すぎな野原をあるいてゆけば

「おとのくに はるのうた工房」がある

題詠100首2007

2007-10-24 00:21:55 | 題詠100首2007
一時はどうなることかと思いましたが……完走しましたので100首をならべておきます。


001:始 
始祖鳥のつばさにふれた金色のチョークの粉がつもる理科室
002:晴 
夕空は晴れてからっぽコウモリのみじかい声が夏を呼んでも
003:屋根 
流星がころんことりとたちどまるわたしの屋根のかたむきぐあい
004:限  
雲はどこまでもゆきます 留守電がつぶやく午後の有限会社
005:しあわせ 
ひとりのこらずしあわせ、と春ごとに校歌はくりかえしくりかえし
006:使 
「羽根ペンを使うだけでは飛べないよ」ヤマセミは呼ぶみどりのなかで
007:スプーン 
白樺の樹液とバニラ まっすぐな木のスプーンに遠くの匂い
008:種 
とおくまでゆけると思うきらきらとコガマの種をはこぶみずうみ
009:週末 
ほんとうの週末が来るときのため小花模様を箱いっぱいに
010:握 
握力はよわくて背筋はつよくて少女もチカラシバも負けない
011:すきま 
まだ隠れられるところがすきま用家具と普通の家具のすきまに
012:赤 
つよがったあとでひろがるゆうやけの赤胴鈴之助に手をふる
013:スポーツ 
ぼくにだけ見えないぼくの弱点に目印を貼るスポーツドクター
014:温 
さくらいろ五つならんで五つとも温泉卵と信じられてる
015:一緒 
自転車置き場付近で一緒になるためのあらゆる速さを身につけていた
016:吹 
つよく吹きすぎると黙るピアニカはハーモニカとは似てない顔で
017:玉ねぎ 
玉ねぎは球根 つつむ手のなかのかたいひかりがわずかに外へ
018:酸 
硫酸銅水溶液の色だけを買ってみつめるインクの小瓶
019:男 
ドラえもんの道具でなにがほしいなんて男子の会話にはまざらずに
020:メトロ 
底のほうからもかすかな蝉時雨メトロの駅におりてゆくとき
021:競 
ぎん、りんと月夜に跳ねるものがいて競輪場をとりまく桜
022:記号 
心音はきこえない距離めちゃくちゃな速度記号をノートにしるす
023:誰 
踏台にのぼってさわる長いこと誰もみつけなかったページに
024:バランス 
完璧なバランスのとき澄んでゆく独楽です(だけど白くならない)
025:化 
化けそこなったタヌキのこともみてほしい赤いクスの葉降る降るとまる
026:地図 
ぼくたちは昔の地図の竜がいた辺りをきょうも踏んでしまった
027:給 
巻雲(けんうん)は影をもたない さみしさの自給率だけあがるいちにち
028:カーテン 
突風をはらんだ白いカーテンが二年五組のぼくを切り取る
029:国 
赤土とつめたい砂利でできていた。凧と走った。国道だった。
030:いたずら 
えんぴつの字がひかっててもうだれのいたずら書きかわかってしまう
031:雪
まっすぐに届けられないこといくつ? すきまだらけで飛ぶぼたん雪
032:ニュース
虹の根が街のどこかにふれていて「こどもニュース」はこわくなかった
033:太陽
ちいさくて見わけられない太陽がのぼり冥王星は朝です
034:配
みずいろは配られてゆくおそらくはきみが不在の場所に時刻に
035:昭和
明治橋大正町昭和通がつながっていて帰らない街
036:湯
スキナベーブ溶かしたお湯にひるがえる熱のある日の一反もめん
037:片思い
片思いしている耳のうずまきがホルンの音をさがしてうごく
038:穴
ほら穴でくらしつづけてとうめいないきものになるまでのくらやみ
039:理想
天明の料理想像した指は豆腐をちょうちょむすびにするの
040:ボタン
ボタンにはならない貝を金色の波がならべる波のかたちに
041:障
障子紙ころがしながら書きつづけ白い手紙はまだおわらない
042:海
「アリス式海岸」だからぎざぎざの道は見えないところへつづく
043:ためいき
ためいきでどこかへいなくなるくらいちいさな蜘蛛と住んでいる部屋
044:寺
じいちゃんのあくびまじりのシンデレラ お寺の鐘が十二回鳴る
045:トマト
特訓中「うさぎのダンス」は句跨りトマト/トマトト/マトトマ/トトマ
046:階段
階段のまんなかへんで読み終えたとたんに消えた小人のなまえ
047:没
海だった場所をかかとで蹴ってから「水没しちゃった村だってある」
048:毛糸
手にとった毛糸は黒の「ジェームスディーン」名づけられないものを編みます
049:約
告白は25gぴったりで要約するとなにもなくなる
050:仮面
きみが忘れてる黄金仮面なら学級文庫でわらっていたよ
051:宙
ワレワレハ宇宙人デスとうめいなみどりの羽根に何度も告げた
052:あこがれ
あこがれは黒いコンバースの星かそれとも星のうらがわの黒
053:爪
ほわわんとしているふりで爪先であるいているときみに見つかる
054:電車
熟睡の背骨のままでめざめれば電車はきんいろの麦のなか
055:労
ハートピア(勤労会館和室1だったあたり)を見あげています
056:タオル
ふかふかのタオルはずっと地平までループだらけだ 涙を埋める
057:空気
いちばんにみどりになろう水槽のふちに空気のビーズをならべ
058:鐘
108人までしか鐘はつけなくてお寺でもらうホットカルピス
059:ひらがな
ひらがなのつみきぱたぱたたおれてくきみのことばをおいかけてゆく
060:キス
真夜中にはたらいているホチキスのつめたいせなかちいさなくしゃみ
061:論
人参のケーキは三段論法のとちゅうで転ぶあなたのために
062:乾杯
自販機の紙のコップのカプチーノふたつふにゃふにゃ乾杯しよう
063:浜
浜千鳥 波の銀色しみとおり「どうようえほん」の重たいページ
064:ピアノ
ピアノ@音楽室に会えないと泣いてるピアノ@体育館
065:大阪
大阪の蛙はずっと背伸びしてわたしとちがう過去をみている
066:切
切りぬいた子馬の脚はろうそくが消えても走りつづけるかたち
067:夕立
あしのうらあつくないから夕立に笑われながら洗われながら
068:杉
クリスマスツリーは烏瓜がまだ灯る杉林でもらいます
069:卒業
紙吹雪そこまでとどけ卒業をしてないぼくの場所から投げる
070:神
お願いは天神さんの森に棲む鳥のなかまになら届くはず
071:鉄
トラックの埃舞う道に窓辺に砂鉄集めの名人はゆく
072:リモコン
まっすぐに月に向ければリモコンのようにはたらく懐中電灯
073:像
冬空に線香花火の残像を焼きつけている枝のひろがり
074:英語
おもいだす、ではなくずっとしっていたその蒲公英語きいろはうたう
075:鳥
眠れるのですかあかるいところでも卵のなかの鳥のこころは
076:まぶた
あたたかなまぶたを持たぬものたちはとりのこされて正夢のなか
077:写真
「レンズ豆たべたの?」鳩はすきとおり写真屋さんの屋根まで飛んだ
078:経
あの橋でちいさいころの義経のまるい背中がたたかっている 
079:塔
階段をのぼれば白い朝がくるペンペン草の塔のてっぺん
080:富士
国内で最古の落とし穴がある野原をすぎて富士山に会う
081:露
露草のはなびら溶けてすじ雲の羽毛ほどけて青だけの場所
082:サイレン
うたわないサイレンが棲む沼の底 水のふるえは半音低く
083:筒
やり直せないことばかり乱反射アルミホイルの筒がころろろ
084:退屈
退屈がぴっと読み取られてしまう黄緑色の貸し出しカード
085:きざし
あたらしい星の生まれるきざしへとすこしかたむく秋の触角
086:石
会うまでに横切る川のいくつかで犬の化石がつくられている
087:テープ
ままごとの野菜が切れる手応えでマジックテープは尊敬される
088:暗
ひとつだけあかるい場所をつくるため重い暗幕かかえて進め
089:こころ
水と影 ひかりとこおり 上昇の力と迷い 雲のこころだ
090:質問
質問をするからしっぽをつかまえて鉛筆けずってAをください
091:命
幾本の舌圧子が待つ未来だろう(にぶいひかりと使命を帯びて)
092:ホテル
すきまから来る朝を分け合いましょうホテルの鍵をプリズムにして
093:祝
先輩がゆずってくれたラジオからあふれる「大学祝典序曲」
094:社会
透明なブルーのジェルに放たれて蟻はあらたな社会をつくる
095:裏
裏門のかなたをとおりすぎる歌 ロバのパン屋は眠りを運ぶ
096:模様
マントにはカラスの模様あみこんで「ワルプルギスのよる」と名づけた
097:話
「舌切られ雀」の話であることをただしく伝え育ちゆく竹
098:ベッド
研修は笑いあってた記憶だけ二段ベッドの上と下とで
099:茶
紙箱にねむる夢二はお茶漬けを食べた時間とひきかえにした
100:終
終点は点ではなくてこんなにも青がひろがる砂にころがる





