「旅の坊主」の道中記:常葉大学社会環境学部・小村隆史の防災・危機管理ブログ

日本唯一の防災学部はなくなっても、DIGと防災・危機管理を伝える旅は今日も続いています。

「防災教育のあるべき姿と地震・津波防災DIG・土砂災害対策DIG」(その9、最終回)

2015-10-07 23:51:27 | 防災教育
毎月第1水曜日の午後は学部教授会のある日。
この日、小村ゼミ3年生の2人の転籍が教授会で承認され、両名は正式に小村ゼミを去って行った。

本格始動なったゼミブログには「来る者拒まず、去る者追わず」の文字があり、
その訳語 Those who come are welcome, those who leave are not regretted.も載せてもらってある。
ではあるが……。
「去る者追わず」と言ってはいるものの、not regrettedの気分ではない

逃げ癖が身に付いてしまっている彼らである。
fight or flightの決断の場に立たされたら、これからも、努力ではなく、安易な道を選ぶだろう。
そしてその結果が何をもたらすか、その恐ろしさを彼らは知らない。
ゼミを変わっても、学びを続ける姿勢があり、そして学びの方法論を持っているならば、
まだ取り戻せるかもしれないが……。

まぁ、すでに答えが出てしまったことである。彼らのことを今後は言うまい。
残された者をしっかり鍛え、社会人の卵として、まともなスタート地点に立たせることが出来るか。
小村ゼミの目標を改めて見据え直さなくては、である。

9回に分けて掲載した防災教育についての拙稿も、今回で最後となる。
この原稿書きの機会で、新たな想を得ることが出来た。
これをいかに発展させた上で文章にまとめるか。次の大きな課題である。

*****

DIGを用いた防災教育のポイント(その2):土砂災害対策DIG

地震・津波防災のみならず、今後は土砂災害(広くは風水害)のリスクも高まっていくことになる。
そのため、ここ1、2年は土砂災害対策DIGの依頼も出てきている。

(1)もっとも重要な着想:「住む場所選びの目を育む」ということ

土砂災害、中でも土石流災害は、その流速が速く、かつ予兆現象があるとは限らないため、事後対応では間に合わない。
そこで子どもたちには、

「土砂災害が発生する場所は限られている。だから、
そのようなリスクのある(高い)場所には住まないことが土砂災害対策の大原則である」

ということを教えなくてはならない。

土砂災害対策DIGは、気象予警報や前兆現象、避難指示等々の理解よりも、
「住む場所選びの目を育む」を目標にかかげ、
災害リスクの有無・大小を判断できる力を身に着けさせることに重きを置いたプログラムである。

(2)模擬地図で土地理解の基本を学ぶ

地図判読の基礎は小学校5年生で学ぶことになっているが、実のところ、
地形図を読む力は大人でもかなり心もとない。
土砂災害対策DIGでは、最終的にはそれぞれの地域の地図に取り組んでもらうのだが、
その前に地形図判読のイロハを教える必要がある。
筆者らは、消防庁消防大学校による「自主防災教育指導者用教本」
http://www.fdma.go.jp/html/intro/form/daigaku/kyouhon/index.htm)に収録されている
DIG用模擬地図を用いるのを常としている。

この模擬地図を用いて、

①地形の特徴、
②災害リスクが示唆される地名、
③土石流が及ぶ範囲や堤防決壊リスクの高い場所・浸水範囲等を、

地図から読み取る訓練した後、実際の地形図に取り組ませている。

(3)旧版地図と防災ジオラマによる地形理解と実被害図の対比

都市化が進んだ地域では、現行の地形図から災害リスクを読み取りやすい「素の地形」を読み取ることはなかなか難しい。
だが、今より人口が少なく都市化も進んでいなかった大正年間まで遡り、その時代の地図を用いれば、
その地域・地形が潜在的に持つ「地形に起因する災害リスク」は比較的読み取りやすい。
幸か不幸か「模範解答が用意されている練習問題」が一例あるので、それに取り組むことをお勧めしたい。
それが、国土地理院による1/25000地形図「祇園」(2014年の広島土砂災害箇所を図郭内に持つ)であり、
空中写真による写真判読図(http://www.gsi.go.jp/common/000095316.pdf)である。

周知のように国土地理院では、古くは明治年間にまで遡ることが出来る旧版地図と呼ばれる昔の地形図の謄本交付を行っている。
例えば、上述の「祇園」は、大正14年測図のものまで遡ることが出来る。
土砂災害リスク判読で最も重要な読図ポイントは尾根筋と谷筋なので、
この地図を使いて「尾根筋は赤」「谷筋は青」と色鉛筆を用いて確認させている。
作業のやりやすさを考えると版面をA3版、地図は150%程度に拡大すると良いだろう。
(著作権法上教育目的での地形図コピーは許容されている)。
実測被害図も縮尺を調整して地形図同様とすれば、「ビフォー&アフター」が出来る訳で、
地形図判読の上手下手を自身で確認することが可能となる。

土砂災害リスクの把握の上では、段ボールを用いたジオラマの活用(http://bosai-diorama.or.jp/)も効果的である。
3D地図であれば地形判読は直観的に可能となる訳で、紙地図同様尾根筋と谷筋に赤青のテープを貼ることで、
3D地形が2D地図ではどう表現されるのか、またその逆はどうなのかの理解も容易である。
これらの作業の後、地域の実際の地形図に取り組ませれば、土砂災害リスクの判読も、
さほどハードルの高いものとはならないであろう。

おわりに

以上、前半では今日求められている防災教育の中身とその体系性について、
「防災まちづくり・くにづくり教育」のあるべき姿にも触れつつ述べてきた。
「時代の宿命」としての南海トラフ地震・津波の被害範囲の広さと社会経済的影響の甚大さ、
さらに「20年ほどの時間的猶予」という唯一の希望を考える時、追求すべきはこの方向性以外にない、と筆者は確信している。
また後半では、前半で述べた総論を災害図上訓練DIGにおいて物語る上でのポイントを述べた。

詰め込み過ぎの感があったとすれば、それは筆者の責である。
機会があれば、改めてこのテーマについて語ってみたいと思っている。

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(10月13日 記す)


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