財務省の発表によると、2007年3月時末時点での国債など、いわゆる「国の借金」は、834兆円を超え、過去最高を更新したといいます。国民一人あたりに換算すると約653万円というとんでもない数字です。年間の赤字が30兆円を越えるなか、有効な対策はないままであり、一部消費税の引き上げで対応するといった意見もありますが、それによって「国の借金」が解消すると信じる人々が、いったいどれだけいることでしょうか。
これだけの大問題が横たわっているなか、先の参院選挙で、最も大きな争点のひとつは年金問題でした。このまま「国の借金」が膨れ上がり、日本の財政が破綻すれば、経済的な日本の国家信用が失われ、その通貨である円紙幣など紙くず同然となるかもしれません。そんなことになれば、そもそも年金などもらえたところで、何の役にも立たなくなるという現実が待ち受けているのです。
結局のところ、多くの人々は、数多くのメディアから流れる報道、警鐘から日本の財政は破綻すると薄々感じていても、そのことを真剣に想像していないのでしょう。現実世界のなかで、人々が気にするのは自分個人、あるいは家庭の収入であり、少し大きくみて会社などの組織、もっと大きく広げたところで業界の成長や安定程度ではないでしょうか。
「国の仕組みまでは変えられない」。大きな変化や変革を諦めているが故に、人々は真剣に想像しなくなり、思考を停止させ、ひとまず自分が当面できる個人や家庭の収入の増大や安定に努めるようになってしまうのです。しかし、そうやって一所懸命蓄財したところで、待ち受けているのは国や社会全体の沈没であり、貧困です。これでは、すべてが水泡に帰してしまいます。
こうした問題は、日本の国家財政に係るものだけではありません。エネルギー問題、食糧問題、環境問題・・・。もはや国家規模ではなく、地球規模で我々の生活や生命を脅かす問題が顕在化しつつあり、タイムリミットが迫っていると思うのです。
人間はこうした現実、大きな問題から目を背けず、勇気を持って想像していかなければならないのではないでしょうか。想像は人間特有の素晴らしい能力です。どんな高性能コンピューターでも、人間の想像力を超えることはできません。想像力は人類の貴重な財産なのです(「「仮説と検証」のすすめ」参照)。未来を真剣に想像することで、現実と向き合うことができ、そのなかで未来において自分が何をすべきか、未来の社会をどのように創造すべきかがみえてきます。逃げることなく、目を背けることなく、妥協することなく真剣に想像すればこそ、創造していく力を得ることができるようになるのです。想像するにも、創造するにも勇気を持って臨むことが大切であると思います。
ところで、少々話題は変わりますが、人間はいつか死にます。死んだら、どうなるのか。こうしたテーマについても、恐れることなく大いに想像すべきであると考えます。
人生は一度きり。少なくとも、自分が死んだら、自分という人間は二度と復活することはありません。自分が死んだ後も、限りなく時間は流れ続けるし、いろいろな出来事が起き続けるでしょう。自分に子供がいれば、子供がその子供を生み、さらにその子供が・・・といったかたちで血が受け継がれ、人類という種が存続していくのです。それが地球上でいつまでも続くわけではないとしても、宇宙は存在し続けます。太陽が一生を終えるとき、膨張した太陽に地球は飲み込まれ、太陽系にはチリとガスしか残らなくなります。しかしそれでも、宇宙は存在し続けるのです。このように、宇宙では想像を絶するような大きな出来事が起こり、またそれだけ限りない時間が延々と流れても、自分という存在は二度と復活することがないのです。人生が一度きりしかないということは、人の一生というものが、それだけ儚いということでもあり、死とはそれだけ恐ろしいものでもあるということなのです。
このように命について真剣に考えると同時に、想像しなければならないのは「死」の瞬間です。死は誰にでもやってきます。一般的に死は、最も恐ろしいものであり、特別な事情がない限り、その恐ろしいものについて、真剣に考えたくはないし、常日頃からそれと向かい合う生き方をしたいとは思いません。しかし、想像すべきです。この世に生きるものは、例外なくいつかは死を迎えるのであり、誰にとっても死は必然なのです。そうであればこそ、どのように死を迎えるかを想像しなければなりません。
そして死をリアルに、そして真剣に想像できる人は、自らの命のあり方や使い方を見出すことができるようになります。なぜなら、死と対面できる人は、儚くはあるが、せっかくいただいた自分の命を何かの役に立たせたい、死の恐怖を乗り越えて、強く生きていきたいと心から願うことができるからです。
自らの生命をかけて何をすべきか、どのように人生を送るべきかについて答えを見つけることは、生きるうえでの最大のテーマです。宗教や他人に頼ることなく、自らの力でそれを成しえたとき、その人は幸せとは何か、何をして生きるべきかを知る真に強い人間になると思います。そうした強い人間こそが、次の時代を切り拓き、明るい未来を創造していくことになるでしょう。
いつか自分は死ぬ。
その現実を大いに想像してはいかがでしょうか。そしてそれを乗り越え、共に明るい未来を想像し、創造していきたいものです。