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完走報告(おとくにすぎな)

2007-10-20 02:07:12 | 題詠100首2007
完走しました。
今年もすてきな場をつくってくださった五十嵐さんと、いっしょに走れたみなさまに感謝です。
えっと、前半に油断しすぎて後半が暴走になってしまった点は反省……。
そして最後に91のトラバ抜かして順番が乱れました!ごめんなさい。


意外にもずっとけむけむだったけむけむ(笑)は、フェンスの向こうのバスケットゴールの向こうに行きたいの。

いつものぞいてくださるみなさんありがとう、またあそびましょうね。
コメント (17)
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100:終(おとくにすぎな)

2007-10-20 02:02:46 | 題詠100首2007
終点は点ではなくてこんなにも青がひろがる砂にころがる
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099:茶(おとくにすぎな)

2007-10-20 02:01:42 | 題詠100首2007
紙箱にねむる夢二はお茶漬けを食べた時間とひきかえにした
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098:ベッド(おとくにすぎな)

2007-10-20 02:00:42 | 題詠100首2007
研修は笑いあってた記憶だけ二段ベッドの上と下とで
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097:話(おとくにすぎな)

2007-10-20 01:57:41 | 題詠100首2007
「舌切られ雀」の話であることをただしく伝え育ちゆく竹
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096:模様(おとくにすぎな)

2007-10-20 01:56:53 | 題詠100首2007
マントにはカラスの模様あみこんで「ワルプルギスのよる」と名づけた
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095:裏(おとくにすぎな)

2007-10-20 01:55:55 | 題詠100首2007
裏門のかなたをとおりすぎる歌 ロバのパン屋は眠りを運ぶ
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094:社会(おとくにすぎな)

2007-10-20 01:54:56 | 題詠100首2007
透明なブルーのジェルに放たれて蟻はあらたな社会をつくる
コメント (2)
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093:祝(おとくにすぎな)

2007-10-20 01:53:59 | 題詠100首2007
先輩がゆずってくれたラジオからあふれる「大学祝典序曲」
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