うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

お日柄もよく~日本橋物語8~

2012年08月02日 | 森真沙子
 2010年8月発行

 江戸一番の商人の町、日本橋で細腕一本で生きる美人女将お瑛を取り巻く、男と女の愛情劇を描いたシリーズ第8弾。


第一話 消えた花嫁

第二話 美しい秘密

第三話 見果てぬ夢

第四話 迷い道

第五話 月下氷人

第六話 鬼女の詫び状
第七話 猫奉行

エピローグ 長編

主要登場人物(レギュラー)
 蜻蛉屋(とんぼ屋)お瑛...日本橋室町反物・陶磁器の商い
 お豊...お瑛の義母
 市兵衛...蜻蛉屋の番頭
 文七...蜻蛉屋の使い走り
 お民...蜻蛉屋の女中
 お初...蜻蛉屋の賄い、お瑛の婆や
 若松屋誠蔵...日本橋室町紙問屋の主、お瑛の幼馴染み

 大店山城屋に招かれたお瑛は、信じられない話を聞かされる。その日は、山城屋の娘の婚礼の日であるが、当の花嫁が行方知れずになった為、風貌の良く似ているお瑛に身代わりを務めて欲しいと言うのだ。
 花嫁は自ら姿を眩ませたのか、それとも勾引しなのか…。花嫁の身を案じながらも後に引けない山城屋の頼みに、お瑛は身代わりを承諾する。
 山城屋の娘の失踪事件を章ごとに語り手を変え、その日一日を追いながら、過去を顧みる。語り手が違えど混乱する事なく、自然な流れで違った視線から描く手法が新鮮である。
 前回、切なさも主入れもなく宇江佐真理さんの完勝と書いたが、土下座して詫びたい思いだ。宇江佐さんがどうのではなく、場面場面で主人公(語り手)を変えながら、これ程迄に完成度の高い作品は初めてである。
 特に「第四話 迷い道」のお珠(みよ)、隅田川甚五郎と、「第五話 月下氷人」のお染、明石屋辰二郎の件は目頭が厚くなった。是非とも隅田川甚五郎の後日談をスピンオフで描いて欲しい。
 そして最後の最後に語り手となった棚橋左衛門之丞国義。大きな人物である。この人の嫁が、お郁で良いのか否か。お郁に関しては、器量良し、分限者の娘をかたにきた、単なる嫌な娘としか捕らえられなかった。
 最後は相思相愛ながら、身分の違いから10数年を要してしまった。それでも国義は先妻の町江への思いは色褪せていないと、奇麗に纏めている。
 色仕掛けで男をたらし込もうとしたり、お郁には最後まで共感出来なかったが、誰ひとり不幸にはなっていないながらに、つのる思いを描いている素晴らしい作品と言えるだろう。
 お瑛さんは脇役。この物語は、「日本橋物語」シリーズを脱しても成り立つ話である。
 因にカバーイラストの花嫁を先導する男は、蜻蛉屋の藍半纏姿だが、物語上、この男は権八と思われ、正しくは船茂の半纏ではないだろうか。お瑛が身代わりとなってから蜻蛉屋は関わっていない。お郁は白無垢姿になっていない。とすれば、白無垢はお瑛であり、先導は、権八しかいない。
 何はともあれ、ほかの作品も購入した、読みたいシリーズとなった。

主要登場人物
 山城屋嘉次郎...上野池之端醤油問屋の主
 お郁...嘉次郎の娘
 お徳...嘉次郎の女房
 兵蔵...山城屋の番頭
 お粂...お郁の乳母、日本橋堀江町船宿船茂の女将
 権八...お粂の息子、船茂の船頭
 棚橋左衛門之丞国義...御勘定方、お郁の婚礼相手
 曲淵猪蔵...山城屋の用心棒夜番、元紀州藩お馬廻り
 乙吉...山城屋の用心棒昼番
 喜八...岡っ引き
 新川弥平太...定町廻り同心
 お珠(みよ)...山城屋女中(牛込漬物屋菊一女中→府中墓石屋養女)
 隅田川甚五郎...大道芸人
 枡屋伝兵衛...日本橋小網町行徳彼岸廻り塩問屋の主
 お染...伝兵衛の娘
 明石屋辰二郎(千住廻船問屋武蔵屋の倅)...新堀町下り塩問屋の次男
 町江...国義の先妻
 神崎蔵ノ介...国義の上役、町江の兄


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