明るく正しく強いブログ

朝昼晩、時間を問わず飲んで喰って面白おかしく過ごす人生を歩みたいです。※旧名「日が沈む前に飲む酒はウマい」

東京では初の「九州・福岡ラーメン」 小川『いし』

2024年08月24日 | ラーメン、つけ麺など
お盆前のとある土曜日の夕方。
西武線小川駅からほど近い、『百薬の長』で飲もうと思い、お店の付近まで行ってみたところ、店内の照明が消えている。 
どうやら、最近は水・土・日・祭が定休日になったらしい。 ※百薬の長・武蔵小金井店についてはこちら
実はその前に、萩山駅と八坂駅近くのお店にも足を運んだのだが、どちらも開いておらず(泣)。
クソ暑い中徒歩で移動したのに、3軒とも空振りという惨劇に落ち込んでいた、私の視界に入ったのが下記のお店。


ラーメン屋さんだけど飲み客が多い、『九州ラーメン いし』(←正式名)で飲ませてもらおう!
上記画像は、退店時に撮影したため空席が見えるが、入店時はほぼ満席で、ひとつだけ空いていた席に、なんとか入れてもらった。

先客の大半が飲んでいたので、私も心置きなく「ビール」700円と「餃子」500円を注文。
お店メニューは、厨房奥の壁に貼ってある。この他、夏季限定の「冷し中華」1000円もある。


あと、近くのおっちゃんが、「細切れチャーシューと紅生姜入りオムレツ」を食べていたが、あれは常連限定の裏メニューかな。

寺島進似(?)のダンディな男性店主が、アサヒの大瓶とコップを提供したのち、餃子を焼き始める。
キリン党の私だが、暑い中を歩き回った挙句、ようやく飲めたビールだ。ウマいに決まっている。
ちなみに、キリンもあるらしいが、この日はすでに売り切れていた。
数分後には餃子が焼き上がり、酸味のあるタレと一緒に登場。


1人前6個で、具材は野菜主体。自家製ゆえ、形がやや不揃いなのはご愛敬。


すぐにビールを飲み終えたため、メニューにはないが他のお客さんが頼んでいた、ウーロンハイを追加。
乙類焼酎で作るらしく、「麦と芋どっち?」と聞かれたので、麦でお願いしたところ、
いいちこのウーロン茶割りが出てきた。価格は「焼酎」や「ハイサワー」と同じ450円。


先客にもひととおり、ドリンクや料理が行きわたったようで、店主も端っこの席でひと休み。
こちらのお店に来たのは、このとき以来2度目だが、前回はラーメンを食べてすぐに退散したので、
せっかくなので今回は、店主といろいろとお話しさせていただいた。Qが私でAが店主だ。

Q「こちらは、東京で初めて九州ラーメンを出したお店になるんでしょうか?」
A「イヤ、新宿の『桂花』さんの方が先。ただ、あちらは熊本ラーメンだから、ウチとはちょっと違うね」
Q「そうでした。桂花が最初でしたね。では、久留米というか、福岡のラーメンはここが最初でしょうか?」
A「そうなるかな。創業した年? もうだいぶ前のことだから忘れちゃったよ(笑)」
調べたところ、開業は1973(昭和48)年。いずれにしても、数ヶ月前にここで取り上げた、
「九州・福岡スタイル」のラーメンを、東京で最初に出したのは『いし』さんのようだ

いしさんの歴史について簡単に説明。
ブリヂストンの東京工場が小平にできたとき、久留米の本社から、従業員が大量に引っ越してきた。
彼らは当然、故郷・久留米の豚骨ラーメンを欲したが、東京では出しているお店がない。
その頃、おなじく久留米から東京に出てきて、ブリヂストンとは別の仕事をしていた店主が、
知人に「久留米から来た従業員のためにラーメンを作ってくれませんか」と頼まれ、東京の福岡ラーメン1号店・いしを開業したそうだ。
屋号のネーミングは、店主の名字・石橋から。ブリヂストン創業者一族と同姓だが関係はないらしい。

Q「ラーメン作りの経験はあったのですか?」
A「奥さんの実家が久留米のラーメン屋さんで、学生時代、そこで4年間働いていた。
博多や長浜との違い? よく知らないけど、元祖は久留米だからね。自分が九州にいた頃は、長浜ラーメンはそんなに有名じゃなかった」
私も以前、福岡豚骨ラーメン発祥の地は久留米と聞いたことがある。

