その朝は霧の深い朝でした。
これから登るコンドル山の向こうから朝日が射し始め、峰の木立を通して霧を縫うように縞模様を描く日の光はいかにも「朝」です。
次第に霧が晴れ青空が輝きだすと、紅葉の色も輝きます。
こういう景色が私の住むナイアガラ周辺で見られないわけでもなく、特別収入が良いというわけでもないのに、当てにされている故の責任感みたいな感情に動かされて引き受けてしまうのは、やはり山村育ちの身として故郷の山への郷愁のようなものがあるからでしょう。
これだけの仕事ならどうと言うことは無いのに、とんぼ返りだナンダと慌しいと疲れも激しいし、家庭の事情もあって来シーズンは身代わりを探してくれるよう話してあるのですが本気で受け付けてくれてはいない様子。
人々は冗談交じりの楽しげな会話を交わしながら私の後に続いています。遠く海を越えてはるばるこの風景を見に来た人たちの「来て良かった!」と言う表情がこの仕事の一番のご褒美かもしれません。
ふと大きなブナの木の幹に熊の爪跡が幾つも、かなり高いところまで沢山付いているのが目に留まりました。決して新しい爪跡ではないので、近くに熊が居るとは考えられませんが、人々は目を丸くしてその木を見上げます。「熊がいるんですかァ、本当に?」
また、少し行くと今度は人間の落書きです。木の幹にナイフで日付や名前が彫り込まれています。
「これは人間の爪跡」
人間の残す爪跡は熊が食糧を求めて登った結果残る爪跡とは違い、自然を傷つける行為です。「これ、日本人ではないわね、ああ良かった」と言う声も聞こえました。一般に日本からの旅行者では、幹にナイフで落書きしている暇など無いのです。
このツアーだけはこの日時間にゆとりがあり、ちょっと贅沢な朝を過ごせました。
これから登るコンドル山の向こうから朝日が射し始め、峰の木立を通して霧を縫うように縞模様を描く日の光はいかにも「朝」です。
次第に霧が晴れ青空が輝きだすと、紅葉の色も輝きます。
こういう景色が私の住むナイアガラ周辺で見られないわけでもなく、特別収入が良いというわけでもないのに、当てにされている故の責任感みたいな感情に動かされて引き受けてしまうのは、やはり山村育ちの身として故郷の山への郷愁のようなものがあるからでしょう。
これだけの仕事ならどうと言うことは無いのに、とんぼ返りだナンダと慌しいと疲れも激しいし、家庭の事情もあって来シーズンは身代わりを探してくれるよう話してあるのですが本気で受け付けてくれてはいない様子。
人々は冗談交じりの楽しげな会話を交わしながら私の後に続いています。遠く海を越えてはるばるこの風景を見に来た人たちの「来て良かった!」と言う表情がこの仕事の一番のご褒美かもしれません。
ふと大きなブナの木の幹に熊の爪跡が幾つも、かなり高いところまで沢山付いているのが目に留まりました。決して新しい爪跡ではないので、近くに熊が居るとは考えられませんが、人々は目を丸くしてその木を見上げます。「熊がいるんですかァ、本当に?」
また、少し行くと今度は人間の落書きです。木の幹にナイフで日付や名前が彫り込まれています。
「これは人間の爪跡」
人間の残す爪跡は熊が食糧を求めて登った結果残る爪跡とは違い、自然を傷つける行為です。「これ、日本人ではないわね、ああ良かった」と言う声も聞こえました。一般に日本からの旅行者では、幹にナイフで落書きしている暇など無いのです。
このツアーだけはこの日時間にゆとりがあり、ちょっと贅沢な朝を過ごせました。