迷宮映画館

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ブラザーフッド

2004年06月28日 | は行 外国映画
ソウルに暮らすジンテとジンソクの兄弟。幼くして父を失った兄弟は、病気のために口の利けなくなった母を助け、兄が一家を支えていた。靴屋になるという夢を成し遂げるために靴磨きをし、病弱だが、将来有望な弟を大学にやろうと、とにかく、がむしゃらに働いていた。

ジンテは、秋にはヨンシンとの結婚を控え、幸せいっぱいのはずだった。何の障害もなかった一家に、いきなり暗雲が立ち込めた。朝鮮戦争の勃発だった。1948年に成立した南北それぞれの国は、互いの主張を譲らず、北側が突如、武力による統一をはじめたのだった。圧倒的な兵力に勝る北側は、怒涛の進撃でソウルをあっという間に占拠する。ソウルの人々は、やっと日帝の支配が終わったという安堵もつかの間、家を追われてしまう憂き目に遭う。

ジンテ一家も婚約者の家族とともに、南の町に疎開しようとする。その頃、兵力の足りなかった南の軍に、弟のジンソクが強制的に徴兵させられてしまう。あまりに不合理だが、有事というのはこういうことだ。一家から一人の徴兵のはずだったが、ジンテは弟を守るために自ら軍に加わることを志願する。

同じ民族同士が、壮絶に戦った戦争が朝鮮戦争である。しかし、教科書にもそんなに大きくさかれている項目ではない。日本が朝鮮半島を植民地にしたのは1910年のこと。その時点からおぞましい支配が始まった。土地の収奪、創氏改名、強制連行、従軍慰安婦、数限りない仕打ちの末に、第二次世界大戦が終わり、支配が解かれた。しかし、日の丸が降ろされたあとに揚がった国旗は太極旗ではなかった。南に上がったのは『スター&ストライプ』、北に揚がったのは『槌と鎌』の赤い労働者の旗だった。

どうしようもない歴史の流れが起こしたイデオロギーの対立は、そんなこととまったく関係のないごく普通の市井の人たちを巻き込む。幸せいっぱいの人々を地獄に突き落とす。しかし、それが戦争の現実なのだ。先ず、その悲劇の現実を一番先に描く。

次に描かれるのは実際の戦争である。いまや、韓国の若い世代の人々にも忘れ去られている朝鮮戦争だそうだ。50年も前になってしまった。でもやられたことは忘れない。被害者は絶対に忘れない。日帝にやられたことは忘れない。にっくき敵は日本人。でもこの戦争の敵は同胞だった。同胞が少ない武器を使い、肉弾戦で戦いあった。イデオロギーの対立が戦争の名分だったなんて、何人の人が本当に理解していただろうか。ろくな訓練もないまま、いきなり戦場に送り込まれる。アカを倒せ!といわれる。じゃ、アカとは何か?とにかく敵だ。お前はアカか?こんな戦いが延々と続くのだ。このあまりに哀しい戦争は「忘れられない」を通り越して、忘れでもしなければ、これから自分達は生きていけなかったのではないかとも思わせるのだ。

兄はひたすら弟を守ろうとする。弟のために出世して、弟を除隊させようする。そのためにはどんなことでもする。自分の命など厭わない。その姿を見て、弟は頭ではわかっても、どうしても許せない。何で自分なんかのためにそこまでするんだよ。いいんだよ、おれなんか。俺のせいで別の奴が死んだじゃないか。奴には妻も子もいるんだ。兄さんありがとう、でもダメだ。許せない。そんなやり取りも痛いほどわかる。そんな不条理が生まれるのも戦争なのだ。

とにかく熱い。韓国映画が持つ熱いエネルギー。これは微妙で、ちょっとはずすとトンでもないことになってしまうのだが、この映画で描かれる熱情は万民がわかる。これはすごい。胸に突き刺さる。そして、その強い力を持った彼らがぶつかり合った戦争というものが、どんなだったのか、見えてくる。どの戦争でもそうだろうが、憎しみに駆られ、復讐心に燃え、想像もできないくらい残酷になってしまう人間。あのパワーを秘めた人々が戦った戦争なのだ。その悲惨さは容易に伝わる。そのストレートな哀しみがあまりに哀しくて、私に突き刺さってしまった。

母が子を思う純粋な気持ち、兄弟の普遍の絆、戦争がもたらした想像を絶する悲劇を私は素直に受け取った。涙をこらえることができなかった。主役の二人はいわゆるアイドル系の役者だが、そんなことは関係ないくらいの強さだ。これはぜひ多くの人に見てもらいたい。この悲劇の根本原因を考えながら、ぜひ見ていただきたい。

『ブラザーフッド』

原題「Tae Guk Gi(太極旗を翻して)」 
監督 カン・ジェギュ 出演 チャン・ドンゴン ウォンビン 2004年 韓国作品


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