以皇后父梁商爲大將軍。商死。以其子冀爲大將軍、不疑爲河南尹。遺使者八人、分行州郡。張綱獨埋其車輪於洛陽都亭曰、豺狼當道。安問狐狸。劾奏冀・不疑無君之心十五事。上知綱言直、而不能用。冀欲中傷之。廣陵賊張嬰。寇亂揚徐十餘年。乃以綱爲廣陵太守。綱單車徑詣嬰壘門、請與相見譬暁之。嬰等萬餘人降。綱入壘宴、散遣任所之。南州晏然。在郡卒。嬰等爲之制服行喪。
皇后の父梁商を以って大将軍と為す。商死す。其の子冀(き) を以って大将軍と為し、不疑(ふぎ)を河南の尹(いん)と為す。使者八人を遣わして、州郡を分行せしむ。張綱、独り其の車輪を洛陽の都亭(とてい)に埋めて曰く、豺狼(さいろう)道に当る。安(いず)くんぞ狐狸(こり)を問わん、と。冀・不疑が君を無(な)みするの心十五事を劾奏(がいそう)す。上、綱の言の直なるを知れども、而(しか)も用いる能(あた)わず。冀、之を中傷せんと欲す。広陵の賊張嬰(ちょうえい)、揚徐の間に寇乱(こうらん)すること十余年。乃ち綱を以って広陵の太守と為す。綱、単車径(ただち)に嬰の塁門に詣(いた)り、請うて与(とも)に相見て之を譬暁(ひぎょう)す。嬰等万余人降る。綱、塁に入って宴し、散じ遣(や)って之(ゆ)く所に任す。南州晏然(あんぜん)たり。郡に在って卒(しゅっ)す。嬰等之が為に服を制して喪を行う。
皇后の父梁商が大将軍に任じられた。商が死ぬとその子の冀が大将軍に、冀の弟の不疑が河南の長官になった。ある時、使者八人を派遣して州郡を視察させた。その中で張綱だけが、洛陽の宿場で馬車の車輪を土中に埋めて、「山犬や狼が中央を跋扈(ばっこ)しているのに、なんで地方の狐や狸を調べて歩けようか」と言い、冀や不疑が帝をないがしろにしている点十五箇条を奏上した。順帝はその言い分の正しいことは承知しながら、どうすることもできないでいた。梁冀はこれを怨み張綱を貶めようと機会を窺っていた。
広陵の賊張嬰は十年にもわたって揚州・徐州の一帯を荒らし廻っていた。そこで張綱を広陵の太守に任命した。張綱は単身車で嬰の砦の門に赴き会見を申し出て、とくと諭したので張嬰以下一万人あまりが降った。張綱は砦に入って共に酒宴を催した後全員にそれぞれ行きたい所に行かせた。これによって南部の州郡は平穏になった、張綱は広陵に在任中に死んだが、嬰等はこれを悲しみ喪服をつくって喪にふくした。
尹 長官。 劾奏 官吏の罪を挙げて君主に奏上すること。 寇乱 寇はあだする。 譬暁 譬も暁もさとすこと。 晏然 やすらかなさま、落ち着いたさま。
皇后の父梁商を以って大将軍と為す。商死す。其の子冀(き) を以って大将軍と為し、不疑(ふぎ)を河南の尹(いん)と為す。使者八人を遣わして、州郡を分行せしむ。張綱、独り其の車輪を洛陽の都亭(とてい)に埋めて曰く、豺狼(さいろう)道に当る。安(いず)くんぞ狐狸(こり)を問わん、と。冀・不疑が君を無(な)みするの心十五事を劾奏(がいそう)す。上、綱の言の直なるを知れども、而(しか)も用いる能(あた)わず。冀、之を中傷せんと欲す。広陵の賊張嬰(ちょうえい)、揚徐の間に寇乱(こうらん)すること十余年。乃ち綱を以って広陵の太守と為す。綱、単車径(ただち)に嬰の塁門に詣(いた)り、請うて与(とも)に相見て之を譬暁(ひぎょう)す。嬰等万余人降る。綱、塁に入って宴し、散じ遣(や)って之(ゆ)く所に任す。南州晏然(あんぜん)たり。郡に在って卒(しゅっ)す。嬰等之が為に服を制して喪を行う。
皇后の父梁商が大将軍に任じられた。商が死ぬとその子の冀が大将軍に、冀の弟の不疑が河南の長官になった。ある時、使者八人を派遣して州郡を視察させた。その中で張綱だけが、洛陽の宿場で馬車の車輪を土中に埋めて、「山犬や狼が中央を跋扈(ばっこ)しているのに、なんで地方の狐や狸を調べて歩けようか」と言い、冀や不疑が帝をないがしろにしている点十五箇条を奏上した。順帝はその言い分の正しいことは承知しながら、どうすることもできないでいた。梁冀はこれを怨み張綱を貶めようと機会を窺っていた。
広陵の賊張嬰は十年にもわたって揚州・徐州の一帯を荒らし廻っていた。そこで張綱を広陵の太守に任命した。張綱は単身車で嬰の砦の門に赴き会見を申し出て、とくと諭したので張嬰以下一万人あまりが降った。張綱は砦に入って共に酒宴を催した後全員にそれぞれ行きたい所に行かせた。これによって南部の州郡は平穏になった、張綱は広陵に在任中に死んだが、嬰等はこれを悲しみ喪服をつくって喪にふくした。
尹 長官。 劾奏 官吏の罪を挙げて君主に奏上すること。 寇乱 寇はあだする。 譬暁 譬も暁もさとすこと。 晏然 やすらかなさま、落ち着いたさま。