本場仕込みのラーメンは、久留米出身のブリヂストン関係者に大好評。次第に、九州豚骨になじみのない東京育ちのファンも増えていったそうだ。
A「最初にお店を出したのが、ブリジストン工場の近く。次に施設内のマーケットに移転して、今の場所が3軒目。
昔は朝から深夜まで、休む間もなくラーメン作っていたよ。おかげで遊ぶヒマもなかった」
まさにブリヂストンのタイヤと同様、客も回転しまくっていたのだろう(←ウマいこと書いたつもり)。

Q「東京向けに、味を変えたりしましたか?」
A「当初は久留米と同じように作っていたけど、匂いに苦情が出てね。だから途中から匂いを抑えるようになった。その分手間はかかるけど。
2度目の移転先となったここ(現店舗)も、近所の人に“匂いは大丈夫でしょうね”なんて釘を刺されたよ(苦笑)」
店内は確かに、独特の豚骨臭が漂っているが、提供しているラーメン自体に臭みはない。

別の客から、酒類の注文が入ったので、私もウーハイをお替わり。
ついでに、貴重なお話を聞かせていただいた、店主にも一杯飲んでいただこうと思ったが、その前に、
Q「営業中はお酒飲まないんですか?」
A「営業中どころか、酒はもう、50年くらい飲んでないよ」 
Q「そうなんですか! よかったら一杯どうぞ…と思ったのですが」
A「なんかの祝い事とかに呼ばれたときは、少しだけ口つけるけど、それ以外は本当に飲んでない。
ここのお客さんもオレが飲まないの知ってるから、誰も勧めてこないでしょ。若い頃は、ウイスキーなら一晩で1本半空けたけどさ」
そう言い終え、再び客席に戻ってきた店主は、ペットボトルの清涼飲料水で、喉を潤していた。

その後、常連客の団体から、「ラーメン4杯にチャーハン2皿」と、食事のオーダーが入り、店主は再び厨房へ。
このとき、店主と会話していた私に対し、「お話し中に悪いねー」と気遣ってくれた方がいて、「と、とんでもないです」と返答。
私の隣に座っていたお姉さまにも、「私たちうるさくてごめんなさい」と何度か謝られてしまい、恐縮してしまった。

居酒屋などで厄介なのが、テメエの店でもねえのに我が物顔で振舞い、新規客に自身が常連であることを誇示する客の存在。
そういう態度をとることよって、客が減って店がつぶれ、自分たちの居場所がなくなることに、気付かないのかね。
私の地元立川市は、そういう常連をたしなめるどころか、店側も一緒になって新規客を軽視する飲食店が多く、実に嘆かわしい。
その点、この日いしさんで飲んでいたお客さんは、ヨソ者かつ若輩者(皆さんよりは)の私を、邪魔者扱いするどころか親切に接してくれた。
「ウチに悪い客はいないよ。いたらオレが追い払うから」と語る店主さん自身も、気さくな好漢であり、
素晴らしい居酒屋に巡り合えて、久々に感激してしまった…あ、ここは飲み屋ではなくラーメン店だった(苦笑)。
ウーハイを何杯かお替わりし、酩酊してきた私も、シメのラーメンを作っていただくことに。

前回の注文は普通のラーメンだったので、今回はラーメン700円+大盛100円+生玉子100円にしてみた。
店主は麺を茹でる際、テボは使わず下記の平網(平ザル)を使う。


店主曰く、「麺は泳がすように茹でなきゃダメ。だからウチではテボは使わず、ずっとコレ(平網)」
「たまに、湯切りの時に声出したり、テボを振り回したりするお店があるけどさあ…」
以下は、店主が「ここだけのハナシな」とおっしゃったので割愛。まあだいたい想像はつくでしょ。
バカみたいなパフォーマンス(あ、書いてもうた)はせず、店主が真摯に作り上げた、久留米発祥の九州ラーメンがこちら。


具材はチャーシュー2枚、ネギ、紅生姜、茹で玉子のスライスに、追加の生玉子。
麺は、ストレートの細麺だが、一般的な博多・長浜ラーメンよりは太い。今回頼んだ大盛は、通常の1.5倍くらいか。


