鮎川俊介の「幕末・明治の日本を歩く」

渡辺崋山や中江兆民を中心に、幕末・明治の日本を旅行記や古写真、研究書などをもとにして歩き、その取材旅行の報告を行います。

小見川と黒部川 その1

2011-10-31 05:43:41 | Weblog
 「利根川大橋」からまっすぐに延びる通りが、国道356号線とぶつかるところに差し掛かり、「←銚子 香取→」と記された道路標示が現れたのが16:20。

 信号のあるその交差点で左折し、JR下総橘駅の方へ向かいました。

 この国道356号は、左折して進めば銚子へと至り、通称は「銚子道」(あるいは「佐原道」)と言われた旧道。

 沿道には瓦屋根の昔ながらの農家が点在しており、旧道の雰囲気が濃厚に漂っています。屋敷地はコンクリート塀で道路と隔てられているところもありますが、多くは生垣や屋敷林で囲まれており、常陸利根川左岸に見られたのと同様なたたずまいが見られたりします。

 「銚子 利根かもめ大橋↑ 下総橘駅→」の道路標示があり、それに従って右折すると、正面突き当りに「JR下総橘駅」がありました(16:38)。駅舎の右端奥からは、これから沈もうとする太陽のオレンジ色のまばゆい光線が、それほど広くない駅前広場に差し込んでいます。

 時刻表を見てみると、佐原方面行きの電車は16:43。次の駅が「笹川」で、その次が「小見川」。運賃は230円。逆に銚子方面は「下総豊里」→「椎柴」→「松岸」→「銚子」であり、「銚子」までの運賃は320円。

 もちろん崋山は、この「銚子道」を歩いたのではなく、浪逆浦(なさかうら)から常陸川を経て利根川本流に出て、そこから左手に「砂山」などを眺め、銚子から見て利根川対岸にある波崎でいったん上陸したあと、利根川を横断して銚子の町へと上陸するのですが、その銚子へはこの「銚子道」を歩いても、もうあとわずかということになります。

 JR総武線の「旭駅」までは480円。

 この「旭」には、総武線に乗って千葉から訪れたことがある。それは崋山が江戸川の行徳河岸の茶屋で出会い、木下(きおろし)街道で後になり先になり、そして鎌ヶ谷宿の旅宿「藤屋」で同宿となった「弥右衛門」という男が居住する、「椎名内(しいなうち)村」の場所を探るためでした。

 それは大震災の前のことであり、震災後、その「旭市」の九十九里浜沿岸も大津波による大きな被害を受けたことを知りました。

 あの「弥右衛門」は江戸から自分の村へ帰る途中で、崋山と知り合ったのですが、木下(きおろし)河岸から「茶船」に乗り、利根川を下って銚子か、あるいは小見川で船を下りたものと思われる。そしてそこから椎名内村へ陸行したのです。

 駅舎内の「とうのしょう観光マップ」によれば、「笹川駅」の黒部川寄りには「天保水滸伝遺品館」があり、また黒部川には「黒部川釣場」があって、「ふな・こい」が獲れるらしい。国道356号線は「いちご街道」とあって、その沿線は「いちご」が栽培されているところであるらしい。そういえば、歩いている時に「いちご」の直売店を見掛けました。

 16:43に銚子方面からやってきた電車に乗り、笹川駅を経て、小見川駅に到着したのが16:56。

 ホームの「名所案内」には、「初代松本幸四郎の墓 県指定史跡(善光寺境内)」「息栖神社」「佐藤尚中誕生地 県指定史跡 順天堂大学創立者」「大原幽学住宅 県指定史跡 道学を唱え地方民の啓発に努めた人」などの名所がびっしりと並び記されていました。

 小見川駅前に出て、予約しているビジネスホテルの場所を確認。まっすぐに進んで、右手に「和洋菓子」の「大和屋」を見て出た通りを左折すると、玩具店や人形店、飲食店などが軒を並べる、昔懐かしい「駅前通り」が現れました。

 かつての小都市の駅前商店街はこのようなものだったな、と訪れた人に懐かしく思い出させる典型的で小ぶりな駅前商店街でした。

 進むと左手に「魚平鮮魚」という看板が掛かる鮮魚店と、その右隣に「御中食 魚平食堂」があり、その向かいには「うなぎ佃煮 しそ巻 すゞめ焼」という看板が掛かる「高岡商店」がありました。

 鮮魚店では、店主の威勢の良い声が飛び交い、「すゞめ焼」の店頭では、串ものを焼いているおじさんの姿が見られます。

 その「魚平食堂」の先、左手へと入る路地入口の電柱に、「ビジネスホテル かまはる←」という標示があり、その奥を見ると「ビジネスホテルかまはる」という看板が見えました。

 そこが今夜宿泊するところ。

 2階建ての小ぶりなビジネスホテルですが、駐車場にはすでに車が数台停まっており、今しも車から下りた男性客が二人、玄関ロビーを入ろうとしています。

 入ってみると、壁に額縁に入った絵が飾られていたり、クラシックな調度品がさりげなく置かれていたりと、気配りされた瀟洒な雰囲気が漂っていました。


 続く


○参考文献
・『渡辺崋山 優しい旅びと』芳賀徹(朝日選書/朝日新聞社)
・『渡辺崋山集 第1巻』(日本図書センター)


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