尤重高節。徴處士周黨。至不屈、伏而不謁。或奏詆之。上曰、自古明王聖主、必有不賓之士。賜帛罷之。處士嚴光、與上嘗同游學。物色得之齊國。披羊裘釣澤中。徴至。亦不屈。上與光同臥。以足加帝腹。明日太史奏、客星犯御座甚急。上曰、朕與故人嚴子陵共臥耳。拝諫議大夫、不肯受。去畊釣、隱富春山中終。
尤も高節を重んず。処士周党を徴(め)す。至るも屈せず、伏するも謁せず。或るひと奏して之を詆(そし)る。上曰く、古(いにしえ)自(よ)り明王聖主は、必ず不賓(ふひん)の士有り、と。帛(はく)を賜いて之を罷(や)む。
処士厳光、上と嘗て同じく游学す。物色して之を斉国に得たり。羊裘(ようきゅう)を披(き)て沢中に釣る。徴して至る。亦屈せず。上、光と同臥(どうが)す。足を以って帝の腹に加う。明日(めいじつ) 太史奏す、客星、御座を犯すこと甚だ急なり、と。上曰く、朕、故人厳子陵と共に臥するのみ、と。諫議大夫(かんぎたいふ)を拝するも、肯(あ)えて受けず。去って畊釣(こうちょう)し、富春山中に隠れて終る。
光武帝はとりわけ節操の高い士を重んじた。無官の士周党を登用しようと呼び出したところ、参内はしたものの、士官には応ぜず、平伏したものの、謁見の礼はしなかった。或るひとがそれを非難したが、「昔から明王聖主のもとには必ず従わない者が出てくるものだ」と言って絹を賜って、登用を取り止めた。
同じく厳光は嘗て光武帝と共に学んだ者であった。さまざまに手を尽くして各地を探していたが斉国で見つけ出した。羊の毛皮を着て釣りをしていたところを召したが、厳光も士官を承諾しなかった。その夜、帝が寝所を共にすると、厳光の足が帝の腹の上に乗った。翌朝、天文官が奏上した「昨夜、彗星が北極星をたびたび横切りました、ただ事ではございません」と。帝は「いや、わしが旧友の厳子陵と一緒に寝ただけだよ」といった。厳光に諫議大夫を拝命させようとしたが、同意せず、帰って耕作と釣りで世を送り、富春山中に隠れて死んだ。
処士 官途につかず民間にいる人。 不賓 従わないこと。 太史 天文、暦算と国の歴史をつかさどった。 客星 流星。 主座 天子の星座、北極星。 諫議大夫 天子の過失を諌める官。