すぎな野原をあるいてゆけば

「おとのくに はるのうた工房」がある

トゲチシャの道(1)

2017-01-27 00:34:40 | 短歌
刺萵苣の名を突き止めてあるきだす道のゆくさきざきにトゲチシャ

あそこにもひとりひとりで立っている夏草 ぼくの背丈を超えて

スズガヤでにじむ視界をよこぎった鳥はおおきな生き物だった

あれは影だったのですか六月のそれきり見ないクロガケジグモ

ユーミンにうたってもらうことねってヒメジョオン先輩は言うんだ

やりすごすことは得意、とおちてゆくナガミヒナゲシ夏の眠りに

ヒメムカシヨモギの群れのてっぺんはむかしむかしの光に透ける




(「未来」776号 2016.9月)



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ニワゼキショウの橋

2017-01-27 00:34:11 | 短歌
野茨ののぞきこむ川くらい水そこにいるのにみえないものを

いまはないおおきな桐の記憶だけうかんで雲になる駐車場

それぞれの仕事はつづく一枚の田に耕運機・しずかなカラス

      ニワゼキショウが咲く橋、と覚えているので。

車道へとはみだしながら花は咲く 橋の名前はいつも忘れる

傘をいつひらくかきめられないままでバスに乗りこむかわいた傘と

花びらのみえない花のあかるさをクスノキいつまでもみあげる樹



(「未来」775号 2016.8月)


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砂をあるいて

2017-01-27 00:33:30 | 短歌
かたほうの目をとじて見る鼻のさきぼんやり西山は春になる

まるごとの牛タンのこと原木と呼ぶんだって、とひらひらの舌

あけがたの駅のベンチがいっせいに横向いた春 春に呼ばれた

靴と砂おなじ温度になるまでのしばらくあるくのをやめようか

ゆるされた海鳥たちよ突堤の「飛び込み禁止」の文字は消えそう

   須磨海浜公園駅からではなく、須磨駅から。

ひと駅ぶん砂をあるいて鳥をみて海のほうからまわる組です

「蟹が畳に上がれば雨になる」という町のどこかの畳に蟹が

須磨海浜水族園のそとがわへ還ればとおく見えた幻日

巻貝の殻に詰まった砂粒をほろほろおとす 海をわすれる



(「未来」774号 2016.7月)








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阪堺電軌鉄道上町線

2017-01-27 00:33:03 | 短歌
天王寺駅をぐるぐる天王寺駅前駅をみつけられずに

    たまたま乗ったのがモ161形という車両だったと後で知る。

しあわせとしらないうちに真鍮の手すりの金色に触れていた

「乗車口」って左右対称たて書きのまるい書体は扉に透ける

どこへ行くときいているのはだれだろう 降車ボタンはチン、とひと声

からからと記憶(ほんとは無い記憶)日よけの鎧窓のおもたさ

「はまでら」のアクセントってこうなのかわたしはとおくきたひとなのか

    終点は「浜寺駅前駅」。

夕暮れの松の林のほうへゆくカラス うみどり みんな帰ろう

まっくらになったからって松虫という名の駅に降りないままで


(「未来」773号 2016.6月)


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地衣類スタンプ

2017-01-27 00:32:31 | 短歌
ファンデルワールス力を持たない指先よ 歌なら窓をのぼってゆける

ナンジャモンジャながく生きたと地衣類のまるいスタンプあつめてわらう

熱風に髪を泳がせぼくたちも軋む鱗を持ったいきもの

編みかけのレースはずっと動かない(ウメノキゴケの育つ冬の日)

みちひきのみえるおおきなみずうみの、後ろ四両を切り離します



(「未来」772号 2016.5月)

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0番ホーム

2017-01-27 00:32:07 | 短歌
風の消えるほうへ曲がってゆけばいい 橋の向こうに白くない駅

濡れた脚が水面をぬけるそのときがいちばんつめたいでしょう、鷺たち

穂をつけてしまってカラスムギ揺れてもう後戻りできないけれど

0番のホームでまかりまちがえばサンダーバードに乗れる朝だね

おとなしく山科で降り自販機に「北陸麦茶めぐり」を探す


(「未来」771号 2016.4月)




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「いきもにあ」出展

2017-01-27 00:31:32 | 短歌
[画像注意]と断らなくていい場所のてのひらにのせられるもぞもぞ

ホモサピ幼体休憩室の記された地図をひらひら(はしってはだめ)

服部真里子をしらないひとが連れてゆく『ノーザン・ラッシュ』みどりの皮を

     アリの触覚カチューシャ・キノコのヘアピン……

休憩に行って戻ってくるときにみんななにかが生えてるあたま

     自ブースで最も人を呼んだのは、ミドリヒドラ生体だった。

標本としてうたを売るこころみを忘れて午後は語ってばかり

金色の速さで記事は直される ×オオゴンマダラ→○オオゴマダラ

     夜の交流会で、長竿の実演をみる。

お客さんの帰ったあとの天井にまわりつづける夢/捕虫網



(「未来」770号 2016.3月)

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窓から歌を

2017-01-27 00:30:58 | 短歌
八時半のパンとパンとに挟まれて左のひとのほうが甘そう

「右袖にアオバハゴロモとまってます」言えないままで向日町駅

     乗車駅不明のアオバハゴロモは降りていった。

あたたかいものは入っていないのに膝にのせたらねむたい鞄

     きょうは直翅目をみるという意識で川沿いを歩く(と、見えてくる。)

