豊下楢彦『昭和天皇の戦後日本 <憲法・安保体制>にいたる道』(岩波書店、2015年)を、テヘランにいる間に読了。
宮内庁の編纂による大部の『昭和天皇実録』が刊行されつつある。本書はそれに基づく成果である。
もちろん、戦争遂行の責任を免れ得ないことも、戦後の「天皇メッセージ」(豊下楢彦『昭和天皇・マッカーサー会見』)により沖縄をアメリカに与えたことも知っている。それでも、本書が伝える内容は驚愕に値する。
昭和天皇は当時としては卓越した情報通であり、国際動向をリアルに見極めていた。その上で、極めて精力的に動き、日本の「國軆」すなわち最低限でも「本土」だけの皇統を守り抜こうとし、成功しおおせた。そのために、戦中と同様に沖縄をアメリカに差し出し、戦争の遂行については「東條たちの軍部による暴走を残念ながら止められなかった」という言説を流布し、連合国全体の判断に陥る前に新憲法を作りだし、国連による日本防衛を進めようとした吉田茂の頭越しにアメリカと話をし、アメリカによる安保体制を実現化した。
すなわち、現憲法は共産主義の脅威に対応した日米の合作であり、また、平和憲法としての要素は日本側の働きかけによってこそ含まれた(古関彰一『平和憲法の深層』)ことを鑑みれば、「押しつけ憲法論」が全くの間違いであることが明らかになる。そして、沖縄の切り離しも、「本土」を守るために不可避なことではなかったようだ。
もちろん、戦前・戦中に責任が部分的にしかなかったという言説は意識的なものであり、戦後の「象徴天皇」という立場でこのような政治的行為を行ったのは重大な憲法違反であった。
今上天皇と現政権との考え方のずれを理解するためにも、ぜひご一読されたい。
●参照
豊下楢彦『昭和天皇・マッカーサー会見』
豊下楢彦『「尖閣問題」とは何か』
原貴美恵『サンフランシスコ平和条約の盲点』
古関彰一『平和憲法の深層』
吉次公介『日米同盟はいかに作られたか』
波多野澄雄『国家と歴史』
『9条を抱きしめて ~元米海兵隊員が語る戦争と平和~』
沖縄「集団自決」問題(16) 沖縄戦・基地・9条
ノーマ・フィールド『天皇の逝く国で』