか記憶が曖昧ではあるのだが)、スケジューラーを再稼働させたのはこの日と記憶している。
数日~数ヶ月という単位ではあるが多少は先を見てモノを考えよ、と、
己に言い聞かせるためのツールとしてのスケジューラー、と思っている。
後日、ゼミ生向けに「ゼミ活動カレンダー」も始動させた。
大学教員生活16年目にして、少しずつではあるが、などと言えた義理ではないが、
組織運営(ゼミ運営)にも「不断のカイゼン」を、である。

防災教育についての拙稿を何回かに分けて掲載している。
今回の更新では、各論のうち地震・津波防災DIGの前半を掲載する。
(例によって禁転載でお願いします。)

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DIGを用いた防災教育のポイント(その1):地震・津波防災DIG

災害図上訓練DIG(ディグ、Disaster Imagination Game)は、
1997年、当時三重県消防防災課に勤務していた平野昌氏と三重県在住の防災ボランティア、
そして防衛庁(当時)防衛研究所に勤務していた筆者の三者が作り上げた、
地図を使った参加型防災ワークショップのノウハウである。
地図を前に、どれだけ「防災の物語」を語るか、
参加者に「防災の物語」を考えさせることが出来るかの世界である、と言えば、
理解してもらえるだろうか。
本節と次節では、現場の中高教員を念頭に置きつつ、防災についての専門性を持たない方であっても、
DIGにおいて正しい「防災の物語」を語ってもらえるよう、その物語の勘所について述べてみたい。

(1)1つ目の柱:震度6強の揺れをイメージさせよ

「地震大国の日本ゆえ、全国どこであれ、震度6強の揺れはあるものと覚悟しておくべき。」
地震・津波防災DIGの冒頭、筆者はこのように訴えた上で、震度6強の揺れが何をもたらすのかを、
個人作業やグループワークで確認する作業を行わせている。

「地震で人は死なない。耐震性に欠ける建物に潰されて人は死ぬ。」

阪神淡路大震災最大の教訓であり、耐震性に欠ける建物は10秒も持たずに倒壊、下敷きとなった方々が犠牲になった。
震度6強(以上)の揺れにも耐えられる建物のほうが多数という時代にはなったものの、
弱い者(物)を選んだように襲いかかるのが災害である。
この現実からスタートせず、いきなり「避難場所・避難経路」云々から始まる地震・津波防災論議はニセモノである。

筆者が行う地震・津波防災DIGでは、最初の柱として、
「揺れが収まった後に」己が取るべき行動を個人ワークとグループワークで書き出してもらった後、
記録映像と実験映像で揺れと被害の実態を確認・検証させている。
これにより、自分達が思い描いていた揺れや被害のイメージはリアルなものか、
地域住民に求められる被害局限のための具体的な災害対応がしっかり意識化・明文化できていたかの自己採点が出来る。
さらにその後、求められる予防策・事前準備は何かを問い、
本来あるべき防災とは何かへと誘導するようにしている。

(2)2つ目の柱:「着眼大局:事態の深刻さをイメージさせよ」

2つ目の柱を、筆者は「着眼大局」と呼んでいる。
具体的には、首都圏から九州東岸までを含む1/20万の地勢図を展開し(6m×2mほどになる)、
駿河トラフ・南海トラフ沿いの地震・津波の被害が及ぶ範囲のイメージを持ってもらっている。
この縮尺では、阪神淡路大震災の被災範囲は手のひら2つ分。
これに対して、駿河トラフ・南海トラフ地震の被害範囲は大人2人が両手を広げたくらいとなる。
静岡、愛知、三重、和歌山、徳島、高知、愛媛、さらに大分と宮崎、
状況によっては大阪を含むその周辺の府県においても死者が発生しかねない超広域の災害である。
被災地域外からの支援にどれほどの「手厚さ」も期待できないと、一目で理解できるだろう。
広さの差のみならず、この地域の人口の多さと社会経済活動の活発さを想起するよう促せば、
この範囲が同時に被災地となる災害がどのようなものか、
事態の深刻さについて、イメージをもってもらえることと思う。

前述のように、この「被災範囲が極めて広く」「社会経済的インパクトも計り知れない」絶望的な巨大災害だが、
一つだけ救いがある。それが海溝型地震の周期性に鑑みての20年程度の準備期間である。
しかるべき準備(一義的には予防)に、十分ではないかもしれないが、
「まったく足りない」ではない程度の時間的余裕はある。
問題はその時間を活かせるか(あるいは活かせずに終わってしまうか)、である。
子どもたちにそのような意識付けをするためにも、
この1/20万地勢図を前に物語る「着眼大局」のワークには、是非是非取り組んでもらいたいと強く願っている。

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(10月13日 記す)


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