拝啓 夏目漱石先生

自称「漱石先生の門下生(ただのファン)」による日記

「プロフェッショナル」とは…

2007-01-20 20:51:05 | 漫画
今日は先日放送されたNHKの番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」の、浦沢直樹が出演した回の感想を。45分の番組だったが内容はとにかく盛りだくさん、「華麗ぱん」並みに濃密な番組だった。浦沢の仕事現場に潜入&密着取材、子供時代の回想、好きな音楽の話、大ヒットした『YAWARA!』から『Happy!』に移り変わる際の苦悩、そして昨年の春にファンを騒然させた『20世紀少年』連載休止の真相などなど…浦沢ファンなら必見の内容。でも「浦沢マニア」だったら「浦沢のヒーローがディランと手塚だなんて常識だろー」とか、「『MASTERキートン』の話題は無視かよ」と突っこむかもしれない。確かに浦沢直樹を語る上で『MASTERキートン』という作品の存在は避けられないけど、単行本が諸事情により出回っていないようじゃNHKも扱い様が無いしねぇ…。
今回の密着取材では一回分の連載のストーリー展開を考えるところから仕上げるまでの一週間の浦沢を追っていた。描かれたのは『PLUTO』の5巻に収録されるゲジヒトにまつわる超重要エピソード。番組を見て一番印象に残ったのは、各ページのコマ割りや構図や大まかな絵やセリフを考える「ネーム」という作業に没頭する浦沢だった。真剣な表情で紙と向き合い、ペンを片手に試行錯誤。描いた絵をじっと見つめる、「視力回復トレーニングを受けてる人」のような目の動きの速さはちょっと忘れられないな。紙を見ながら目をキョロキョロと動かし、迫力満点の画面を描くために己の努力を惜しまない。ゲジヒトが放つ重厚なオーラの秘密が分かった気になった。ペン入れも凄かったなー。鉛筆による下書きを済ませた原稿をインクで仕上げる作業。細い線や太い線を一本のペンで、力加減を操り巧みに描き出す様子は圧巻。あの技で以ってあの繊細な表情が生まれるのだ…。テレビの前で思わず「う、上手ぇぇぇぇ」と呟いてしまった。ていうかペン入れの前段階の下書きも凄かったわ。鉛筆描きでサッサカサ~とゲジヒト達を描いちゃうんだもん。そういえば浦沢は漫画を描いてる時、その描いている人物と同じ表情をしながらペンを動かしてしまうそうだ。苦渋の表情をしたキャラを描くなら自分もそんな顔をし、満面の笑みなら自分も描きながら笑顔に。これは浦沢だけじゃなく他の漫画家もよく言ってることだが(『編集王』という漫画に出てくる大物漫画家・マンボ好塚も凄い顔しながら漫画描いてたね)、浦沢漫画は苦渋の表情を浮かべたキャラが多いからなー…すんごい疲れるだろうな、顔が。『MONSTER』のヨハンを描いてる時の浦沢の顔、見てみたいもんです。怖そう。
もちろん20年近くも2本の同時連載を抱える売れっ子作家を続けた浦沢直樹の疲れが「顔」だけで済むワケがなく、昨年の春ついに本格的に体を痛めてしまい、漫画をバリバリ描ける状態ではなくなってしまったという浦沢。この体の異変が『20世紀少年』休載の真相である。ネタギレだとばかり思っていたが…身体的な理由だったらしい。とはいえ彼があの作品を今後どのように進めていくか悩んでいるのも事実。ミステリー漫画としてあの漫画を読み、とにかく「ともだち」の正体を解明して欲しいという読者に対し、「犯人探し」とはもっと別の次元の面白さを表現していこうとする浦沢、という図式に苦悩しているらしい。ただただ「ともだち」の正体や目的を知りたがる読者に対して浦沢自身はそこに物語の重点を置いていない、と。ここはテレビ見ていて「お、おい、今更バカなこと言うな…!」とずっこけてしまった。『20世紀少年』の人気が長年に渡る人気は間違いなく「ともだちの正体」というストーリー最大の謎によって支えられてきたと思うぞ…。春の連載休止の事を友人に話したら真っ先に「ともだちの正体は明かされた?」と聞かれたし。もしかして浦沢は「ともだち」の正体を曖昧なまま終わらせる気か?それゆえケンヂに「わからない」なんて言わせたのか?それだけは…マジにカンベンしてくれよ、頼むよ…。しかし浦沢は観客のブーイングに屈せずに己を貫き通したボブディランにならい、自分の描きたいものを描いていくことを信条にしてるみたい。うーむ…でもまぁ…素晴らしい結末を迎えてくれれば文句ないけどさぁ…でもなぁ…。
浦沢は番組の最後、「プロフェッショナルとは?」という質問にこう答えた。「締め切りがあること。その締め切りまでに最善の努力をする人」。この発言を聞いて真っ先に冨樫を思い出したのは言うまでもない。おい冨樫、聞いてるか?あの番組見てたか?浦沢直樹の言う「プロフェッショナル」像、間違ってるか?…早く仕事しなさいよ。

●今日の一曲
「TONIGHT」/LUNA SEA