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チェチェンへ アレクサンドラの旅

2012年10月23日 | ロシア映画シリーズ
よっこらしょ!っと歩くのも億劫そうなおばあちゃん、アレクサンドラ。軍人の孫に会いに基地までの旅に出た。軍用列車に乗り、数時間。そのあとも装甲車みたいなのに乗せられ、やっとの思いで孫のいる基地に着く。

ほこりっぽく、蒸し暑く、厭世観が漂っている。久しぶりに会った孫は、疲れ切った様子で、くたびれた軍服をまとっていた。休む暇もなく、巡回に行く孫を見つめるアレクサンドラは、薄汚れた基地をめぐり、若い兵士たちと他愛のない会話を交わす。

基地の隣にある市場に行くことにしたアレクサンドラは、検問の兵士たちにたばことお菓子を買ってきてくれと頼まれ、市場に向かう。目に入ってくる街の様子は、無残なまま。砲撃を受けて半分崩れ落ちたビル、めくれ上がった道路。いまだ生々しい戦闘の傷跡が見える。

市場にいる人たちにも、いろいろな温度差がある。ロシア人には、何も売れないと、憎しみの目を向ける若者。自分は教師だったと流ちょうなロシア語を話す婦人。お金なんかいらないと、たばことお菓子を持たせ、家に招く。その家は、砲撃を受けたあとも生々しい崩れかけたビルだ。意気投合する二人。ロシアに訪ねてきて!とアレクサンドラは言う。

基地に戻ったアレクサンドラは、今度は遠い戦地に行く孫と別れる。乾いた戦争。じゃりじゃりと砂を食んでるような日々。残るのは、憎悪と廃墟と別れ・・・・・。

と、こんな感じかなあ。いつもながらソクーロフの多くを語らず、ゆったりと静かな語り口は同じだ。戦場が舞台なのだが、銃の一個も飛び交わず、激しい砲撃も全然ない。でも戦争はなにももたらさない。それを静かに語りたかった・・のではないかと思ったのだが、いつものように先生のお話。解説を述べる。

この映画の原題は「アレクサンドラ」のみで、副題に「チェチェンヘ」とつけたのは、どこか外国で上映した時につけられたらしい。「チェチェンヘ」となってはいるが、映画の中で、はっきりとチェチェンと限定されているわけではなく、戦争一般を問題視していると。でも、映画を見ている限り、チェチェンを考えずにはいられないものになっている。

チェチェンは北コーカサス地方にある小さな国。チェチェン共和国と呼ばれる。ソ連邦から独立運動を展開したが、ロシア連邦からの独立を認められず、激しい独立運動が継続されている。



1995年にロシアが侵攻し、激烈な戦闘が行われた。そのとき、独立派は山岳地帯に逃げ込み、徹底的に抵抗を続けたが、タカ派のプーチンが大統領になって、独立派を徹底的に攻撃し、ほぼ殲滅したといわれている。その後、国内の治安維持のために派遣された軍隊が今回の映画に出てきた軍隊で、一応の戦闘の終息の後、散発的な掃討に出かけるという役目を担っている。それが舞台になっている。

映画の中で、アレクサンドラはバザールに出かけるが、兵士も市民も思いは複雑で、そこにいるのはロシア人だったり、チェチェン人だったりと、国全体が複雑な構成をなしており、ステレオ的には言えない難しさがある。

一般的には、チェチェンという小さな国が、大きな大きなロシアに抵抗しているということで、同情的にみられることが多いのだが、チェチェンの中にも多くのロシア人がおり、一口にロシア対チェチェンという単純な構造ではないのが、この戦闘であったことも知っておくべき。

映画の最後は、アレクサンドラが自分の家に帰るために列車に乗る。それを見送りに来たバザールであった女性たちと別れるシーンが映される。前日、お茶をごちそうになった女性もその中にいて、抱き合って別れたあと、その女性はそっぽを向く。ちょっとだけあった女性たちは、いつまでも手を振って、別れを惜しむのだが、非常に対照的だ。

それはいったい何を表しているか。この戦争をどうにもまとめられないロシア人の複雑な気持ち。白黒つけるわけにもいかない。心を通わせたと思った女性はそっぽを向き、今あったばかりの女性に手を振る。結論を見いだせず、明確にできないラストは、ロシアとチェチェンの関係そのもので、あえてまとめずに、ヒリヒリとした状態こそが今のチェチェンなのだ、としたかったのではなかろうか。。。。と。

映画は落ち着けどころがなく、あやふやに終わらせているが、その作り方こそが誠実であり、答えが見いだせない状況をそのまま、素直に作ったのではないかと感じたということ。いまだにきっちりとした終わりが見えない現状を表している映画である。

自分が感じたものと、当たらずとも遠からず・・といった感じだったが、やはりチェチェンの戦いに対しては、判官贔屓といった感を持っていた。しかし、必ずしもそう捉えるべきではないのだということがあるらしい。チェチェンの市民は、すべてが独立に賛成なわけでもなく、チェチェンの母たちと呼ばれる人たちは、兵士たちを説得し、戦線から離脱させようとした時期もあったそうな。また独立派を全面的に支持していたのでもないと。

その結果、戦争は何ももたらさなかったのだということは、人類に歴史が嫌というほど示しているのに、なぜ人は戦争をやめられないのか。いつも堂々巡りになってしまう。。。

「チェチェンヘ アレクサンドラの旅」

監督 アレクサンドル・ソクーロフ
出演 ガリーナ・ヴィシネフスカヤ ワシーリー・シェフツォフ ライーサ・ギチャエワ


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