Sightsong

自縄自縛日記

藤原智子『ルイズその旅立ち』

2019-07-21 21:49:56 | 政治

過日、藤原智子『ルイズその旅立ち』(1997年)を再見することができた。公開当時に岩波ホールで観て以来、22年ぶりくらいである。

伊藤ルイは、1923年の関東大震災直後に軍部に殺された大杉栄と伊藤野枝の娘である。その前の名前はルイズだったが、事件後に他の姉妹と同様に改名された。事件のとき甥の橘宗一少年も虐殺された。父親・橘惣三郎は、宗一の墓石に、「大正十二年(一九二三)九月十六日ノ夜大杉栄、野枝ト共ニ犬共ニ虐殺サル」と書いた。

映画ができる前の年に、伊藤ルイは亡くなった。はじめて映画を観たとき、ルイさんの幼馴染が昔の家を訪れて泣き出すセンチメンタルな場面に心を動かされていたわけだけれど、今回再見して、別のふたつの面があらためて強く印象に残った。自分も社会も変わったからかな。

ひとつは人びとの強さ。墓石が政府や警察に見つかるとただごとでは済まない。しかし、近所の人はそれをわかったうえで黙って隠しとおした。ルイさんの幼馴染や姉妹は大人から冷たい扱いを受けたわけだが、子どもであろうとなんであろうと、彼女たちは毅然とした個人であった。これがいまの社会でどれほど成り立つだろうか。

もうひとつ。強いといえばルイさん自身がそうだった。そのルイさんでさえも、しがらみを捨てて自分の信じる社会運動をはじめたのは50歳くらいのころだったという。そして亡くなるまで独立独歩で進み続けた。この遅さと強さにとても勇気づけられてしまう。

●参照
伊藤ルイ『海の歌う日』
亀戸事件と伊勢元酒場
加藤直樹『九月、東京の路上で』
藤田富士男・大和田茂『評伝 平澤計七』
南喜一『ガマの闘争』
田原洋『関東大震災と中国人』
植民地文化学会・フォーラム「内なる植民地(再び)」
山之口貘のドキュメンタリー(沖縄人の被害)
平井玄『彗星的思考』(南貴一)
道岸勝一『ある日』(朝鮮人虐殺の慰霊の写真)
『弁護士 布施辰治』(関東大震災朝鮮人虐殺に弁護士として抵抗)
野村進『コリアン世界の旅』(阪神大震災のときに関東大震災朝鮮人虐殺の恐怖が蘇った)


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