すぎな野原をあるいてゆけば

「おとのくに はるのうた工房」がある

ひらくドアに

2017-01-27 00:36:16 | 短歌
炎天のホームに影を連れてくる列車の影を待っているんだ

カヤの木にツクツクボウシあかるいねふるえる腹が見えるくらいに

夏の砂すこし入ったままの靴 砂は九月の砂に踏みこむ

山崎もそのひとつですひらくドアにアオマツムシ、という夜の駅

アオマツムシの声をいったん遮断してゆっくりうごきだす車両たち




(「未来」779号 2016.12月)


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氷河時代展

2017-01-27 00:35:38 | 短歌
孤独相/群生相いろとりどりの陸上部員で満ちる公園

     大阪市立自然史博物館は、長居公園にある。

雷鳴をよけて長居のピクトさん看板のなか駆けこんだまま

     水月湖の年縞は、またひとつ。

湖底にはことしの花粉うっすらと積もる どこにもいかないからね

こどもたちおぼえておいてマンモスとナウマンゾウのあたまのかたち

ながいながい間氷期(いまどのあたり)黒い日傘をかかげてあるく

阪和線いったりきたりロッカーの奥に氷河の地図を忘れて


(「未来」778号 2016.11月)

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トゲチシャの道(2)

2017-01-27 00:35:11 | 短歌
ふりかえる夏の坂道さかあがりできてそのあとできなくなった

ぎくしゃくとゆらりゆらりとすくすくと花穂は起きあがってトゲチシャ

カスタードクリーム色の(すぐきえる)花はあたまのてっぺんに咲く

夕立をはねかえす場所 高架橋を見あげる道にきみはうまれた

灯台になるから明日おいでよとフェンスをよじのぼるヤブガラシ



(「未来」777号 2016.10月)

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トゲチシャの道(1)

2017-01-27 00:34:40 | 短歌
刺萵苣の名を突き止めてあるきだす道のゆくさきざきにトゲチシャ

あそこにもひとりひとりで立っている夏草 ぼくの背丈を超えて

スズガヤでにじむ視界をよこぎった鳥はおおきな生き物だった

あれは影だったのですか六月のそれきり見ないクロガケジグモ

ユーミンにうたってもらうことねってヒメジョオン先輩は言うんだ

やりすごすことは得意、とおちてゆくナガミヒナゲシ夏の眠りに

ヒメムカシヨモギの群れのてっぺんはむかしむかしの光に透ける




(「未来」776号 2016.9月)



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ニワゼキショウの橋

2017-01-27 00:34:11 | 短歌
野茨ののぞきこむ川くらい水そこにいるのにみえないものを

いまはないおおきな桐の記憶だけうかんで雲になる駐車場

それぞれの仕事はつづく一枚の田に耕運機・しずかなカラス

      ニワゼキショウが咲く橋、と覚えているので。

車道へとはみだしながら花は咲く 橋の名前はいつも忘れる

傘をいつひらくかきめられないままでバスに乗りこむかわいた傘と

花びらのみえない花のあかるさをクスノキいつまでもみあげる樹



(「未来」775号 2016.8月)


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砂をあるいて

2017-01-27 00:33:30 | 短歌
かたほうの目をとじて見る鼻のさきぼんやり西山は春になる

まるごとの牛タンのこと原木と呼ぶんだって、とひらひらの舌

あけがたの駅のベンチがいっせいに横向いた春 春に呼ばれた

靴と砂おなじ温度になるまでのしばらくあるくのをやめようか

ゆるされた海鳥たちよ突堤の「飛び込み禁止」の文字は消えそう

   須磨海浜公園駅からではなく、須磨駅から。

ひと駅ぶん砂をあるいて鳥をみて海のほうからまわる組です

「蟹が畳に上がれば雨になる」という町のどこかの畳に蟹が

須磨海浜水族園のそとがわへ還ればとおく見えた幻日

巻貝の殻に詰まった砂粒をほろほろおとす 海をわすれる



(「未来」774号 2016.7月)








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阪堺電軌鉄道上町線

2017-01-27 00:33:03 | 短歌
天王寺駅をぐるぐる天王寺駅前駅をみつけられずに

    たまたま乗ったのがモ161形という車両だったと後で知る。

しあわせとしらないうちに真鍮の手すりの金色に触れていた

「乗車口」って左右対称たて書きのまるい書体は扉に透ける

どこへ行くときいているのはだれだろう 降車ボタンはチン、とひと声

からからと記憶(ほんとは無い記憶)日よけの鎧窓のおもたさ

「はまでら」のアクセントってこうなのかわたしはとおくきたひとなのか

    終点は「浜寺駅前駅」。

夕暮れの松の林のほうへゆくカラス うみどり みんな帰ろう

まっくらになったからって松虫という名の駅に降りないままで


(「未来」773号 2016.6月)


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地衣類スタンプ

2017-01-27 00:32:31 | 短歌
ファンデルワールス力を持たない指先よ 歌なら窓をのぼってゆける

ナンジャモンジャながく生きたと地衣類のまるいスタンプあつめてわらう

熱風に髪を泳がせぼくたちも軋む鱗を持ったいきもの

編みかけのレースはずっと動かない(ウメノキゴケの育つ冬の日)

みちひきのみえるおおきなみずうみの、後ろ四両を切り離します



(「未来」772号 2016.5月)

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0番ホーム

2017-01-27 00:32:07 | 短歌
風の消えるほうへ曲がってゆけばいい 橋の向こうに白くない駅

濡れた脚が水面をぬけるそのときがいちばんつめたいでしょう、鷺たち

穂をつけてしまってカラスムギ揺れてもう後戻りできないけれど

0番のホームでまかりまちがえばサンダーバードに乗れる朝だね

おとなしく山科で降り自販機に「北陸麦茶めぐり」を探す


(「未来」771号 2016.4月)




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「いきもにあ」出展

2017-01-27 00:31:32 | 短歌
[画像注意]と断らなくていい場所のてのひらにのせられるもぞもぞ

ホモサピ幼体休憩室の記された地図をひらひら(はしってはだめ)

服部真里子をしらないひとが連れてゆく『ノーザン・ラッシュ』みどりの皮を

     アリの触覚カチューシャ・キノコのヘアピン……

休憩に行って戻ってくるときにみんななにかが生えてるあたま

     自ブースで最も人を呼んだのは、ミドリヒドラ生体だった。

標本としてうたを売るこころみを忘れて午後は語ってばかり

金色の速さで記事は直される ×オオゴンマダラ→○オオゴマダラ

     夜の交流会で、長竿の実演をみる。

お客さんの帰ったあとの天井にまわりつづける夢/捕虫網



(「未来」770号 2016.3月)

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