安部公房『(霊媒の話より)題未定 安部公房初期短編集』(新潮社、2013年)を読む。
本書に収録された作品群は、1948年の文壇デビュー前後に書かれたものだ。どうやら、安部公房本人に発表するつもりがなかったものらしく、中には断片としか言えないような未完成作品もある。
安部公房の初期作品は、『終わりし道の標べに』も、『壁』も、観念や野望ばかりが先走り、読みやすいとはとても言うことができない。奇妙さが目立つ寓意的な作品も多い。
もっとも、この特質は、安部の生涯を通じてそうであったのかもしれない。たとえば、晩年の『カンガルー・ノート』についても、観念的、寓話的だといってもよいだろう。そして、それが安部作品の魅力でもある。
ここで読むことができる作品も、模索のあとを感じることができるものの、既にその特質をあらわにしている。それは、馴れ合い、もたれ合いの前近代的な共同体に対する嫌悪であり、自我の置きどころへの懊悩である。また、やはり、安部公房が「手法の作家」であったという指摘も、まさに最初から当てはまるものだと思える。
●参照
○安部公房『方舟さくら丸』再読
○安部公房『密会』
○安部公房の写真集
○安部ヨリミ『スフィンクスは笑う』
○友田義行『戦後前衛映画と文学 安部公房×勅使河原宏』
○勅使河原宏『おとし穴』(安部公房原作)
○勅使河原宏『燃えつきた地図』(安部公房原作)