葛の葉の窓から歌を(邯鄲の)夢のながさにふるえるうたを

近寄ってわたしの影でのみこんだ バッタとバッタの影をいっしょに

そこにいることはわかっているんだと葉裏のコバネイナゴに告げる

まちがえたわけではなくてほんとうに今日咲きたくて秋の菜の花


(「未来」769号 2016.2月)



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キマダラカメムシ

2017-01-27 00:29:42 | 短歌
親に似ていないキマダラカメムシのこどもはひんやりと苔を踏む

    キマダラカメムシの幼体は黄色を持っていない

ビロードのやわらかい脚さようなら石榴の粒を埋めた背中も

あっさりと親に似てゆく虫を見るワタシハソンナフウニナラナイ

Amazonの箱にかすかな波音を響かせて着くオーシャンドラム

海の切れ端をさがした 歌碑よりも子猫の多い歌碑公園で

秋に追いつけ マルバルコウソウの縷をおおきく書いて覚えなおして


(「未来」768号 2016.1月)


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蔓草の道

2017-01-27 00:29:02 | 短歌
駅前のオブジェは雲量計になるかようびすいようびもくようび

蔓草の蔓のはしっこさまよってこの筆跡はだれでしたっけ

ゆらゆらはさよならのことメヒシバは風にヒドラは九月の水に

アレチウリしなやかな蔓わたくしはいきものですがまきつきますか

じっとしていたらいつかは蔓草のどれかひとつが触れにくるから



(「未来」767号 2015.12月)

写真の草は次回登場するマルバルコウソウ。
このあたりではアレチウリ・クズと三つ巴のたたかいをくりひろげていました。





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ツバメのねぐら

2017-01-27 00:27:56 | 短歌
猛暑日の「社会実験バス」に乗り冷えきってみるという実験

葦原はまだみえなくて葛の波こえていったらツバメのねぐら

たくさんの声すれちがう八月のウグイスだけを聞きわけている

鉄塔はまるい夕陽をとじこめてほおずきになる ここにいなさい
   
ツバメツバメつぎつぎ降りてコウモリの影だけ踊りはじめたら夜


(「未来」766号 2015.11月)
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いきもにあ

2015-12-20 18:22:01 | すぎな日記
12/12(土)京都みやこめっせで開催された「いきもにあ」に出展していました。

いきもの好きや研究者が集まる、グッズ販売あり講演ありの夢のようなイベントでした。

いきもにあ公式HP


事前にこちらのブログでもお知らせするつもりでしたが、まったく余裕がなく……申し訳ありませんでした。
(実は今3か月分まとめて更新した状態……)

販売していた物の試作品・展示品のプレゼント、並びに在庫販売については、ツイッターをやっていらっしゃるかたはDMで、やっていらっしゃらないかたは右のメッセージ欄からお問い合わせください。
(このブログのメッセージは受信専用で、別のyahooアドレスから返信いたします。)

とりいそぎ報告でした! 終了後のおしらせでほんとにごめんなさい。
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ミドリの水

2015-12-20 18:17:52 | 短歌
ボルボックスすくいにゆくとささやけばくすくすわらう遠いみずうみ

いなくなった/みえなくなった どっちだろうボルボックスのいたはずの水

餌として育てたものを呼ぶ灯り さあ水面にあがっておいで

いつまでも海へゆけずにきらりきらりブラインシュリンプ真水で洗う

    「ねこあつめ」のまんぞくさんは、満腹で眠る白い猫。

まんぞくさんみたいだね(聞いていないね)捕食のあとのミドリヒドラは
   


(「未来」765号 2015.10月)
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道草、ひかる

2015-12-20 18:17:13 | 短歌
朝焼けの鮮魚列車にすべりこみ眠ったままで運ばれる風

    近鉄には鮮魚列車が走っている。

どのくらい眠っていたの網棚はとっくに網じゃなくなりました

道草に来てねきらきらギンメッキゴミグモひかる公園にきて

公園にだって蛙が(水辺からひみつの道があるんだ)うたう

電車からみていたうすいむらさきの雲まで来たらアレチハナガサ

     ミドリヒドラを飼う。

ガラス瓶ふつふつ煮沸されつづけあしたみどりの王国になれ

しんこきゅう雌雄同体みなそこに緑の触手ひろげるきもち

LEDのひかり深夜の水に射しミドリヒドラはひとりで殖える




   
(「未来」764号 2015.9月)
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散歩の名前

2015-12-20 18:16:50 | 短歌
橋ひとつ渡ってきょうの散歩には名前をつけないことにしようか

鯉幟のしっぽの影に撫でられた草から順に波になります

踏んづけていいレンゲいけないレンゲ 草笛の音いったりきたり

つよく鳴るつばさに威嚇されたくてケリのすみかの畦道をゆく

カナメモチってこんなに大きくなるんだね知らない家の屋根をみあげて

ハナムグリ離陸着陸くりかえし四月の雲をすこし動かす

白い花(ことしの春)が終わってもレッドロビンはどこへもいかない

「※フェロモンは別売りです」と耐水性粘着トラップあかるく告げる

はばたきは痛いことかもしれなくて枝のすきまのナガサキアゲハ

脱いだ皮しずかにたべてイモムシはむずかしいってなに、とたずねる



   
(「未来」763号 2015.8月)
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