迷宮映画館

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オブローモフの生涯より

2011年02月26日 | ロシア映画シリーズ
今月のロシア文学館はかの二キータ・ミハルコフが、「機械仕掛けのピアノのための未完成の戯曲」の後に撮った作品で、前作で出演した役者が、これまた違った雰囲気で出演している。私的には、こっちの方が大変興味深かった。

原作は、19世紀半ばに書かれたもので、長編はわずかしかないイワン・ゴンチャーロフ。ロシアの古き良き時代というか、前世紀の遺物にしがみついている貴族の終焉の姿みたいなもんだ。
主人公は、イリヤ・イリイッチ・オブローモフ。領主階級の生まれで、いかにも田舎のおぼっちゃまとして育ち、何の苦労も知らない男。靴下も自分で履いたことがない!と、逆切れしながら、自分の生まれを呪うように威張っている。

都会に出て学校を卒業し官吏になるが、それも続かず、わずかになってしまった領地の収益を頼りに、ただひたすらベッドにしがみつく怠惰な生活を送る。それに見合って、どんどんと腹は膨れていき、いかにも愚鈍そう。そして、よくも寝れるもんだ・・・と、呆れるくらいに寝ている。

自堕落で、何もする気が起きず、無気力状態をオブローモフ主義とか、オブローモフ病とか言うのだそうが、その言葉を世に広めてしまったのはこの本の主人公の生活からだったそうな。
召使のザハールは、決して褒められた仕事ぶりではないが、イリヤに罵声を浴びせながら忠義を尽くす。

イリヤの幼馴染、親友のシトルツが訪ねてくる。彼はイリヤとは正反対。エネルギッシュで、活力にあふれ、仕事もガンガン取り組み、社交界にも広い。ベッドから出ようとしないイリヤを無理やり引っ張り出し、いろんなところに連れていっては、さまざまな人に紹介する。

それを一番苦手としているイリヤにとって、それは苦痛でしかないのだが、シトルツは、イリヤにとっていいことと信じて疑わない。そして、女友達のオリガを紹介する。最初の出会いは、最悪。場馴れしてないイリヤは、どこに行っても失敗ばかり。オリガの前でもいつもの愚鈍な様子をさらすが、それでもシトルツのしつこいまでの付き合いに、徐々に親密になっていく。

シトルツはヨーロッパに行くことになった。イリヤも連れて行こうとするが、彼はとどまる。ちょっと油断すると、すぐさま元の生活にもどりそうなイリヤを心配して、オリガに彼を頼んでいく。イリヤとオリガの間に、恋愛感情が生まれてくるのも自然の流れだ。

自分は変わった。活力にあふれている。かつての自分ではない。オリガに求婚し、新しい生活を始める勇気も出始めた・・・。そして、お互いの気持ちを確かめ、二人は結婚する・・・と、思いきや、そこにヨーロッパからシトルツが帰ってくる。

今の状況も、オリガの様子も、イリヤのこともすべて知っていたシトルツ。オリガは、シトルツにすべてを教えていた。そこで、イリヤははたと自分を顧みる。自分などといて、オリガは幸せになろうはずがない。自分がオリガを妻にしようなどと何を思いあがっていたのか。自分と結婚することがオリガの幸せではない・・・と。

うう、なんでそうなる・・・。そんな風に思ってしまうのか・・。と、最後の自虐的なイリヤの決断に軽いショックを覚えたのだが、それこそが19世紀半ばのいかにものロシアの貴族の姿なのかもしれない。怠惰この上なく、自堕落で、自分では何もできず、それでいてあがいている。そんな姿の象徴のようなオブローモフだった。

さて、中村先生のお話によると、本作と原作は少々色合いが違うそうな。絶対に間違っても原作を読むことはないと思うので、お話は貴重なもんになるのだが、怠惰な様子は、本のまま。500頁ある本で、80ページまでは、イリヤは寝ているとのこと。映画では、先生によると、35分までベッドにいたそうな。それがまさにオブローモフなのだ。

そして、精力的に動き出し、オリガと心を通わして行く流れが、何と言っても本の一番いいとこだとか。映画の中で時折挟まれるイリヤの幼いころの様子。のどかな田舎の風景、農奴たちもみな楽しそうに、ゆったりと、昼寝や他愛のない会話を楽しむ世界。まさに古き良き時代。二度と帰っては来ないであろう世界。そんな世界を描こうとしていたのではないか・・・ということ。

ミハルコフの映画というと、パワフルなイメージがあるのだが、若いころの映画の方が老成しているような気がした。

「オブローモフの生涯より」

原作 イワン・ゴンチャロフ
監督 ニキータ・ミハルコフ
出演 オレーグ・タバコフ エレーナ・ソロヴェイ ユーリー・ボガトィリョフ アンドレイ・ポポフ アバンガルド・レオンチェフ


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