臭みのない豚骨スープは、粘度はないが旨味はしっかりあり、油が入るため熱々。紅生姜の周辺は、ピンク色に染まっていく。


白身が少し固まってきたところで、黄身ちゃんを崩し、麺に絡めて一気にすする。当然ながらウマい。


身体に悪いとはわかっているが、スープも飲み干し「ごちそうさまでした」。なぜだろう、初めて食べた時より美味く感じた。
大盛にしてバランスがよくなったのか、店主や周りのお客さんの温かさに触れたからか。おそらく後者かな。
私より先に来たのに、ずっと飲み続けている常連さんに「お先に失礼します」と挨拶し、店主にも「また来ます」と告げて退散。

そしてつい先日、今度は最初から、いしさん目当てに小川へ。
待望のキリンビールを注文したら、高菜のお通しもサービスに出てきた。


おつまみには「チャーシュ」500円を選択。チャーシュー6枚にネギ、おろし生姜、酸味のあるタレがかかっている。


この日も、店主とお話しさせていただき、彼はお酒だけでなく、東京の醤油ラーメンやうどんも食べたことはないと仰る。
「ラーメンはやっぱり、昔から食べている豚骨が好き。東京で食べたのは『どさん子』の味噌ラーメンくらいかな」とのこと。
昔の多摩地区には、『どさん子』や『どさん娘』の店舗が結構あったはず。  ※どさんこ両店についてはこちら

うどんも、地元福岡の柔らかいうどんが好きだそうで、「わざわざ九州から取り寄せて食べていた」そうだ。
小平周辺は、武蔵野うどんの名店も多いのだが、博多うどんとは相反する、ゴツゴツとした硬さが特徴だからねえ。
東京に出てきてから50年以上たっているが、店主の九州愛は変わっていないようだ。
その九州愛がもっとも表れているのが、こちらのラーメンなのだろう。
いろいろ質問してきた私に対し、店主は自身のラーメン哲学(?)について語ってくれた。
「匂いだけは出さないように変えたけど、スープの仕込み方も麺の茹で方も、すべて昔のまま。
久留米で習ったラーメンの作り方を、そのまま守り続けている。ただそれだけだよ
そんな店主のラーメンは、九州出身者だけでなく、多くの客の心をつかんできた。遅まきながら、私もそのひとりに加わった。

この日も、シメにラーメンをいただくことに。今回は並盛で、写真の茹で玉子を追加。


玉子の殻を剝き終え、完成したラーメンに投入(中央左)。さらに、残っていたお通しの高菜も加えた。


並盛にした理由は、メニューにはないけれど、店主が「できるよ」と教えてくれた、九州ラーメンでおなじみの「替玉」をするためだ。
最初の麺を食べ終え、紅生姜のピンク、高菜の黄色、そしてラー油の赤が混ざり、スープの色が混沌としてきたところに、


替玉が到着。価格はたぶん150円。推定1.5倍の大盛が+100円なので、適切価格である。


さきほど、「一般的な博多・長浜ラーメンよりは太い」と評した麺だが、太いだけでなく量自体も多い気がする。
なので、食べても食べても麺が減らず、酒も飲んでいたため、途中で満腹状態に。
それでも、残すことなく2玉の麺はたいらげたが、もったいないことにスープは残してしまった。
そんなワケないと思うが、「替玉って、最初の麺より多くないですか?」と店主にたずねたところ、「そんなワケねーだろ」と即答。あ、やっぱり(笑)。 
出っ張ったお腹をさすりながら、お会計を済ませ、この日もいい気分で店を出た。

数年前、いくつかの媒体の取材を受けた際、店主は「東京五輪までは頑張りたい」と語っていたようだが、
常連たちの熱烈な支持を受け、パリ五輪が終わった現在も、いしさんは昼から夜まで絶賛営業中である。
次のロサンゼルス、その次のブリスベンでも、常連客と談笑しながら真摯にラーメンを作り続ける、店主の姿が目に浮かぶ。



九州ラーメン いし
東京都小平市小川西町3-18-10
西武線小川駅より徒歩約3分 JRなら新小平駅から徒歩約18分
営業時間 11時~14時、17時~23時くらい
定休日 月、お盆、その他
コメント (2)
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