Sightsong

自縄自縛日記

玉木俊明『ヨーロッパ覇権史』

2015-10-25 23:03:29 | ヨーロッパ

玉木俊明『ヨーロッパ覇権史』(ちくま新書、2015年)を読む。

本書に描かれている歴史は、ヨーロッパが、数百年をかけて如何に世界を征服していったかという移り変わりである。

中世までのヨーロッパは、アジアに比べて軍事的にも経済的にも弱い地域であった。モンゴルにもイスラームにも、陸から勝つことはできなかった。世界を変えた手法は、海路というインフラ整備である。そして、それを利用したアフリカ大陸とアメリカ大陸からの収奪構造を構築し、ようやく、経済がダイナミックに成長をはじめた。

過度に奪うところを作らなければ回らない、血塗られたシステムのはじまりである。すなわち、開拓という名のもとに「ただ取り」する対象は、アフリカの奴隷という人的資源であり、南米の銀であり、ブラジルの金であり、ブラジルやカリブ海地域の砂糖であった。南米の銀は、石見の銀と同程度に中国の需要を満たし、それでこそアジアからものを買うことができた。一方、16世紀以降、明国では、銀本位の市場が成立していた(杉山正明『クビライの挑戦』)。

その概念がファジーではありながら、15世紀以降、はじめに主導権を握ったスペイン、ポルトガル、オランダといった海洋国家から、如何にイギリスが世界支配の帝国と化していくかについての分析は面白い。前者は国家がというより商人たちの欲による開拓に国家が付いてくる形、後者は国家主導の形。さらに、通信、保険、言語という新たなインフラによって、他者がそれに乗っかってくるしかない構造を作り上げた。ルールを作る奴が強いという、いまでも通用する法則である。

「ただ取り」構造を作り上げなければ、このような資本主義システムは回り続けることができない。それは例えば、アメリカが南米に、中国が内陸にその「資源」を求めたこと(デヴィッド・ハーヴェイ『新自由主義』)、国家の内部でも格差を絶えず作りあげてきたこと(トマ・ピケティ『21世紀の資本』)。「ただ取り」資源は永遠に出てくるわけではないから、このシステムは今後も同じ構造ではありえないというのが、著者の見立てである。

この先を予想することは難しい。読後、では「ただ取り」資源が枯渇するなら、別の形で作り出せばよいのだと想像した。これまでは、戦争を企図せぬものとしながら、あえて緊張状態を作り出して、あるいは起きてしまった戦争への対応として、それに伴う活動(軍事産業)が成立していたのだとすれば、さらなるシステムの発展形は、先のことを視野に入れての破壊そのものである。そうすれば、さらにこの血塗られたシステムが回り続ける。

●参照
トマ・ピケティ『21世紀の資本』
デヴィッド・ハーヴェイ『新自由主義』
『情況』の新自由主義特集
ジャック・アタリ『1492 西欧文明の世界支配』
白石隆『海の帝国』、佐藤百合『経済大国インドネシア』
杉山正明『クビライの挑戦』
上里隆史『海の王国・琉球』


カウエル+ハーパー+ワークマン+ハート『Such Great Friends』

2015-10-25 08:50:31 | アヴァンギャルド・ジャズ

ビリー・ハーパーのファンだが、スタンリー・カウエル、レジー・ワークマン、ビリー・ハートと組んだ『Such Great Friends』(Strata-East、1983年)を持っていなかった。そんなわけで最近の発掘品。

Stanley Cowell (p)
Billy Harper (ts)
Reggie Workman (b)
Billy Hart (ds)

仲良く各人の曲を1曲ずつ、計4曲。カウエルのオリジナル「Sweet Song」では、宝石のようなカウエルの長いイントロのあとに入ってくるハーパーのテナーに、やはりぞくりとする色気を感じる。ハーパー得意の「Destiny Is Yours」では、ハーパー臭ムンムン。ビリー・ハートの「Layla Joy」では一転して明るい曲調。最後のレジー・ワークマン「East Harlem Nostalgia」も変に明るく、弦を緩く張っているのか、低音を長く震わせて全体をドライヴする感覚のワークマン節。これは聴いてよかった。

なお、紛らわしいことに、このメンバーにソニー・フォーチュンが加わって『Great Friends』(1986年)という盤も吹きこまれている。実は改めて聴いてみないことには、そちらの印象が稀薄なのだが、ハーパー・ファンとしてはワンホーンのほうが良いかな。

本盤は良かったのだが、仲良しこよしセッションというものがどうも苦手である。チコ・フリーマンらの「The Leaders」なんて緊張感を決定的に欠くグループだった。ハーパーが参加している「The Cookers」には、いまだ手を伸ばさないまま。

●参照
ランディ・ウェストン African Rhythms Sextet @Jazz Standard(2015年)(ハーパー参加)
ランディ・ウェストン+ビリー・ハーパー『The Roots of the Blues』(2013年)
ビリー・ハーパーの新作『Blueprints of Jazz』、チャールズ・トリヴァーのビッグバンド(2009年)(ハーパー、カウエル参加)
ビリー・ハーパーの映像(2007年)
ランディ・ウェストンの『SAGA』(1995年)(ハーパー参加)
マリオン・ブラウンが亡くなった(カウエル、ワークマン参加)
トリオ3@Village Vanguard(2015年)(ワークマン参加)
トリオ3+ジェイソン・モラン『Refraction - Breakin' Glass』(2012年)(ワークマン参加)
ソニー・フォーチュン『In the Spirit of John Coltrane』(1999年)(ワークマン参加)
レジー・ワークマン『Summit Conference』、『Cerebral Caverns』(1993、1995年)
マル・ウォルドロンの映像『Live at the Village Vanguard』(1986年)(ワークマン参加)
アリス・コルトレーン『Huntington Ashram Monastery』、『World Galaxy』(1969、1972年)(ワークマン参加)
ザ・ジャズ・コンポーザーズ・オーケストラ(ワークマン参加)