祭遵先死。上念之不已。來歙・岑彭、死鋒鏑。卹之甚厚。呉漢・賈復終於帝世。漢在軍、或戰不利、意氣自若。上歎曰、呉公差強人意。隱若一敵國矣。毎出師、朝受詔夕就道。及卒、上臨問所欲言。漢曰、臣愚願陛下愼無赦而已。復自起兵時爲督。上曰、賈督有折衝千里之威。嘗戰被傷。上驚曰、吾嘗戒其輕敵。果然。失吾名將。聞其婦有孕。生子邪、我女嫁之。生女邪、我子娶之。其撫羣臣毎如此。
祭遵(さいじゅん)先に死す。上、之を念(おも)うて已(や)まず。來歙(らいきゅう)・岑彭(しんほう)、鋒鏑(ほうてき)に死す。之を卹(あわれ)むこと甚だ厚し。呉漢・賈復(かふく)、帝の世に終う。漢軍に在るや、或いは戦い利あらざるも、意気自若たり。上歎じて曰く、呉公、差(やや)人意を強うす。隠として一敵国の若(ごと)し、と。師を出だす毎に、朝(あした)に詔を受けて夕(ゆうべ)に道に就く。卒(しゅつ)するに及び、上臨んで言わんと欲する所を問う。漢曰く、臣愚願わくは陛下慎んで赦(ゆる)すこと無きのみ、と。復、兵を起こしし時より督たり。上曰く、賈督、衝(しょう)を千里に折(くじ)くの威有り、と。嘗て戦って傷を被る。上驚いて曰く、吾嘗て其の敵を軽んずるを戒む。果たして然り。吾が名将を失う。其の婦孕む有りと聞く。子(し)を生まんか、我が女(じょ)を之に嫁(か)せしめん、女を生まんか、我が子(し)に之を娶らん、と。其の群臣を撫(ぶ)すること毎(つね)に此の如し。
功臣の中で祭遵が先ず死んだ。光武帝は追悼してやまなかった。來歙・岑彭はいくさの中で命を落とした。帝はこの二人を手厚く弔った。呉漢・賈復は帝の治世の間に世を去った。呉漢は戦場にあって、時に味方が不利でも、平然としていた。帝は感嘆して言った「呉公はよく人の意気を引き立ててくれる。泰然として敵の一国ほどの重みがある」と。出陣するときはいつも朝に命令を受けると、夕べには出発するという風であった。死に臨んで帝が言い残すことは無いかと尋ねると、呉漢は「臣愚願わくは、どうか陛下にはむやみに人を赦さぬよう、ただそれだけでございます」と言い残した。
賈復は、帝が挙兵した時から、軍を統率監督する官であった。帝は「賈督軍は敵の矛先を挫いて千里の外まで追い払うほどの威をそなえている」とほめていた。彼が戦場で傷を負ったとき、帝は驚いて「敵を甘く見ないよう言っておいたのに、心配どおりのことが起こってしまった。名将一人を失うとは無念だ。聞けば彼の妻は身ごもっているそうだが、もし男子を生んだら、私の娘を嫁がせよう。女の児だったら、息子に娶(めと)らせよう」と。帝が群臣を慈しむことはいつもこのようであった。
鋒鏑 矛先と鏃。 卹(じゅつ)=恤、あわれむ。 隠 おもおもしい。 臣愚 自分をへりくだった言い方。 督 督軍、監督官 衝 突き破る、折衝は敵の攻撃をくじき防ぐこと。
祭遵(さいじゅん)先に死す。上、之を念(おも)うて已(や)まず。來歙(らいきゅう)・岑彭(しんほう)、鋒鏑(ほうてき)に死す。之を卹(あわれ)むこと甚だ厚し。呉漢・賈復(かふく)、帝の世に終う。漢軍に在るや、或いは戦い利あらざるも、意気自若たり。上歎じて曰く、呉公、差(やや)人意を強うす。隠として一敵国の若(ごと)し、と。師を出だす毎に、朝(あした)に詔を受けて夕(ゆうべ)に道に就く。卒(しゅつ)するに及び、上臨んで言わんと欲する所を問う。漢曰く、臣愚願わくは陛下慎んで赦(ゆる)すこと無きのみ、と。復、兵を起こしし時より督たり。上曰く、賈督、衝(しょう)を千里に折(くじ)くの威有り、と。嘗て戦って傷を被る。上驚いて曰く、吾嘗て其の敵を軽んずるを戒む。果たして然り。吾が名将を失う。其の婦孕む有りと聞く。子(し)を生まんか、我が女(じょ)を之に嫁(か)せしめん、女を生まんか、我が子(し)に之を娶らん、と。其の群臣を撫(ぶ)すること毎(つね)に此の如し。
功臣の中で祭遵が先ず死んだ。光武帝は追悼してやまなかった。來歙・岑彭はいくさの中で命を落とした。帝はこの二人を手厚く弔った。呉漢・賈復は帝の治世の間に世を去った。呉漢は戦場にあって、時に味方が不利でも、平然としていた。帝は感嘆して言った「呉公はよく人の意気を引き立ててくれる。泰然として敵の一国ほどの重みがある」と。出陣するときはいつも朝に命令を受けると、夕べには出発するという風であった。死に臨んで帝が言い残すことは無いかと尋ねると、呉漢は「臣愚願わくは、どうか陛下にはむやみに人を赦さぬよう、ただそれだけでございます」と言い残した。
賈復は、帝が挙兵した時から、軍を統率監督する官であった。帝は「賈督軍は敵の矛先を挫いて千里の外まで追い払うほどの威をそなえている」とほめていた。彼が戦場で傷を負ったとき、帝は驚いて「敵を甘く見ないよう言っておいたのに、心配どおりのことが起こってしまった。名将一人を失うとは無念だ。聞けば彼の妻は身ごもっているそうだが、もし男子を生んだら、私の娘を嫁がせよう。女の児だったら、息子に娶(めと)らせよう」と。帝が群臣を慈しむことはいつもこのようであった。
鋒鏑 矛先と鏃。 卹(じゅつ)=恤、あわれむ。 隠 おもおもしい。 臣愚 自分をへりくだった言い方。 督 督軍、監督官 衝 突き破る、折衝は敵の攻撃をくじき防ぐこと。